【阪神牝馬S】アクシデントを乗り越え、栄光をつかんだサウンドビバーチェの真の実力

勝木淳

2023年阪神牝馬S、レース結果,ⒸSPAIA

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サウンドビバーチェが伝える競馬の繊細さ

サウンドビバーチェがついに重賞タイトルを手に入れた。ここまで陣営が歩んできた道のりは険しく、タイトル獲得の感慨はひとしおだっただろう。昨年はチューリップ賞4着で桜花賞の出走権を獲得できず、次なる目標オークスではレース直前に他馬に蹴られ、放馬してしまい競走除外に。秋華賞でも返し馬に入るときに放馬するアクシデントに見舞われ、あわや2度目の競走除外になるところだった。

一方で休み明けだった紫苑Sでは秋華賞馬スタニングローズ相手にタイム差なしの2着。放馬があった秋華賞でも7着ながら、勝ったスタニングローズとの着差は0.4しかなく、放馬さえなければと悔いが残るシーズンだった。1年前出走できなかった桜花賞前日の阪神牝馬Sは本馬場に入ってから騎手を乗せるなど陣営は打てる手をすべて打って臨んだ。それでもサウンドビバーチェは返し馬に入る際に少しイライラした仕草を見せており、陣営は最後まで気を抜けなかったにちがいない。

陣営やファンの、「放馬さえなければ能力は重賞クラス」という評価をサウンドビバーチェは阪神牝馬Sで見事に証明した。いかに競馬で力を出し切ることが難しいことなのか。サウンドビバーチェは我々に伝えてくれた。人馬の力がかみ合わなければ最高の結果は得られない。やはり競馬は繊細だ。競馬場では息をのむ瞬間を共有したいものだ。


先行力は本番でも武器になる

レースはデゼルが勝った一昨年に似たスローペース。その年は前後半800m47.1-44.9だったが、今年は前半がさらに遅く、12.5-11.7-11.9-11.9で48.0。外枠で折り合いを欠く馬もみられ、前半は非常に我慢を強いられる展開になった。サウンドビバーチェも序盤から行きたがる素振りを見せており、ギリギリ我慢できたといった印象。後半800mは11.7-11.2-11.0-12.0で45.9。600m標識通過後から、逃げるウインシャーロットがペースを上げてくれてサウンドビバーチェは走りやすくなった。反対にこの11.2で外を動いてきたピンハイは苦しくなってしまった。

最後の直線前半11.0でサウンドビバーチェはウインシャーロットに並びかけ、競り合いを制した。前半がスローで位置取りが結果を分ける展開では、後半の残り400~200mがもっとも速いラップになりやすく、ここで抜け出せる瞬発力と勝負根性を発揮できなければ、勝利はつかめない。競り合いで遅れをとったウインシャーロットが4着まで着順を落としたのは距離適性の差も出た。同馬は堅実派ながら、昨年12月のターコイズSでクビ差2着に差されたように、マイルでは残り200mでどうしても甘くなる。今回もペースを考えれば、残れる力は十分あった。1400mで見直そう。

サウンドビバーチェは行きたがった前半を考えても、ペースがもう少し速くなれば、GⅠでも十分戦える。2016年以降のヴィクトリアマイルで、1600m戦の阪神牝馬Sを先行した馬は【2-0-2-7】。中団後方【1-3-2-30】で、本番も位置をとれる強みを活かせる。東京は除外になったオークス以来の出走になる。リベンジというわけではないが、昨年の悔しさを完全に晴らすためにも、ヴィクトリアマイルで個人的に応援したくなった。


最後はシビアなスペース争いに

2着は10番人気サブライムアンセム。昨年フィリーズレビュー以降、スタートで遅れた前走以外はすべて重賞で0.9差以内、それもマイルの桜花賞とターコイズSの着差はどちらも0.2。フィリーズレビュー勝利で短距離向きとの見方が強かったが、流れに乗れるマイル戦こそ得意ということだろう。最後はウインシャーロットとサウンドビバーチェの競り合いの真後ろで待たされ、同馬が抜け出してからあとを追う形になったのは痛かった。先に一列外に出せていれば、もっと際どかったかもしれない。

やはりスローペースだったことで、最後は内にいた先行勢がスペースを奪い合った。9番人気3着のコスタボニータは直線入り口にあるラチの切れ目で最内に飛び込むも、そこは進路がなくブレーキ。だが、いち早く外のスペースに切りかえたのは鮫島克駿騎手のファインプレーだった。馬の反応も良く、充実期にある。

上位3頭は位置取りのアドバンテージを活かしてスペースを見つけてきたのに対し、6着ルージュスティリアはその後ろで前が壁になり、待たされてしまった。イズジョーノキセキに内に押し込められるも、それを弾いて外に出るなど進路を作るまでに手間取った。川田将雅騎手は多少、強引ととられ珍しく制裁対象となってしまったが、イズジョーノキセキとのスペース争いはし烈で、その攻防は見ごたえがあった。どの馬も手応えが残るスローペースはスペース争いによって着順を落とす馬が必ず出現するので、このレースもルージュスティリアを筆頭にチェックは怠らないでおこう。

2023年阪神牝馬S、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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