【シリウスS回顧】斤量59.5kgのダート重賞制覇は希少 世界の血統が詰まったハギノアレグリアス
勝木淳
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59.5kgでのダート重賞勝利
昨年覇者ハギノアレグリアスが見事に連覇を決めた。昨年は阪神ダート2000m、今年は中京ダート1900m。違う条件での連覇は珍しい。正直に言えば、7歳ハギノアレグリアス59.5kgという文字列に連覇を想像できなかった。失礼しました。
年齢の字面だけではなく、今年に入ってダイオライト記念、アンタレスS3着、平安S7着の内容に少し力のかげりがみられたのは確か。4カ月半の休養で活力がどこまで戻っているのか。そんな疑いの目が単勝5番人気10.8倍に集約していたと想像する。
しかし、いざ蓋をあければ、4歳1番人気オメガギネスを真後ろから狙い、ゴール前できっちりとらえた。完勝といっていい。レース内容についてはのちほど触れるが、ダート重賞で斤量59.5kgの勝利となると、データがある1986年以降は記録がなく、出てくるのはアラブのセイユウ記念を3連覇したシゲルホームラン60、62kgなどサラブレッドではいない。
芝では60kgで京都記念を制したナリタトップロード、同じく60kgでマイラーズCを勝ったダイタクヘリオスなど前例はある。ハンデ戦に限ると、90年ダイヤモンドSスルーオダイナの61kg、91年目黒記念で60.5kgを背負ったカリブソング、メジロブライトの99年日経新春杯59.5kgと2000年代は出ていない。
そんな懐かしい記録を引っ張り出すほど、ハギノアレグリアスの勝利は意義深い。
一般的に大型馬が多いダート戦ほどハンデは気にならないと思われがちだが、若手騎手の特権でもある減量特典が生きるのはダート中距離でもある。斤量は最後の粘りに響く。その意味では最大のライバルでもあるオメガギネスのハンデが59kgと見込まれたのもハギノアレグリアスに味方した。あれが58kgであればわからない。得てして勝つときはなにもかもうまくいく。
セ・リーグ優勝を決めた読売ジャイアンツのマツダスタジアムでの試合もそんな感じだった。
カントリー牧場からシーバードへ
戦前から確たる逃げ馬が不在で、スローペースはみえみえだった。案の定、伏兵サンライズアリオンが主張すると、サンマルレジェンドが番手にとりつき隊列はすんなり決まった。2コーナーあたりで13.1が記録され、この時点で先行馬が有利な展開になった。ただ、絶好位にオメガギネスがいたため、レースはそこまで凡戦にならない。
後半1000mは12.5-12.4-12.3-12.1-12.6と坂をあがるまで見事に上昇するラップを描いた。速くなり続ける流れはダート一線級の激突らしい。確かな実力がなければ、急坂を駆けあがれない。そんな展開だった。決して単なる前残りとは感じない。やはりダートのトップ戦線に食い込む馬たちは粘りが違う。
ハギノアレグリアスの母母はタニノクリスタルなので、近親にはタニノギムレットがいる。懐かしのカントリー牧場の血統だ。母タニノカリスが岡田スタッドに移ったのは2012年。カントリー牧場解散のときだった。その後、5番目に産んだのがハギノアレグリアスだ。
血統表にあるタニノシーバードは谷水雄三氏が70年代に米国で落札した。その名の通り父はシーバード。凱旋門賞で2着に6馬身差をつけた名馬で、欧州年度代表馬に選ばれ、産駒から凱旋門賞馬や米国二冠馬を出しつつも、わずか11歳で早世した伝説の血。ハギノアレグリアスの血統表には日本のみならず、世界の血統の歴史が詰まっている。
オメガギネスは強気な作戦に出るも2着
2着オメガギネスは東海S2着の実績馬だが、GⅠへ向け、賞金加算をしないといけない厳しい立場にあった。早め先頭から押し切りを狙う強気な作戦は重賞タイトルへの渇望でもあった。だが、ラスト12.6でハギノアレグリアスにつかまった。得意な形を貫くには、1900mは少しだけ長かったか。
3着フタイテンロックは格下、13番人気の激走だった。ハンデは50kgであり、ダート中距離は斤量差が響くという実例のひとつだ。上記の通り先行勢が中盤からじわじわとラップをあげる形のなか、その後ろからしぶとく伸びた。
盛岡でデビューし、南関東に移籍後、2023年7月から7連勝。JRA3勝クラスに編入された実力馬が今夏、目を覚ました印象だ。とはいえ、2走前は同舞台の自己条件5着とちょっとつかみどころがない。3走前はハイペースの柳都Sで2着に入っており、締まった流れで良さが出る。この手のタイプは自己条件で過信禁物。もちろんタフな流れならいいが、先行型が少ない大人しい流れだと、追って案外といった場面もある。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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