【地方競馬対談】JRA・森秀行調教師と語る! 「ダート三冠革命」と地方所属騎手、そしてクラスターC

山崎エリカ

山崎エリカ×森秀行、地方競馬対談,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA(左 本人提供、右 撮影:三木俊幸)

地方競馬対談 第2回:森秀行(JRA調教師)

競馬研究家・山崎エリカが様々なゲストを招いて地方競馬のさまざまなトピックについて対談を行う連載。第2回のゲストはJRA現役調教師の森秀行師。今年6月に発表された3歳「ダート三冠」の新設や、地方所属騎手を積極的に起用する理由、そして8月16日に開催されるクラスターCについて語ってもらった。

「ダート三冠」改革は、中央馬に不利な条件になり得る

山崎エリカ(以下:山) 2024年から大井競馬場での羽田盃と東京ダービーが中央馬にも開放され、「ダート三冠」として整備されることが発表されました。費用対効果重視の森先生が当歳で馬を買うことはまずないと思いますが、この先の1歳、2歳セールでダートの中距離路線馬を、これまでよりも多く、落札してみたいと思いますか?

森秀行(以下:森) 「ダート三冠」に関しては、中央馬が出走できるレースが2つ増えたというくらいの感覚。現状ではそこを意識することはないです。

 競馬ファンからは“ダート三冠改革は革命的”という声も挙がっている一方、調教師さんなど関係者の間では盛り上がってないし、トーンが低いですよね。地方競馬の関係者からは「デメリットばかり」という声も……。

 南関東の調教師さんは、ダート三冠改革のことが知らされないまま、決定したみたいです。僕たちもただダート三冠をやるというだけで、中央馬の出走枠が決まっているのか、賞金順なのかなど、詳細を何も知らされていません。賞金順だとしたらあと2年の間に今のJRAのダートのレース体系が変わればいいですけど、変わらないと中央の馬は羽田盃にはほとんど出られないでしょう。2歳オープンのダートはカトレアSしかないですから、芝を使っていかないと賞金を加算するのが難しいです。

 2歳オープンをもうひとつくらい作って、ヒヤシンスSが重賞に格上げされるくらいのイメージでいましたけど、もしヒヤシンスSが重賞になるならもう発表されているはずですね。JBC2歳優駿や全日本2歳優駿など、交流重賞路線で賞金を加算していく手段もありますが……。

 中央に羽田盃の選定レースを作ってくれればいいですが、現状は1勝クラスを勝った馬が使えるレースがほとんどない状態。交流重賞路線を使っていくなら、使えるレースがいっぱいある地方から羽田盃を目指した方がいいということになるよね。中央でデビューしても、地方に移籍されるでしょう。

 2014年に北海道2歳優駿(現JBC2歳優駿)と全日本2歳優駿を優勝したディアドムスがヒヤシンスSに出走してきたことがあって、その時の斤量が58kgで勝ち星を積み上げるのも大変だと思ったことがありました。昨年の全日本2歳優駿の2着馬のコンバスチョンでも、今年のヒヤシンスS出走時の斤量が57kg。相手が手強く、連続好走も難しいのに斤量も重くなるとなったら、その先も考えてとっとと移籍しますね。

ヒヤシンスS出走時のコンバスチョン,ⒸSPAIA


「全日本2歳優駿の2着馬のコンバスチョンでも、今年のヒヤシンスS出走時の斤量が57kg」 ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)



 1勝クラスを勝った馬が次に使えるレース(オープンやリステッド競走)が少な過ぎるんですよ。JRAがダートの三冠ができるまでにどこまで協力してくれるかだけど、JRAは「芝のダービーからダービーへ」という組織で、ダート路線が整備されていない現状では、ダート三冠改革は中央馬に不利、地方馬に有利な条件と言えます。

 JRAは競馬法で年間開催日が288日×1日12レース以内と決められていますから、芝とダートの比率は変えられても、レース数は増やせません。降級制度を廃止しても馬房がパンパンの状況を考えると、将来的には「芝路線は中央へ、ダート路線は地方へ」という効率化を考えての改革なのかもしれません。

