【大阪杯】まさに芸術! 名手・武豊騎手のコントロールとジャックドールの成長が生んだ逃走劇

勝木淳

2023年大阪杯、レース結果,ⒸSPAIA

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昨年の大阪杯と比べると

GⅠという大舞台でかくも芸術的な逃げ切り勝ちは滅多にみられない。バラエティ番組でも披露されたことがある武豊騎手の正確無比の体内時計には驚きしかない。逃げ切ったジャックドールは昨年5連勝でこのレースに挑み、同じく逃げて2番人気5着と壁にはね返された。非常に比較しやすいので、まずは昨年と今年のラップを並べる。

【昨年の大阪杯】
12.3-10.3-12.0-12.2-12.0-12.1-11.7-11.5-11.8-12.5
序盤600m34.6、1000m通過58.8
自身の後半1000m1:00.1、最後600m36.3 1:58.9

【今年の大阪杯】
12.4-10.9-12.2-12.0-11.4-11.7-11.5-11.4-11.4-12.5
序盤600m35.5、1000m通過58.9
後半1000m58.5、最後600m35.3、1:57.4

まずは序盤600m。昨年は2ハロン目10.3を記録し、34.6だったが、今年は同区間10.9で35.5とレース入りは明らかに今年の方がゆったりだった。ジャックドールのハナを脅かしそうな先行勢が内におらず、外からノースザワールドが迫るも、そこはスピードの違いで振り切れた。序盤600mが遅くとも1000m通過は0.1しか変わらなかった。ここがさすが武豊騎手といえる。5ハロン目11.4で落ち着いたペースを一旦上げて、修正をかけた。3ハロン連続で12秒台を刻めば、後ろに遅いと判断され、早めに動かれる可能性もある。後ろが仕掛けにくい地点でペースを上げ、後続の脚も削っていった。さらにジャックドールは控える競馬を試みてきたとはいえ、モーリス産駒らしく緩急をつけた走りは決して得意ではなく、持続力に長けたタイプ。その強みを後半に活かすには速度を落とさず、きつくてもキープさせておきたかった。

この1年でさらに体力をつけたジャックドール

中盤の乗り切り方が昨年よりひとつレベルアップした走りだった。ラストは同じ12.5でも、その前の11.4-11.4は明らかに昨年とは違う。これは武豊騎手のコントロールもあるが、ジャックドール自身が昨年よりレベルの高い走りができるようになったことも大きい。大阪杯5着後に陣営は控える競馬を模索してきた。逃げてどこまでという競馬より、逃げ馬について行きながら、ひと溜めして最後まで末脚を残せば、GⅠを勝つ確率は上がるからだ。

この取り組みが残り800m11.5-11.4-11.4-12.5にあらわれた。ジャックドールは脚を溜めることを覚え、かつこの間、確実に体力をつけていった。昨年より明らかに速い後半1000m58.5を乗り切るにはジャックドール自身の体力がなければ成り立たない。武豊騎手のペース判断と巧みに導く手腕に応えられるジャックドールの成長がこの勝利をたぐり寄せたとみたい。最後は12.5なので、強みを活かして走れるのは2000mがギリギリのような気もするので、なおさら、大阪杯を勝てたのは大きい。

桁違いの力を秘めるスターズオンアース

ジャックドールが後ろの脚を削りにいった流れと阪神芝内回り2000mという舞台設定を考えると、2着スターズオンアースが秘める力はちょっと桁が違う。上がり最速34.4は後方で溜めていた次位の馬たちより0.5も速かった。秋華賞同様に1コーナーまでに位置をとれず、ビハインドを背負いながらも、4コーナーで外を回りすぎず、馬群をさばいてきたルメール騎手の進路取りも見事だった。しかし、相当に能力がなければジャックドールにハナ差まで迫れない。けい靭帯炎明けでここまでやれたのはそれを補完する。明らかに内回り向きではないので、体調面に問題がなければ外回り、もしくは直線が長いコースでGⅠ・3勝目は近い。

ジャックドールが能力を問う流れを作ったということは、3着ダノンザキッドの能力値も証明した。今回もジャックドールが負けた香港C2着でも、10番人気と低評価だった。クラシックのつまずきやイレ込みがちだった若いころのイメージが抜けないからだろうか。今回はゲート試験明けだったが、スタートは上手く出て、好位4番手で流れに乗った。枠順が外だったので、自然と外を回る形になった分、ジャックドールに並びかけるまでは至らなかったが、4着マテンロウレオには2馬身差つけており、阪神のGⅠでは安定して結果を残せる。

緩急への対応は課題だが、GⅠ特有のパワーが必要な高速決着に強く、まだまだチャンスは残っている。マイルだと少し前半で遅れ、2000mだと距離がギリギリと好走範囲が限られるが、なんとかもうひと花咲かせてほしい。

序盤の攻防が明暗を分けるコースであり、5着マリアエレーナや6着ジェラルディーナは位置取りで力を出し切れなかった面が大きい。大阪杯は過去のデータからも位置をとれず負ける場面が目立つ。舞台適性の差が出たと割り切るべきだろう。


2023年大阪杯、レース回顧,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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