【フラワーC】中山巧者エミューに道悪得意なデムーロ騎手 天を味方に、いざ牝馬クラシック戦線へ

勝木淳

2023年フラワーC、レース結果,ⒸSPAIA

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雨にたたられやすいフラワーC

1999年4月以来のストライキによる開催中止があるかもしれない。競馬の仕組みに関わるあらゆることを学びながら、気を揉んだファンは多かったにちがいない。そんな不安定な気持ちで迎えた週末はぱっと見は平常開催。競馬会、馬主、調教師、厩務員、どの立場の人間にもプラスがない開催の強行という結論が、今後あらゆるところで悪い影響を与えなければいいと願うばかり。日本は良くも悪くも前例踏襲型の社会であり、この切り抜け方の影響は心配になる。

そんな中で行われた中山は、朝から降り続いた雨が午後にはさらに強まり、フラワーCは不良馬場で行われ、勝ち時計は1:53.2を要した。芝1800m重賞で1:53.0以上だったのは記録がある1986年以降、今回が11レース目。このうち不良馬場だったのは8回、かつ春の中山開催だったのは計6レース。秋の雨は少なくなった印象はあるが、その分、春は雨が多い。この時期の雨は春の合図であり、ときに花散らしの雨でもあり、少し物静かで趣さえ感じる。とはいえ、周期的に天候が変わる春、開催がある週末に雨が重なるのは勘弁してもらいたいものだ。

不良馬場で1分53秒台以上を要し、かつ春の中山施行の6回のうち、今回を含め4回がフラワーCであるのも不思議だ。春の雨は草花に目覚めを促すものだからだろうか。3歳牝馬にとって大事な3月半ばの重賞なので、やはり雨は勘弁してもらえないたい。

今年の1:53.2は不良馬場で行われた同レースとしてはもっとも速く、かつ勝ったエミューが繰り出した最後600m36.3もこの条件で最速だった。エミューの決め手はインパクトがあり、今後、この馬を評価するにあたりポイントになる部分だが、レース全体の上がりが37.7だった点は見逃せない。

不良馬場で行われた過去3回のうち、イブキニュースターが勝った95年、サヤカが勝った99年は1000m通過61秒台で馬場を考えれば速めの流れだった。切れ味を一切かき消される泥んこ馬場は先行優位が定説であり、チャンスがあれば前へ行こうという心理が働くゆえだろう。結果、その2回は上がり39.8、38.7と最後はバテ比べになった。今回は先行タイプがそれなりにいたが、飛ばす馬は見当たらず、内枠パルティキュリエがハナに立ち、隊列はすんなり決まった。ゆえに前半600m37.6、1000m通過1:02.6と突っ込んで入らなかった。さらに1000~1200mは12.9で3コーナーにかけてペースが落ちた。エミューにとって脚を溜めやすい流れでもあった。


道悪得意なデムーロ騎手

もう一つ、エミューに騎乗したミルコ・デムーロ騎手が道悪得意な点もある。2018年~今年3月12日まで、芝の良馬場以外のオープン・重賞でデムーロ騎手は【6-7-5-46】。集計期間外だが、2017年キセキで勝った不良馬場の菊花賞がその代表例。3コーナーから外を動き、直線で強烈な末脚を引き出した。データ期間内でも上がり1、2位は【5-4-1-6】勝率31.5%、複勝率62.5%とかなりの数字を叩き出す。スタートが上手くないデムーロ騎手は前半、後方で構え、勝負所を感じ取るや一気に外を動く大味な競馬が得意だ。緻密な組み立てをするルメール騎手と比較されがちだが、デムーロ騎手の割り切った競馬は道悪で威力を発揮する。

エミューの競馬はまさにそれ。2着ヒップホップソウル、5着ココクレーターの36.9を0.6上回る36.3はデムーロ騎手が引き出した面もある。上記データ範囲で1、2枠は【4-2-2-6】。道悪で揉まれる危険のある内枠をデムーロ騎手は思い切った手で打開できるジョッキーであり、これは今後も味方につけたいデータだ。

エミューは馬体重414キロと小さいこともポイントだろう。道悪はパワー優先なので大型馬が強い面はあるが、道悪巧者には軽い馬も多い。マリアライトやレイパパレも小さい馬だった。エミューの決め手は路盤が柔らかくバランスをとりにくい馬場でも走りやすい馬体と走法がもたらしたものでもある。

フラワーCのインパクトはエミューが道悪巧者で、かつ道悪が得意なデムーロ騎手が十八番の競馬を展開したことが作り上げたものだ。良馬場の重賞でどこまでやれるかは今後を見ないとわからないが、道悪になった際は当然評価を上げたい一頭になる。また、中山はこれで5戦3勝。勝った3勝はいずれも決め手鋭く、コース巧者でもある。中山で牝馬クラシックは行われないが、牝馬重賞はいくつかある。出走した際に忘れないでおこう。

2着ヒップホップソウルはエミューの一歩前から先に動き、目標にされてしまった印象もある。フェアリーS1番人気も不利を受けて11着。今回は8番人気と人気急落の一戦で、穴党にとって押さえておきたい馬だった。3着パルクリチュードはダートの新馬戦を勝ち、紅梅S4着。前半が適度に遅く、時計がかかった今回は走りごろだった印象がある。

4コーナーで大外から手応えよく進出したニシノコウフクは7着。手応えで目立ったものの、直線はそこまで伸びきれなかった。前走デイジー賞に続き、エミューに連敗の形だが、中山芝1600mの菜の花賞では先着し、勝ち馬に0.2差。今回の手応えといい、中山巧者であることは確かで、おそらく距離だろう。中山芝1600mで見直したい。

2023年フラワーC、レース回顧,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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