地方所属騎手を積極的に起用する理由

 森先生は先月ラヤスが門別に遠征した際に阿部龍騎手を起用したように、地方での交流競走はもちろん、京阪杯を連覇したネロに吉原寛人騎手や中野省吾騎手を乗せるなど、地方競馬所属のジョッキーを積極的に起用していますね。

 地方の交流重賞だったら中央の騎手が行ってくれるのなら乗ってもらうけど、普通の交流戦は現地のトップクラスの騎手に乗ってもらうことが多いです。中野省吾、杉村一樹、瀧川寿希也……うちの馬に乗る騎手は、こっちはまた乗ってもらいたいと思っているのにみんな辞めていく……。

 「また乗ってもらいたいと思っている」という言葉は、彼らの騎乗に対するリスペクトであり、その先の人生でも心の支えになる優しい言葉と感じます。ところで若手騎手から「森先生は神だ!」と聞きました。先生は騎手に騎乗の指示を出さないらしいですね。

 騎手から「こんな感じで乗ればいいですね」って、聞いてきてくれることもあるし、「砂を被ったらイヤがるよ」、「外に逃げるよ」、「内にモタれるよ」などの特徴は伝えています。また馬が弱くて前に行って負け続けていた場合など、「追い込んでみて欲しい」など相談することはあっても、基本は言わないですね。あんまりうるさく言うと「自分で乗れよ」と言われちゃうよ。僕はレースで馬に乗ったことがないから、それを言われたら困っちゃうよ。

 あはははは(笑)。うるさく言ったら陰口は叩かれると思いますけど、地方に積極的に遠征している重鎮的立ち位置の森先生に面と向かっては言わないでしょう。騎手よりも調教師が上なのではなく、ひとつのチームという感覚なのですね。

 レースはみんなで流れているからね。「逃げて」と言っても、ゲートが開いて出遅れたら逃げられません。だから細かく指示出してもそのとおりにならないし、騎手は乗ることに関してプロ。僕よりも考えていると思うから、そこは尊重した方が上手くいきます。

 細かく指示を出す調教師さんも、レースはみんなで流れていると理解しているけど、勝ちたい思いが強すぎてついつい口に出しちゃっているところなのでしょう。達観するのもその調教師さんの性格や経験、あと相手をどれだけ信用しているかも影響してきます。

 中央のあんちゃん騎手なら1週間に3つ、4つくらいしかレースに乗らないところを、地方の騎手は毎日のように乗って経験を積んでいるだけあって、上手い人が多いです。特に南関東や道営は騎手が多くて激戦。そこでトップに立っている、南関東の森泰斗、矢野貴之、笹川翼、道営の落合玄太、桑村真明、阿部龍あたりはみんな上手いです。園田で何度もリーディングを獲っている吉村智洋も上手いなぁ。こっちは上手いと思って、信用して乗ってもらっているので、達観できます。

クラスターCはどのようなタイプが有力か?

 森厩舎は2001年のノボジャック、2004年のシャドウスケイプ、2006年のアグネスジェダイ、2011年のドスライス、2020年のマテラスカイと、過去26年のクラスターCの歴史の中で5度も優勝しています。また、過去4年連続でクラスターCに出走させるなど、JRA調教師の中で勝利数も出走回数も最も多いですが、こだわりの理由はありますか?

 年によって11月のJBCスプリントもダ1200mだけど、地方でダ1200mができる競馬場が少なく、古馬が使える交流重賞は4月の東京スプリント、6月の北海道スプリントC、8月のクラスターC、10月の東京盃の4レース。それしかないのにJRAの所属馬は4頭、5頭しか出走できないでしょう。ダ1200mは狭き門だから、賞金が足りていれば積極的に出走させたいですね。

 確かに地方のダ1200mは大井、門別、盛岡、あと特殊コースで上級条件は使われない船橋しかないですね。森厩舎はクラスターCの出走頭数に比べて、さきたま杯やオーバルスプリントなど、浦和1400mの交流重賞に出走している馬は少ないですよね?

