【高松宮記念】キャリア29戦でつかみとった栄光! 人馬の対応力が光ったファストフォース
勝木淳
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じっくりと進化してきたファストフォース
雨の週末が続く。高松宮記念は昨年までの10年間で良馬場は4回、やや重2回、重3回、不良1回とスピード勝負のスプリント王決定戦としては時計を要することが多かった。今年も2014年コパノリチャードが勝ったとき以来の不良馬場。天候の発表が雨、小雨だったのはダノンスマッシュが勝った21年以来のことだ。不良だった14年の勝ち時計は1:12.2。今年の勝ち時計はそれを0秒7上回る1:11.5。時計は比べようがないが、7歳ファストフォースの勝利はあらゆる意味で価値がある。
デビューは日本ダービーが終わり、年下の2歳馬による戦いがはじまった19年6月15日の未勝利戦。阪神芝2400mが舞台だった。勝ったのはメロディーレーンでファストフォースは先行するも3番人気12着に敗れた。6戦未勝利のままホッカイドウ競馬へ。4戦3勝で中央再転入。その初戦、4歳夏の阪神芝1200m戦を勝ったときが重馬場だった。
連勝で3勝クラスへ昇級。6、8着と敗れたあとに約8カ月の休養。長期休養明け、かつ格上挑戦のCBC賞はブリンカーを着用し、1:06.0を叩き出し、逃げ切りV。眠っていたスピードが開花した。その後、スピードだけでは若い馬たちに勝てないと悟るや、控える競馬に舵を切る。6歳セントウルSでは番手から1:06.6を記録、2着と結果を出し、今年のシルクロードSでは4コーナー5番手から差して2着、1:07.3と健在ぶりをアピールした。
先着を許したナムラクレアを今回、封じてGⅠタイトルを獲得。12番人気は2番人気ナムラクレアと比べて低すぎたが、7歳だったことに合わせ、ファストフォースのこれまでの戦歴から時計勝負に強いスピードタイプだと考えていた分もあった。だが同馬はこの勝利で芝重・不良【2-1-0-1】の道悪巧者。長い競走キャリアをたどった方は発見できただろう。それ以上にここまでファストフォースを信じ、控える競馬を身につけられるよう尽力した陣営の力が大きい。スピード一辺倒のままならば、このGⅠ勝利はなかった。
極悪馬場で光った人馬の対応力
試行錯誤の先にたどり着いた栄光といえば、ドバイワールドCを勝ったウシュバテソーロに通じるものがある。こちらも未勝利脱出に7戦を要し、2、3勝目をローカル開催であげ、ダート転向後は7戦6勝で世界最高峰のレースに手が届いた。どちらもメインストリートを歩めずとも、裏道でもなんでもいいから前へ進んだ先にあった栄光だ。ファンはもちろん、関係者にとっても勇気づけられる勝利が続いた日曜日だった。
高松宮記念ははっきり飛ばす馬はいなかったが、前半600m35.6と馬場を考えれば、厳しいペースで流れた。後半600mは11.6-11.9-12.4とゴールに向かって失速カーブを描く耐久力勝負になった。人気を背負い、先に仕掛けて先頭に立ったアグリも残り200mで力尽きた。その背後にいたファストフォースはこれ以上ないポジションといえる。アグリと同じ位置にいればナムラクレアに捕まった可能性もあり、そう考えるとGⅠ初制覇を遂げた団野大成騎手の判断は絶妙だった。外目で折り合いをつけ、リズムを乱さず走らせた手腕も合わせ、人馬の極悪馬場への対応力の勝利だ。
雨の週末、ドリームジャーニー産駒が大暴れ
2着ナムラクレアはまたもGⅠに届かなかった。ファストフォースの内側からレースを進め、最後は進路を大外へ。万全の運びで捕らえられなかったのは勝ち馬を称えるしかない。不良馬場を大外から攻められるほどの力が付ききっていないかもしれない。とはいえ、すっかり差し脚質も板についた。シルクロードSで繰り出した上がり32.9はこの馬の真の力であり、これを削がれる馬場は確かに痛かった。良馬場ならチャンスはある。なんとか今年中にタイトルをとりたい。
対照的だったのは1番人気12着メイケイエール。序盤の走りは悪くなさそうだったが、いざ追うと伸びを欠いた。こちらは5歳牝馬で少し力が落ちてきた可能性がある。というのも昨年も同じ立場の5歳レシステンシアが1番人気を裏切っており、この手のスピード型牝馬の勝ちごろは4歳だった可能性がある。レシステンシアも最後の直線で伸びを欠いた。敗因が成長曲線ならば、今後も取捨は慎重にしたい。
3着トゥラヴェスーラは8歳で昨年4着からひとつ着順をあげたからすごい。この日はひとつ年下の全弟トオヤリトセイトが不良馬場の中山10R春興Sで12番人気3着、重馬場だった阪神メイン六甲Sではザイツィンガーが13番人気3着とドリームジャーニー産駒の高齢馬が立て続けに穴を提供した。
ステイゴールド系は極悪馬場のような悪条件に強く、ことさらドリームジャーニー産駒は産駒デビューから今年3月19日まで芝の重・不良【11-9-7-51】勝率14.1%、複勝率34.6%で道悪が大好きも、不良馬場は【0-3-2-8】で未勝利。トゥラヴェスーラ、トオヤリトセイト兄弟はまさにデータ通りの激走だったといえる。泥だらけになりながら、昨年ナランフレグに奪われた最内を突く走りに感動したファンも多い。
そのナランフレグは4着で昨年の1~5着馬のなかでトゥラヴェスーラに次ぐ着順に入り、意地を見せた。これで高松宮記念以降、スプリントGⅠは香港を除けば3、4着。ファストフォースと同じ7歳。まだまだ終わっていない。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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