【スプリンターズS】安土城Sで強烈に突き抜けたママコチャが本命候補 穴はメイケイエールとキミワクイーン
山崎エリカ
ⒸSPAIA
ペースが上がりやすい舞台に逃げ馬が揃う
スプリンターズSが行われる中山芝1200mは、外回りの坂の頂上付近からスタートし、約4.5mの坂を下って行くコース。このため快速馬ほどスピードが乗りやすい。さらに3~4角のカーブが緩いため、下り坂で加速がついたまま4角に進入することが多く、もうひと押しのところで快速馬が失速し、差し馬が台頭することが多い。
過去10年でも逃げ馬は2着3回、3着1回と一度も勝っていない。また逃げ馬の2着3回はハクサンムーン、ミッキーアイル、モズスーパーフレアで、3頭は高松宮記念でも2着以内の実績がある馬たちだ。この傾向は前半からスピードが乗ってしまう超高速馬場の時のほうが顕著。開幕週から馬場が絶好だった今開催の中山芝1200mは、8レース中新馬戦の1レースしか逃げ切りが決まっていない。
その上で今回はジャスパークローネ、テイエムスパーダ、モズメイメイと逃げ馬が揃ったとなると、かなりのハイペースが予想される。北九州記念は前記3頭とスティクスの逃げ馬が揃った中でジャスパークローネが楽々と逃げ切った。しかし、今回はテイエムスパーダの行きっぷりが復活していること、同馬が内枠に入った点が厄介だ。
能力値1~5位の紹介
【能力値1位 ママコチャ】
6走前の2勝クラスをOP級の指数で勝利した実力馬。さらに前々走の安土城S(OP)は、重賞通用級の指数で圧勝した。前々走は12番枠から好スタートを決め、様子を窺いながら2列目の外を追走。3~4角でもペースが上がらず、外々を回るロスが生じたが、直線序盤で一気に2馬身突き抜け、ラスト1Fでは楽々と突き放して3馬身差の完勝だった。
そして前走の北九州記念でも9番枠から好スタートを決め、ここでも様子を窺いながら好位の外々を追走。3~4角を好位の外からロスを作りながら4列目で直線へ。直線序盤で3列目、ラスト1Fで逃げ込みを図るジャスパークローネとあった4馬身差を徐々に詰めたが、半馬身差の2着までだった。
前走は前々走から指数を下げる形での2着。3~4角の外から勝ちにいってややふわっとする場面があったことから、休養明けの影響があったはず。本馬が前々走で記録した指数は、ピクシーナイトが優勝した2021年スプリンターズSと同等なもの。ひと叩きされての本馬の前進に期待する。今回の本命候補だ。
【能力値2位 ジャスパークローネ】
現在CBC賞と北九州記念を逃げ切り勝ちし、重賞2連勝中の馬。前々走は10番枠から好スタートを決め、かなり押して内に入りハナを主張。そこからは上手くペースをコントロールしてマイペースの逃げ。3~4角で最短距離を通り、4角でペースを引き上げ後続に1馬身差3/4差で直線へ。内ラチ沿いからしぶとく粘り、サンキューユウガの追撃を半馬身差で振り切った。
本馬はそこまでテンの速い馬ではなく、前走はスティクスやモズメイメイ、行きっぷりに復調気配を見せていたテイエムスパーダを相手にハナを主張するのは難しいと見ていた。しかし15番枠から好スタートを決め、内から抵抗するスティクスをあっさり制して楽々とハナを主張。道中はそのままペースを引き上げ、3~4角でも緩めず、4角出口で後続を離して2馬身半差で直線へ。直線序盤で3馬身差まで差を広げ、ラスト1Fで外から伸びるママコチャらの追撃を半馬身差で振り切った。
前々走から団野騎手に乗り替わり、テンから行き切ったことで前走時は行きっぷりが変わった。序文でも触れたように今回は同型馬が揃っているが、行く気になればハナを主張できるはず。しかし、逃げてこそのテイエムスパーダが内枠に入ったとなると、抵抗して先行争いが激化する可能性が高い。3走前はテイエムトッキュウが内から抵抗し先行争いが激化した結果、最下位の16着に敗れた。このことから地力をつけているにせよ不安がある。
【能力値3位 ナムラクレア】
