【桜花賞】完璧だったウォーターナビレラ、神がかっていたスターズオンアース 勝敗決した序盤の攻防

勝木淳

2022年桜花賞のレース結果,ⒸSPAIA

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勢力図以上に難しかった展開

気まぐれな寒気がスルっと列島に流れ込み、気温差がある日々が続いたおかげで桜を長く楽しめる。桜花賞の日は花冷えもあれば、春らしい心地よい陽気にもなる。82回目の桜花賞は春を通り越し、汗ばむような気温になった。そしてそのゴール前の攻防は体中に熱いものがみなぎるような激戦だった。

チューリップ賞にサークルオブライフ、ナミュール、ウォーターナビレラといった阪神JF上位組が顔をそろえ、桜戦線の構図は近年に比べ、わかりやすかった。だが、それでも抜けた馬は見当たらず力量接近といった図式。検討すべきだったのはレース展開ではなかったか。

近2走で逃げたのは抽選突破のカフジテトラゴンとラズベリームースの2頭。1勝クラスの格下馬、先手を取れるかどうかわからない。番手からエルフィンSを押しきったアルーリングウェイなどが主張すれば、行ける組み合わせではあった。ましてチューリップ賞で先行したサークルオブライフは外枠でもあり、今回は控える公算が高かった。前走は休み明けで内枠、包まれて心を乱すことを避けた試走だった。

レースを支配したウォーターナビレラ

“魔の桜花賞ペース”は歴史上の用語。現行の外回りマイル戦では短距離志向のスピード型がいないと、速くならない。

桜花賞も内枠からカフジテトラゴンがあっさり先手を奪い、番手に武豊騎手のウォーターナビレラがさっととりつく。そうなると無謀な動きはできない。このレース、流れを支配したのはウォーターナビレラと武豊騎手だった。カフジテトラゴンのペースは前半800m12.4-10.8-11.4-12.2、46.8。レコード決着の昨年は45.2。今年はスローに近い。この時点で後方に控えたサークルオブライフ、ナミュールは苦しかった。後半、相当な瞬発力を繰り出すか、途中で動くしかない。分かっていても動けなかったにちがいない。

後半800mは12.0-11.1-11.5-11.5、46.1。3コーナー手前でカフジテトラゴンがペースを落とし、ウォーターナビレラ以下先行勢はここで息を入れた。スパート開始の残り600~400m11.1。この地点で外を追いあげれば、最後に末脚を失う。10着ナミュールはややチグハグな競馬になってしまった。チューリップ賞は鮮やかだったが、決して外を回らなかった。外を回らざるを得なくなった前半の位置取りが敗因だろう。止まりすぎな印象もあるが、高速ラップのなか外を動いて差し切るという競馬をするには、スケールが足りなかったかもしれない。立ち回り次第で巻き返してくるのではないか。

こうした息の入る流れを中団馬群でリズムよく走り、外を回らずに最後の直線まで末脚を温存したのが勝ったスターズオンアース。その分、最後は進路が狭くなったが、慌てずにタイミングを計り、ギリギリで抜け出した。2着ウォーターナビレラとの着差はハナ。パーソナルハイが入ってきたときに躊躇していれば、桜の女王には就けなかった。川田将雅騎手の集中力と勝負勘に脱帽だ。高松宮記念のナランフレグと丸田恭介騎手に続き、針の穴を通すような神騎乗だった。

スターズオンアースは10月未勝利戦から赤松賞、フェアリーS、クイーンCと4戦連続1番人気に推され、1、3、2、2着。ナミュール、ライラック、プレサージュリフトに先着を許し、本番で逆転した。好素材もあと一歩足りず、という競馬を繰り返した経験が成長とともに実を結んだ。近親に桜花賞3着、オークス1着ソウルスターリングがいるスタセリタ牝系。成長力に富んだ一族でもある。1勝馬の桜花賞制覇は16年ジュエラー以来。クイーンC経由はメジャーエンブレムが敗れるなど鬼門ローテ。桜の女王は1976年テイタニヤ以来出ていなかった。

完璧だったのは2着ウォーターナビレラ。先行争いを制し、番手で流れを作り、息を十分に入れ、最後の直線を迎えた。これぞ勝つための競馬。だからこそハナ差負けは無念。スターズオンアースが抜け出すタイミング次第では勝てた競馬だった。桜花賞が生涯一度きりという重みを伝える2着ではなかったか。

3着ナムラクレアも理想的な競馬。最後にちょっと止まったのは距離適性の差か。4着サークルオブライフは展開を考えれば、外から伸びて3着争いに加わったのは立派。負けて強し。オークスで巻き返すとすれば、この馬だろう。

2022年桜花賞のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。



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