 浦和1400mは小回りで、差し馬だとコーナーの外を回る競馬になるから。その点、盛岡はコーナーが大きくて、そういう不利が少ないので出走させやすいです。浦和1400mがダメということではなく、それに適した前の位置を取って行ける馬を出走させればいいだけ。以前、うちにいたノボバカラがさきたま杯を勝っています。

 盛岡はちょっと前はレコードが出る馬場だったのに、最近は砂が重いようで、昨年のクラスターCは1分11秒1も掛かっていました。かつてと比べると、逃げ切るのが大変になった感があります。

 それでも他場と比べてダートが深いわけでもないし、雨が降ると走りやすくなって時計も出るからね。そこは運の要素も大きいけど、競馬で一番強いのは、何の不利も受けない逃げ馬。強ければ逃げ切れるから。でも長距離は無理に行かせれば逃げられるけど、短距離はみんなスピードがあるから逃げるのが大変。逃げるにも才能が必要だよ。

 そういえば森厩舎は、積極的に前に行く馬が多いですね。クラスターCを優勝したノボジャック、アグネスジェダイ、ドスライス、マテラスカイは4角2番手以内からの押し切りでした。アグネスジェダイは翌年のクラスターCでも、逃げて2着でしたね。そう考えると、クラスターCは前に行く馬が有力? 北海道スプリントCを逃げ切り勝ちしたダンシングプリンスが1番人気になりそうですが、やはり有力でしょうか?

 短距離馬は長距離馬よりも消耗度が高く、馬が傷むので連勝するのは難しいし、入れ替わりも激しいものだよ。うちのピンシャンは昨秋、BCダートマイルに出走させたために、カペラSを使えず、賞金不足で今回のクラスターCに出走できませんでした。ピンシャンは昨秋、状態がすごく良かったから、BCダートマイルを使わずにカペラSに出走していれば、チャンスがあったと思っています。

ピンシャン,ⒸSPAIA


「BCダートマイルを使わずにカペラSに出走していれば、チャンスがあったと思っています」 ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)



 そのカペラSを勝ったのが、ダンシングプリンスですね。

 ダンシングプリンスは昨年のカペラSの辺りから強くなりましたが、“短距離馬は入れ替わりも激しい”ということを考えて予想をしても面白いと思うよ。

 ん……!? 新興勢力が有利ということでしょうか? 過去のクラスターCを振り返っても、実績馬もまあまあ活躍している一方、オウケンビリーヴやヒロシゲゴールドなど、新興勢力が人気以上の走りを見せています。そうなるとリメイクオーロラテソーロが浮上してきますが……。斤量51kgの魔法で出脚が良くなるリメイクを狙いたくなってきました。オウケンビリーヴも斤量52kgでの好走でしたから。ところでピンシャンは海外に行かなければ良かったという話になりませんか?

 ピンシャンは結果的にBCダートマイルでは相手が強くて負けてしまいましたが、勝てばその一発で賞金1億は加算できました。その賞金があれば交流重賞にずっと出られることにもなるし、交流重賞路線を使うと3つ、4つ勝ってやっと賞金1億。距離が短いほど馬が傷むから、こちらの状態が良ければ海外遠征する価値があるし、勝てば後々交流重賞に出走するのが楽です。

 プロキオンSが小倉ダ1700mじゃなく、従来の中京ダ1400mで行われていたら、ピンシャンが賞金を加算してクラスターCに出走していた可能性もありますね。

 京都競馬場整備工事に伴う条件変更は仕方ないけど、小倉でやるならダ1700mじゃなく、ダ1000mでやってくれればいいのにね。夏場のダ1700mはエルムSもあるのに……。2年前までクラスターCと同時期に行われていたサマーチャンピオンも9月上旬になったことで、クラスターCの出走馬も出られることになり、交流重賞に出走させることが本当に大変になりました。

 プロキオンSが小倉ダ1000mという手もありましたね。ピンシャンは昨年の天保山Sや今年1月のすばるSを超ハイペースで逃げ切った馬。私もピンシャンは強いと思っているので、復帰が楽しみです。今日はお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。


ゲストプロフィール
森秀行
JRA現役調教師。2000年にエアシャカールで皐月賞、菊花賞を制するなど、栗東の名トレーナーとして長きにわたり活躍。シーキングザパールやアグネスワールドに代表される海外遠征や、地方競馬への出走に積極的なことでも知られ、JRA所属調教師としては異例と言える地方競馬通算252勝を挙げている(2022年8月15日時点)。



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