【フェブラリーS回顧】超ハイペースを先行し押し切ったペプチドナイル 昨年末に見せた進化の片りん

勝木淳

2024年フェブラリーステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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前半800mは45.6

高速トラックとはいえ、真冬の東京は春や秋に比べれば時計を要する。今年は凍結防止剤も入り、乾いた状態が続いていた。今週は週中に気温が上昇した影響か、いくらか時計が出る状態ではあったが、それでも冬のダートはタフさも要求される。フェブラリーSはドンフランキーの先手は予想通りも、先行優位の傾向を踏まえたか、ウィルソンテソーロが積極的に主張し、ドゥラエレーデも対抗する形になり、好位勢がドンフランキーを追いかけることになった。先行勢がひと塊になったことで、ペースを落とすスキがなくなった。

前半800m45.6は芝でもハイペース判定がつくほど。1986年以降、東京ダート1600mで前半800m45.6以下だったのは今回を含め14例。このうち良馬場は5例目となる。そのうち冬の東京で記録されたのは4例目。00年フェブラリーS(45.3、勝ち馬ウイングアロー)、06年フェブラリーS(45.3、勝ち馬カネヒキリ)などがある。どちらも勝者は差し追い込みに徹しており、先行抜け出しで押し切ったペプチドナイルはひと味違う。後半600m12.5-12.4-12.9。有力どころも地方の雄イグナイターも追いかけたオメガギネスもみんな脱落していった。ペプチドナイルの心肺機能と我慢強さはライバルたちとは違っていた。


ペプチドナイルの進化

昨夏、オープンで先手を奪い連勝。自分のペースでプレッシャーさえ受けなければ強い。そんな印象があった。北海道シリーズの集大成エルムSは1番人気13着大敗。控えてまったく力を出せずに終わった。ブリンカーを着用しておりメンタルに課題がある。

そんな印象を覆したのは12月最後の開催ベテルギウスSだった。好位から勝負所で少し位置を下げながら直線で差し切った。あの脆さはいったい、どこへ行ったのか。当時、そんな違和感を覚えた記憶がある。自分の型を捨て、新たな戦法で勝つのは簡単ではない。それをあっさりやってのけたのは、なにかしら心境の変化があったのか。こればかりはペプチドナイルから直接聞き出したいものだ。

今回は序盤でウィルソンテソーロの主張に対し、一歩引き、その背後の外に収まった。やはり外から被されないことは条件なのかもしれないが、初のマイル戦も苦手な芝スタートも一切関係なし。道中の運びには余裕すらあった。揉まれ、敗戦を重ね、強くなる。私もペプチドナイルの進化から学ばないといけない。

生産者・杵臼牧場と聞けば、すぐ思い出すのがテイエムオペラオー。GⅠ勝利は01年天皇賞(春)以来、約23年ぶりになる。近年はトップナイフ、ライラックがGⅠ・2着など悔しい思いもしてきただけに、喜びもひとしおだろう。メイケイエールでGⅠ戦線を賑わせた武英智調教師はこれがGⅠ初制覇。メイケイエールで経験したGⅠを勝つ難しさが糧となった。もちろん、メイケイエールもGⅠウイナーにしたいところ。ペプチドナイルで勝った経験を今度は同期のメイケイエールに注いでほしい。物事はひとつ好転すると、一気に進むこともある。

藤岡佑介騎手はこれでJRAのGⅠ・2勝目。東京の芝ダートマイルGⅠ制覇となった。ペプチドナイルとのコンビは【3-0-0-1】。馬の気持ちを損なわないスタイルがペプチドナイルの心を落ち着かせたようだ。東海Sで行きたがり、それがハイペース追走につながった。失敗を成功に変える愚直な人間性も垣間見えた。


母の血が騒いだガイアフォース

レースラップは前後半800m45.6-50.1。東京の直線は各馬にとって極限状態に近かった。インから見せ場を作ったイグナイターはやはり、中央勢と対等に渡り合えるスピードがある。一方、オメガギネスは直線に入って反応できなかった。これまで経験したことがない流れに戸惑ったようだ。8着ウィルソンテソーロ、12着ドゥラエレーデはここ2走、中距離で先行しており、さらに前走は時計を要する大井。今回の流れは勝手が違ったか。快足ドンフランキーを深追いしたのは誤算だった。短距離馬のペースに付き合っては末脚を残せない。中距離で出直しだろう。

2着ガイアフォースは初ダートで気を吐いた。先行勢の後ろで流れに半分付き合ったような競馬だけに価値はある。最後はセキフウ、タガノビューティーとの競り合いを制した。ダートをモロともしない精神力を感じる。

鞍上の長岡禎仁騎手はGⅠ・4度目の挑戦で2度目の2着。フェブラリーSは16番人気で波乱を呼んだ20年ケイティブレイブ以来で、このレースの連対率は100%だ。この日、最終レースも勝っており、もっと経験を積んで栄光をつかんでほしい。

ガイアフォースの母ナターレは南関東で重賞を3つ勝った。その父はクロフネで5歳にして母系の血が騒ぐ。クロフネも芝からダートに矛先を変え、大化けした。賞金水準が高いダート戦線は難しい部分もある。今回はGⅠのため、レーティングで出走枠を確保できただけに、早めに賞金を加算し経験も積みたいところだ。

3着セキフウは武豊騎手のペース判断が好結果を呼び込んだ。展開待ちのタイプで、連続好走が難しい点が馬券を買う上での悩みの種だ。4着タガノビューティーと同じく昨年の武蔵野S出走馬であり、この辺のつながりは来年に向けてヒントになるのではないか。


2024年フェブラリーS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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