【チューリップ賞】ウオッカvsダイワスカーレット、死闘の幕開け 「2歳女王のチューリップ賞」を振り返る

東大ホースメンクラブ

2022年チューリップ賞_阪神JF勝ち馬の成績,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

2歳女王サークルオブライフが始動

今週は阪神芝1600mを舞台にGⅡチューリップ賞が行われる。桜花賞への最重要ステップとして権威を保つ一戦に今年も精鋭がエントリー。阪神JF組からサークルオブライフ、ウォーターナビレラ、ナミュール、ステルナティーア、別路線からは新馬戦にロマンを感じさせた大器ルージュスティリアなど、一冠目を虎視眈々と狙う馬たちが集結した。

注目はやはり阪神JF覇者のサークルオブライフ。「牝馬の国枝」から今年も現れた大物が重賞3連勝で本番へ駒を進められるか、それともライバルたちが巻き返すか。今週は「2歳女王のチューリップ賞」をテーマに、過去の激闘を振り返りつつ、馬券の組み立て方をデータで分析していく。

1996 ビワハイジvsエアグルーヴ 歴史的名牝の邂逅

チューリップ賞の歴史で2歳女王の参戦は20例。ここではライバルとの激突が印象に残るふたつのレースを振り返る。

まずは1996年、ビワハイジとエアグルーヴが参戦したレース。2頭の初対決は前年暮れの阪神3歳牝馬Sにさかのぼる。これまでの2戦で騎乗した武豊騎手がイブキパーシヴを選択し、角田晃一騎手に手綱が回ったビワハイジが終始楽な手応えで逃げ、2番手から猛追するエアグルーヴをしのいで女王の座に就いた。

もっとも前半3F37.1秒の超スロー、勝ちタイム1分35秒3は平凡そのもの。位置取りの差がそのまま着差になった一戦で、勝負付けがついたとは言い難い。事実、チューリップ賞の単勝オッズはビワハイジ2.3倍、エアグルーヴ2.7倍と拮抗していた。

レースは内からハナを奪ったカネトシシェーバーの流れになったとはいえ、2頭の位置関係、直線先に抜けたビワハイジをエアグルーヴが追うところまでは12月の再現だった。違ったのは残り200mからの景色。内で粘るビワハイジを置き去りにし、エアグルーヴが一完歩ごとに着差を広げていった。

ゴールでついた5馬身差は、女王ダイナカールの血がクラシックに向けて遂げた進化の証に見えた。一躍桜前線の筆頭となったエアグルーヴだが、本番は当週追い切り後の熱発で回避したため、3度目の仁川マイル決戦は実現せず(ビワハイジは2番人気で出走も、フケの影響で15着に大敗)。

その後、エアグルーヴはオークス親子制覇を達成、翌年の天皇賞(秋)でバブルガムフェローを倒して17年ぶりの牝馬天皇賞制覇、26年ぶりの牝馬年度代表馬に輝くなど、時代の特異点を刻む恐るべき活躍を果たした。ビワハイジは13年ぶりとなる牝馬のダービー出走を果たすも13着。長い不振からなかなか抜け出せなかったが、5歳(現在の表記)1月の京都牝馬特別で復活の逃げ切りを決めてターフを去った。

現役時代の2頭には大きな着差がついた。しかし引退後の戦いは全くの互角となる。エアグルーヴは初子アドマイヤグルーヴでいきなり牝馬クラシックを沸かせ、エリザベス女王杯を連覇すると、その2年後ビワハイジがアドマイヤジャパンを産み、怪物ディープインパクト相手にクラシックで奮闘。

その後、エアグルーヴはルーラーシップ、フォゲッタブル、グルヴェイグを、ビワハイジはブエナビスタ、ジョワドヴィーヴル、アドマイヤオーラ、トーセンレーヴ、サングレアルを産み、2頭で計10頭の重賞馬を輩出した。2000年代には毎年のように2頭の産駒がGⅠで好走し、偉大な母たちの超ハイレベルなぶつかり合いが繰り広げられた。

エアグルーヴは2013年に出産後の内出血で、ビワハイジは今年の2月に老衰で亡くなったが、ふたつの血は現代を生き、さらにその先の未来も見据えている。稀代の名牝2頭がワンツーを決めた1996年の春は、やがて数々の花を咲かせる両馬の貴重な邂逅だった。

2007 ウオッカvsダイワスカーレット 死闘の幕開け

2頭の激突から11年、第14回チューリップ賞。前年に改装した阪神競馬場の外回りコースは直線が伸び、コーナーが緩やかになり、実力がよりストレートに試される舞台に変貌していた。