今年は4走前のシルクロードSと前走のキーンランドCを制し、重賞4勝を達成した馬。4走前は2番枠から五分のスタートを切ると、軽く促して中団中目を追走。3~4角ではファストフォースをマークし、4角出口でその内を突いて3列目で直線へ。直線は同馬と互角のしぶとい伸びで叩き合いになったが、最後はアタマ差捻じ伏せた。その2着ファストフォースが次走の高松宮記念を制しているように、シルクロードSはなかなかのレベルだった。
前走は14番枠からやや出遅れ。そこから促されたが窮屈になり中団外目を追走。3~4角で徐々に好位の外まで押し上げ、3列目の外で直線へ。そこから2列目まで上がり、ラスト1Fで大外から前をしっかり捉えて1馬身差で完勝した。
前走は札幌14日間開催の12日目で馬場の内側が悪化して、外差し有利の馬場。さらに6レース前に大雨が降った影響でかなりタフな馬場で、外枠で差し馬の本馬にとっては絶好の流れだったが、浜中騎手らしく3~4角でかなり強気の仕掛けで優勝したことは褒められる。
しかし、休養明けで消耗度の高いレースを優勝したとなると、今回で余力を残せていないはず。本馬が唯一、掲示板を外したのは高松宮記念で勝負に行った後の前々走ヴィクトリアマイルのみ。成績に安定感のある馬だが、今回は前走から指数ダウンする可能性が高いと見ており、評価を下げたい。
【能力値3位 アグリ】
今年の阪急杯で重賞初制覇した馬。同レースは11番枠からまずまずのスタートを切り、二の脚で一旦先頭に立ったが、内のメイショウチタンがかなり抵抗したため、同馬を行かせて2番手外からプレッシャーをかけて行く形。3~4角でも同馬から半馬身差の外につけ、直線序盤で楽々と競り落として先頭。そこから差を広げて後続に1馬身1/4差。それに食らいついてきたダディーズビビッドにアタマ差まで迫られたが、3着馬に2馬身半差を付けての完勝だった。
しかし、本馬はその次走の高松宮記念で2列目の外を追走し、3~4角で外から先頭列に並びかける勝ちにいく競馬で、ラスト1Fで失速して7着に敗れた。これは休養明けの阪急杯で自己最高指数を記録した反動によるものが大きいだろう。それでも極悪馬場で差し、追込馬が1~6着を独占する結果の中、先行馬で最先着と負けて強しの競馬だった。
秋の始動戦となった前走セントウルSは2着。前走は8番枠から五分のスタートを切ったが、出足がひと息で後方からの追走。道中は後方の内目で脚を温存し、3~4角で外に出さずに最内から直線へ。序盤で中団馬群の中目のスペースを拾いながら外へ誘導。ラスト1Fで外に広がって行く2番手争いを大外から切り裂いて単独2番手まで上がり、逃げ切りを図るテイエムスパーダに1馬身差まで迫った。
前走は強烈な脚を使ったが、好タイム決着を3~4角で最内を立ち回り、直線でスピードを削がずに上手く外に誘導した鞍上の好騎乗もあった。ただ出脚があまり良くなく、後方に下がってしまった点がやや不安。さすがに今回で好位を取るのは難しいだろう。今回も後方で展開に恵まれる可能性はあるが、前走で本来の先行力が見せられなかった点は割引が必要だ。
【能力値5位 ピクシーナイト】
3歳夏のCBC賞で2着に入ると、そこから勢いに乗りセントウルS2着、スプリンターズS優勝と、3歳馬の上昇力で一気にGⅠホースとなった。本馬が優勝した2021年スプリンターズSは4番枠から五分のスタートを切り、二の脚の速さで楽に好位から3番手の最内まで上がって行く形。3~4角でじわっと仕掛けて前の馬とのスペースを詰め、直線序盤で捌いてひとつ外に出されると、ラスト1Fで突き抜けて2馬身差で完勝した。
しかし、その次走の香港スプリントでは落馬事故に巻き込まれ転倒し骨折。そこから流れが反転してしまったようで、長期休養から復帰した今年の3戦は13、8、8着と苦戦している。苦戦の理由は以前のように前のポジションを取れなくなったことにあるが、前々走の京王杯SCは序盤でコントロールして好位の中目で包まれたため、前半3Fタイムは速くはないが、行きっぷりに復調気配を見せていた。
