【安田記念】着実にパフォーマンスをあげたソングラインが連覇達成! 東京芝マイルGⅠ・3勝目

勝木淳

2023年安田記念、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

18番枠の勝利は2002年アドマイヤコジーン以来

東京GⅠ・5週連続開催の最終週は、競馬法100周年記念と題した安田記念が行われた。GⅠ馬10頭が参戦し、重賞勝ち馬すら除外になるほどのハイレベルな一戦は、4番人気ソングラインがヴィクトリアマイルから中2週で連勝し、安田記念連覇を達成した。連覇もヴィクトリアマイル、安田記念同一年制覇もウオッカ以来のこと。アーモンドアイ、グランアレグリアも達成できなかった記録だ。

このレースは今浪厩務員と最後のGⅠになるソダシや大阪杯を逃げ切ったジャックドール、東京新聞杯で圧巻の逃げを打ったウインカーネリアンと先行馬がそろった。並び順は大方の予想通り、ジャックドールやソダシが好ダッシュを決めたこともあり、外枠のウインカーネリアンはハナを奪うまでにやや脚を使った。とはいえ、歴戦の古馬同士の戦いらしく、必要以上なハイペースにはならず、好位以下もしっかり上位人気の先行馬についていく形になった。馬群全体で緊張感を漂わせる、プレッシャーをかけ合うような展開はいかにも安田記念らしかった。

前後半800mは46.0-45.4で、これはソングラインが勝った昨年の安田記念46.7-45.6、ヴィクトリアマイル46.2-46.0よりも追走するスピードと最後の速い脚を求められた。同馬は東京芝マイルのGⅠ・3連勝のなかでも着実にパフォーマンスをあげた。ウオッカの作った記録を達成できたのも納得できる。4番人気と少し人気を落とした要因はもちろんソダシ人気もあるが、大外18番枠に入ったことも影響した。安田記念を18番枠から勝ったのは02年アドマイヤコジーン以来21年ぶり。ウインカーネリアンのような戦法でないと内に入るのは難しく、18頭立てとなれば、大外枠はかなり外を回らされる可能性が高い。東京マイルはスピードを持続させつつ、しっかり脚を溜めるようなスキのない競馬が要求される舞台。これを大外枠から勝つのは簡単ではない。これもまたソングラインの強さを証明した。

もうひとつ。ヴィクトリアマイルと安田記念の連勝には中2週の壁もある。サウジ遠征からGⅠ・2戦は昨年と同じパターンで、陣営に経験があったことも大きい。昨年は5着、1着だったが今年は連勝。これこそ経験を存分に生かした証だ。サウジ遠征後、GⅠ・2戦を見据え、ヴィクトリアマイル前から入念に調整してきたからこそ、余力のある状態でヴィクトリアマイルを勝てた。ここで消耗してしまえば、休養をとる時間が少ない中2週の安田記念には間に合わない。状態を維持するための計算づくの仕上げに敬意を表したい。


内面が気になる牝馬たち

2着は差す競馬ではなく、好位にとりついたセリフォス。昨秋マイルCSで上がり最速33.0で差し切った切れ味を武器にする馬が、今回は一転して先行策に出た。内枠に入り、マークすべき馬が内と外にいて、どう出るか注目したが、状況を踏まえたレーン騎手の戦略はジャックドール、ソダシを追う先行策だった。前に行かせたことで馬は戸惑ったか、やや行きたがったが、最後は狙い通りジャックドールとソダシの間を突き、2頭に先着した。ただ今回の2着は相手が悪かった。とはいえ、他力本願の差し競馬だけではなく、この戦法ができたのは収穫で、今後に向けて選択肢も広がった。

3着シュネルマイスターは上がり最速32.8を繰り出すも届かなかった。ハイレベルなマイル戦ともなれば、ちょっと厳しいぐらいのペースでは前は簡単には止まらない。流れに左右される弱みが出てしまった。GⅠをもうひとつ勝つには流れに乗れる力がほしい。4着ガイアフォースはマイル戦2戦目でGⅠ挑戦という厳しい臨戦ながら4着に踏ん張った。母の父クロフネらしく、緩急を必要としない流れに強く、今回のようなハイレベルなマイル戦は合う。厳しい流れの経験を積んでいけば、いずれタイトル奪取もあるのではないか。5着ジャックドールは初のマイル戦もスタートから互角のスピードを見せ、直線は見せ場を作った。この馬も緩急のいらない流れがよく、東京マイルは合う。このレースを使い、この先どういった選択肢をとるのか注目したい。

2番人気ソダシは7着。川田将雅騎手に乗り替わっても、変わらず先行する自身の競馬はできた。だが、直線での反応が芳しくなく、内面の問題も大きそうだ。15着メイケイエールも久々のマイル戦で途中、スイッチが入ってしまった。スプリント戦だと上手に競馬できるようになったが、こちらも内面の脆さが出てしまった。16着ナミュールはヴィクトリアマイルでスタート直後に不利を受けたが、今回は最後の直線で挟まれてしまい、最後は無理をしなかった。力のある馬だけに2度続けてレースで不利を受けた精神面のダメージが心配だ。

2023年安田記念、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【エプソムC】狙いは好走ゾーンに入るエアファンディタ! 年齢別は4歳が抜けた成績
【函館スプリントS】3歳牝馬が強くブトンドール有力 古馬勢ならヴィズサクセスが面白い
【競馬】2022年デビューの新種牡馬を振り返る リアルスティールがトップの38勝、サトノクラウンがダービー馬を輩出

おすすめ記事