前年の阪神JFはその変化を実感させるレースだった。翌年スプリンターズSを勝つ断然人気のアストンマーチャンがピッチ走法で粘る中、跳びのきれいな黒鹿毛がコーナーで減速することなく、雄大なフットワークで同馬を飲み込んだ。

勝ちタイムは前日の同コース・古馬3勝クラスより1秒も速い驚異的な時計。父タニノギムレットに初のGⅠを贈った孝行娘は、父より強くなるようにと、ギムレットよりアルコール度数が高く、なおかつ冠名で割らずにストレートで「ウオッカ」と名付けられていた。

チューリップ賞でウオッカは単勝オッズ1.4倍、1番人気。そして、単勝オッズ2.8倍の2番人気で続いたのは栗毛馬ダイワスカーレット。3戦2勝、前走のシンザン記念ではビワハイジの子で後に皐月賞1番人気に推されるアドマイヤオーラの2着も、牝馬戦線では主役級の器だった。一つ上の兄ダイワメジャーが皐月賞を制すなど、有力牝系として名高い「スカーレット一族」の出身。ここから日本の頂点をめぐる宿命のライバル対決が始まる。

逃げたダイワスカーレットに騎乗する安藤勝己騎手は、残り300mでウオッカに並びかけられても仕掛けない。左手のライバル馬を見ながらじっくりと追い出して併せ馬、クビ差ウオッカが出たところがゴール。両馬ともに底を見せない、互いに探りを入れるような直線だった。3着レインダンスのはるか6馬身前で繰り広げられた第1ラウンドは、本番に向けたジャブの打ち合いで幕を閉じた。

ひとつの敗戦が勝利よりも多くを教えることがある。安藤騎手は第2ラウンドの桜花賞でファイトスタイルを変えた。内回りとの合流地点でギアを上げ、得意とする持続力の土俵に持ち込んだ。「瞬発力では(ウオッカに)劣るので、早めに仕掛けてウオッカに追わせるような競馬をしようと思っていました」とは鞍上の言。最後までウオッカに影すら踏ませず、1馬身半差の快勝。JRA通算700勝、自身の桜花賞連覇を決める会心の勝利だった。

次走でウオッカは64年ぶりの牝馬ダービー制覇を達成し、歴史に名を刻んだことがダイワの価値をも引き上げる。その後、ダイワ二冠達成の秋華賞、珠玉の1分57秒・伝説の天皇賞(秋)で両馬はがっぷり四つの死闘を演じた。5度の直接対決は両馬2勝ずつ(2007年有馬記念ではともに敗れるも、ダイワスカーレット2着がウオッカ11着に先着)。3歳春から始まったライバルの物語は2000年代後半のシーンの主役となった。

阪神JF1・3着馬のマッチレースが濃厚

2歳女王が出走したチューリップ賞の成績,ⒸSPAIA


<2歳女王が出走したチューリップ賞の成績>
阪神JF勝ち馬【7-4-5-4】勝率35.0%/連対率55.0%/複勝率80.0%
うち、阪神JF4番人気以内【7-4-3-0】勝率50.0%/連対率78.6%/複勝率100.0%
前走阪神JF2・3着【3-3-2-1】勝率33.3%/連対率66.7%/複勝率88.9%
うち、阪神JF4角4番手以内【3-2-0-0】勝率60.0%/連対率100.0%/複勝率100.0%
※阪神JFは前身の阪神3歳牝馬Sを含む

最後に2歳女王が出走したチューリップ賞のデータを分析する。

GⅠ馬はさすがにほとんど崩れず、複勝率8割をキープ。このうち、阪神JFで4番人気以内に支持されていた馬は全頭が馬券に絡んだ。サークルオブライフは前走3番人気で条件をクリア。

その他の馬では阪神JF2・3着組も良く、さらに先行勢はパーフェクト連対を達成している。ウォーターナビレラは前走同様の調整過程で順調に駒を進めており、ここも好走必至だろう。4戦目にして初めての敗北を味わった才媛が、2歳女王との1馬身差をどこまで詰めるか注目したい。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開。秋GⅠシーズンに合わせ、新入部員募集中。

《関連記事》
【弥生賞】2歳王者ドウデュースが中心! 可能性秘める逆転候補はリューベック
【チューリップ賞】好走候補はサークルオブライフ、ウォーターナビレラ、ステルナティーア カギはナミュールの取捨
【オーシャンS】超がつく大混戦! 一歩リードは5歳勢も逆転ならファストフォース

おすすめ記事