【神戸新聞杯回顧】サトノグランツが父系三代の菊花賞制覇へ好発進 使いながら戦法を変えるファントムシーフの可能性
勝木淳
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京都新聞杯と神戸新聞杯制覇
2000年に京都新聞杯が菊花賞トライアルから春のダービー東上最終便になり、神戸新聞杯が関西圏唯一の菊花賞トライアルになって以降、京都新聞杯の勝ち馬が神戸新聞杯に出走したのは13回あり、【0-2-1-10】(取消含む)。2着は00年アグネスフライト、21年レッドジェネシス、3着は04年ハーツクライ。00年、04年は阪神芝2000mであり、21年は京都新聞杯と同じ中京芝2200mのため、阪神芝2400mの神戸新聞杯好走は今年のサトノグランツが初めてであり、京都新聞杯、神戸新聞杯どちらも制した最初の馬となる。
そもそも京都新聞杯を勝っていれば、秋も賞金面は十分で、神戸新聞杯を勝つ必要もなく、権利を獲得する意義もない。ひと叩きといったニュアンスが強く、今年まで神戸新聞杯未勝利だったのもうなずける。ただサトノグランツは父サトノダイヤモンド、その父ディープインパクトが菊花賞馬であり、神戸新聞杯の勝ち馬でもある。まずは神戸新聞杯で父系三代制覇を達成し、その先の菊花賞まで視野に入ってきた。ロマンを追い求めた勝利という裏のテーマもあったような気がする。
サトノグランツ、父系三代菊花賞制覇へ
レースは好発を決めたファントムシーフが先頭に立つという意外な並びではじまった。当然、ファントムシーフの先手では速く流れるわけがない。前半1000m通過1:01.2と遅かった。後半は残り1000mから巧みにギアチェンジ。12.0-11.6-10.7-10.9-12.0と理想的にペースを上げて、4コーナー手前から坂下まで10秒台を続け、物理的優位がないと上位に来られない流れをつくった。
サトノグランツの4コーナー8番手はギリギリで、それでも究極に近い末脚を使わないと勝てない状況だった。だからこそ、勝ち切ったサトノグランツの切れ味は高く評価できる。父サトノダイヤモンドは瞬発力はあったが、少し緩いタイプで、坂で少し鈍ることがあった。急坂でも伸びたサトノグランツは父譲りの瞬発力に力強さが加わっている印象で、楽しみだ。3歳秋に強くなる菊花賞馬の血らしく、京都新聞杯よりも明らかに力をつけている。
スタミナ証明サヴォーナと戦法不気味なファントムシーフ
2着サヴォーナはファントムシーフの逃げを巧く利用した。目標にしてきっちり競り落とし、菊花賞出走の権利をつかんだ。さすがに10.7-10.9で先頭争いを演じた分、最後はキツくなったが、青葉賞6着よりは明らかにパフォーマンスを上げた。前走芝2600mの信夫山特別は、そこまで速い上がりを必要としないスタミナ比べに近い競馬だった。ゆえに本レースで速い上がりに対応できたのは大きい。菊花賞は2周目下り坂でペースアップし、スタミナも速い上がりも問われる舞台であり、どちらにも対応できそうな雰囲気はある。
3着は逃げたファントムシーフ。結果的には速い上がりに最後まで対応できなかったが、それを発見したことで次は出方が変わってくるだろう。高速馬場だと最後で鈍る産駒が多いハービンジャーだけに3000mではそういった展開に持ち込ませない可能性は高い。次も逃げるとは思えないが、好位からレースをコントロールすることはあり得る。使いながら戦法が固まってくる感じは、混戦のクラシックでは不気味な存在になるだろう。
1番人気ハーツコンチェルトは5着。中団の後ろから外を通って末脚を確認するような競馬だった。そこそこの末脚こそ使っているが、本来は上がり33.6の高速決着は合わないだけに、敗戦は納得できる。この一戦で評価は決められない。ダービーのように早めに動き、ロングスパートで力を出し切る形がベストで、本番は出走できればそんな競馬を仕掛けてくるだろう。
ハーツクライは菊花賞7着で産駒も【0-1-0-15】。11年オルフェーヴルに敗れたウインバリアシオンしか好走がない。3000m超はギュスターヴクライ、アドマイヤラクティ、フェイムゲーム、シュヴァルグランなど重賞ウイナーも出しており、決して苦手ではない。一方、京都の芝3000m超に限ると【0-6-5-35】と勝っていない。京都の下り坂が苦手なようだ。ハーツコンチェルトは菊花賞出走が叶えばそれを乗り越え、ハーツクライ産駒の京都3000m超初勝利をあげられるだろうか。これもまたサトノグランツの父系三代菊花賞制覇と同じく、血のロマンがある。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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