【ラジオNIKKEI賞】西村淳也騎手の手綱さばきが冴えわたる! エルトンバローズは今後も中距離の小回り重賞で期待
勝木淳
ⒸSPAIA
まだまだ続く西村淳也騎手の好循環
エルトンバローズが未勝利から3連勝で重賞制覇を決めた。このレースはクラシック級の2000mでもマイルでもない1800mという距離設定が曲者だ。過去10年で前走1勝クラスのマイル戦を勝ちあがった馬は未勝利。このパターンで勝ったのは12年ファイナルフォームが最後だった。わずか200mであっても、コーナー4回で中距離寄りのレースを下のクラスを勝って勢いそのままに。というのは案外堪えるのではないか。勝ったエルトンバローズは好位で流れに乗る立ち回りからも、シフトチェンジを難なくこなした。まずはこの点を評価したい。
そして導いた西村淳也騎手はエルトンバローズに騎乗して3戦無敗と手が合う。デビュー6年目の西村淳也騎手は今年上半期39勝をあげ、重賞はダイヤモンドS、マーメイドSの2勝。開催別の成績内訳をみると、冬の小倉14勝などローカルで頼りになるのは相変わらずだが、京都5勝、阪神5勝など中央場所でも結果を残しはじめ、さらにもう一歩先へ進んだ印象がある。
エルトンバローズも春の阪神で新パートナーに指名され、京都で連勝した。主要場での信頼を背景に夏のローカルで重賞を勝つ。西村淳也騎手の好循環は続くだろう。春の福島【3-2-1-6】や1日だけ参戦した函館【2-1-3-3】など、これまでローカルで培ってきた位置取りの巧さや馬場読みが、同騎手最大の武器だ。特に6/11函館後半1、1、3、2、3着は3、1、9、5、7番人気でのもの。夏男を味方に夏競馬を乗り切るのも手だ。この5レースは芝の短距離、中距離、ダート1700mとバラバラながら、すべて4コーナー4番手以内と、とにかく位置取りが的確だった。
エルトンバローズはそんな西村淳也騎手の良さと見事にマッチした。皐月賞を逃げたグラニットに対し、好発から隣のシルトホルンと一緒にプレッシャーをかけ、先に行かせて絶好位の3番手インを確保した。ライバルを利用して理想のポジションに収まるという手順は福島のような小回りコースの攻略法だ。それも開幕週の良馬場だからこそ。西村淳也騎手は開催が進むと急激に変化するローカルの馬場をよく知っている。
ハイペースを誘発するグラニットが行ったことで、後続も動きにくく、1000m通過59.7は状態のよい馬場を加味すれば、少し遅いぐらいのペース。こうなれば好位勢の競馬になる。勝負所も後ろから仕掛けてきたのはコレペティトールぐらいで、動ける馬が少なかったことも幸いした。最後600mは11.6-11.5-12.1、35.2。福島の直線はAコースで292mなので、この上がりで直線一気は限界がある。これほどまでに理想的な競馬で開幕週の重賞を飾ったとあれば、西村淳也騎手、会心のひと鞍だったのではないか。勝ち時計1:46.9は昨年の1:46.7とほぼ同じ。開幕週に移ってからだと必ずしも好記録ではないが、水準級であり、昨年のフェーングロッテンのようにこの先、中距離の小回り重賞を中心にしぶとい存在になれそうだ。
枠順や流れに左右された好走馬
2着シルトホルンは隣のエルトンバローズと同じく理想的な立ち回りではあったが、枠がひとつ外だった分、2番手の外になり、グラニットを追いかける役目になってしまった。エルトンバローズと同じく前走は1勝クラスのマイル戦で、こちらは最後にちょっと苦しくなったあたり、今回は200mの距離延長が壁になったか。とはいえ、スクリーンヒーロー産駒なので、マイルまでではなく、コーナー4回の中距離戦で経験を積めば、距離の壁は消えるだろう。これまで逃げて結果を出してきており、控える競馬での2着確保は自信につながる。
3着レーベンスティールは母父トウカイテイオーと熱い血統にも注目が集まった。開幕週の馬場で速くはないペースでは後方追走は苦しかった。3、4コーナーもちょっと動けなかった印象で、その分、直線の伸びは目を引いた。いかにも小回りは合わないものの、わずか292mの直線で見せた末脚は将来性を感じさせた。それも前には1、2着馬がいたため、進路を切りかえながらで、もっとスムーズだったらと想像してしまう。重賞タイトルはお預けになったが、直線の長いコースなら十分、手が届きそうだ。
4着バルサムノートはエルトンバローズと同じ上がり3ハロン34.9を記録。位置取りがひとつ後ろだった分の差だが、この位置取りのタイトさがローカル重賞では結果を分ける。ゴール前は進路を切りかえて外に出てきたレーベンスティールにカットされる場面もあり、ツキもなかった。重賞を勝つには枠順や流れなどあらゆる条件が揃わなければならない。バルサムノートとエルトンバローズを比べると、つくづくそれを感じた。枠が逆なら、ペースがもう少し速ければ、結果はどうなっていたか。それだけ上位は力量が接近していた。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。
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