【中山記念回顧】本格化迎えたマテンロウスカイ 横山典弘騎手に導かれ惜敗続きにピリオド
勝木淳
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中山記念を読み切れる横山典弘騎手
春への移ろいに抵抗するかのように寒波が襲来し、春を告げる前線が列島の南に横たわった週末、中山はその影響から肌寒く冷たい雨に見舞われた。開幕週の道悪は内側が優位で時計を要するという難しい状況になる。逃げ馬テーオーシリウスが外枠に入り、ハナを奪えない展開は予想外といえば予想外だった。
細かい部分は違っていても、レースの展開を読み切っていたのがマテンロウスカイに騎乗した横山典弘騎手だ。中山記念は最多6勝目。金曜日に56歳になったばかりのベテランは中山芝1800mを熟知している。道悪でも開幕週ならインの先行が定石。逃げ差し自在のマテンロウスカイは全16戦のうち15戦の手綱をとった気ごころ知れた相棒で、意図をくんだレースプランを実現できる。
典弘騎手の中山記念の成績【6-5-1-12】のうち、1~4枠【6-1-1-4】、5~8枠【0-4-0-8】と距離ロスを軽減し、立ち回りの巧さで乗り切る内枠でこそ輝く。マテンロウスカイもまさにその通りの競馬で、先手をとったドーブネについていき、4コーナー出口でその外へ持ち出し、あとは前をとらえるだけといった内容だった。たとえ上がりがかかったとしても、開幕週なら残れる。この馬場なら後ろは切れる脚を使えない。そんな確信すらあったはずだ。マテンロウスカイの自在な立ち回りは、レースごとに馬のリズムを優先させた結果だ。無理に形にはめ込むことはない。
惜敗にピリオドは本格化の合図
馬の意志を尊重しながら、少しだけ勝つための手順を示唆する。典弘騎手や武豊騎手はそんな競馬で勝利をつかむ。優秀なアドバイザーであり、コーチでもある。きっと、マテンロウスカイも気分がよかったにちがいない。これで1800mは【3-2-2-1】、逃げて1:44.7を記録したこともあり、得意距離といっていい。オープン昇級後は昨年末まで4番人気以下なしの、常に上位人気に推され、崩れたのは阪神芝2000mのケフェウスSのみと堅実に走ってきた。年明けは東京新聞杯6番人気5着、そして今回7番人気1着と人気を落としていた。堅実だけど一歩足りないというファンの見切りが早すぎた。
次走は大阪杯に進むのか。オープン昇級後、唯一の大敗だったケフェウスSは暴走気味に逃げて失速しているだけに、気になるところだが、その後のレースぶりから一過性のもののようだ。セン馬で、気性に危うい面がないとはいえないが、5歳になってその辺も抜けつつある。展開に左右されない自在型だけに混戦向きで楽しみだ。モーリス産駒といえば、昨年の大阪杯を勝ったジャックドールも切れ味で劣る難しい馬だが、武豊騎手のサポートでGⅠに手が届いた。マテンロウスカイと同じ5歳春で、モーリス産駒の本格化するタイミングも一致する。
母系にはスペシャルウィークとトニービンの血が入っており、5歳本格化をあと押しする。惜敗続きの馬がひとつパフォーマンスを上げたときは、逆らわずについていく。これも競馬の鉄則のようなものだ。
今後のソールオリエンスとの付き合い方
逃げたドーブネは2着。昨年マイル戦連勝後、馬体増だった京都金杯大敗を受け、再び中距離に路線を切りかえた陣営の判断が好結果を呼んだ。きちんと絞れて動ける状態に戻っていた。マテンロウスカイと同世代、かつ難しさを内包する点は似ている。マイペースを決めれば、最後まで諦めずに走るタイプのようで、距離も1800mがベストだろう。一気に行かず、スピードを殺しながら走れるコーナー4回もよさそうだ。外回りでも結果を出したが、加速しすぎない小回りだと折り合いをつけやすいのではないか。昨年も逃げて3着に残っており、リピーターはヒシイグアスではなく、こちらだった。
3着はマテンロウスカイの背後にいた皐月賞馬ジオグリフ。昨年はダート挑戦の1年だったが、芝替わりで前進した。とはいえ、道悪、かつレース上がり37.6の消耗戦であり、芝がいいとも言いきれない。最後は脚を使い、ドーブネにクビ差まで迫っており、中山適性は示した。インで少し窮屈な場面もみられ、気分良く走れれば、前進はありそうだ。同厩舎のチャンピオン・イクイノックスや木村調教師の精神的な支えとなったポジティブな性格が持ち味。いつもやる気満々なジオグリフにはもうひと花咲かせてほしい。今回は窮屈ながら善戦できた。次は変わってくる。
1番人気ソールオリエンスは4着に敗れた。最後は差してはきたものの、ジオグリフをとらえる勢いは感じなかった。特殊な馬場だった皐月賞以降、徐々に物足りなさを覚える度合いが上がってきており、心配だ。差して届かずを繰り返す現状をどう受け止めればいいのか。展開がハマるのを待つのか、馬が変わるまで待つのか。皐月賞のインパクトが大きかっただけに、毎回、人気に支持されるが、しばらく静観でもいいかもしれない。馬券は追いかけていいときもあれば、そうでないときがある。買い時の見極めがさらに難しくなった。
2番人気7着エルトンバローズは展開を考えると、力を出せなかった。行きっぷりも悪く、道悪が影響したとみる。ディープブリランテにブライアンズタイム肌なので、道悪がよさそうだが、そうもいかないようだ。次走、良馬場なら一変する。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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