休養明けの前走セントウルSは超絶高速馬場で内と前が有利の流れ。出遅れて中団後方の外まで挽回したが、位置取りが後ろ過ぎたことが致命的となった。それでも見せ場を作って欲しかったのが本音だが、近2走は良くも悪くもない内容だけに、見限れない。
穴馬はメイケイエールとキミワクイーン
【メイケイエール】
昨秋のセントウルSを優勝し、メンバー中最多の重賞6勝を達成した馬。同レースは5番枠からやや出遅れたが、そこから促されると二の脚の速さで好位の中目で流れに乗った。このレースは前がペースを引き上げたことで折り合いに苦労せず、スタミナを温存できたため、3~4角で好位の外から直線序盤で抜け出し、そこから突き抜けて2馬身半差で圧勝した。
同レースの2着馬は翌年の高松宮記念を優勝するファストフォース、5着は今年のヴィクトリアマイルを勝ち、安田記念を連覇したソングライン。そういった強豪を負かしているように本当に強かった。その次走スプリンターズSも激流で、レースの流れ自体は本馬に向いたが、二走ボケで本来の能力を出し切れなかった。
また前々走の高松宮記念は5番枠から出遅れ、そこから促してスピードに乗せて好位の中目を追走したが、馬場悪化で馬群が凝縮していたため、コントロールに苦労。さらに4角でも進路を取れないまま直線へ。直線序盤でやや窮屈になり、立て直しを図ろうとしたが一気に下がって中団。最後は外に出したが良いところがなく12着に敗れた。
本馬のような折り合い難の馬にとっては、今年の高松宮記念のような時計の掛かる馬場での実質ハイペースは最悪。しかし、ペースが速くなる高速馬場なら、実質的にそこまでハイペースにはならないので対応可能だ。
現在の中山芝はさすがに1分06秒2で決着した昨年のセントウルS(中京開催)ほどの高速馬場ではないが、前へ行く馬がレースを引っ張り1分07秒台後半の決着にはなりそう。それくらいの速い決着なら折り合いも付くだろう。
【キミワクイーン】
今年の函館スプリントSの覇者。同レースは15番枠からまずまずのスタートを切ったが、促されてもあまり進んで行かず、先行争いが激化したこともあり、じわりと下げて後方からの追走。3角では後方の外目から押し上げ、4角出口で中団の外に出されると、直線序盤でジリジリ伸び始め、ラスト1Fでしぶとく前を捉えて完勝した。
開幕週で行われる函館スプリントSは例年超高速馬場で、好タイム決着になることが多い。しかし、今年は前日の前半が稍重でそこまで高速馬場ではなく、ジャスパークローネがハナを狙うところを内からテイエムトッキュウが抵抗したため、先行争いが激化。このため前半3F33秒0-後半3F35秒2のかなりのハイペースとなったため、前が崩れて差し、追い込み有利の展開になった。
本馬はもともと先行馬だったが、前々走で完全に脚質転換を遂げた。遂げたというよりは、前に行けなくなっているという表現が正しい。前走のキーンランドCは4番枠からやや出遅れ、そこからある程度は促したが、徐々に下がって後方からの追走。3~4角では馬場の悪化した最内に狙いを定めるしかなく、そこを通って7着に敗れた。今回は前々走と同じ15番枠で、差し、追込向きの展開になる可能性が高いだけに、上位争いを期待したい。
※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ママコチャの前走指数「-20」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.0秒速い
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補
ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。
《関連記事》
・【スプリンターズS】上位人気のアグリ、ナムラクレアは消し メイケイエールの復活を期待
・【スプリンターズS】複回収率179%の穴男、距離短縮ローテに悲願かける牝馬…… データで導く穴馬候補3頭
・【スプリンターズS】過去10年のレース結果一覧
おすすめ記事