【エリザベス女王杯回顧】ブレイディヴェーグはまだまだ進化の途上にあり 今後の活躍を期待できる好内容

勝木淳

2023年エリザベス女王杯、レース結果,ⒸSPAIA

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勢いを欠いた古馬勢

キャリア5戦での古馬GⅠ制覇はあのイクイノックスに次ぐ2頭目だという。またもとんでもない記録が出たのだが、そんなときこそ、冷静になることも必要だろう。ブレイディヴェーグの強さの裏にはライバル、特に古馬勢がそれほど力を出せなかった点があげられはしないか。何事もまずは検証が大切であり、盲目がもっとも危険でもある。今年は前年覇者ジェラルディーナ、2着同着ライラックが出走していたが、2頭とも昨年のエリザベス女王杯からここまで未勝利だった。

そもそも昨年は阪神芝2200mの道悪という、もっともパワーを要求する厳しい条件だった。さらに中盤でそれほど緩まず、残り800mからスパートしていき、輪をかけてキツい展開であり、特殊舞台の競馬を味方につけたのが後ろから進めたジェラルディーナとライラックだった。今年はいくらか緩い馬場とはいえ、京都芝2200mとはイメージが違う。

ほかも古馬勢で今年重賞を勝った馬を数えると、3頭にとどまる。ディヴィーナ(府中牝馬S)、アートハウス(愛知杯)、ビッグリボン(マーメイドS)、OPに広げてもサリエラ(白富士S)を含めた4頭で、下半期はディヴィーナに限られる。府中牝馬Sを勝ったディヴィーナが芝2200mに不安があるとなると、必ずしも古馬陣に勢いがあったとはいえない。3歳に比重を置きたくなるのは自然の流れだった。

秋華賞をパスした判断

ブレイディヴェーグ1番人気は過剰人気ではないかと怪しむ声もあったが、結果は1着。一列前にいたハーパーをあっさりとらえた。個人的には前シーズンのPOG指名馬であり、その能力の高さは未勝利戦でしかと確認していた。

あれは雪で発走時間が繰り下げられた日のことだった。スローペースのなか、好位に構え、直線で2着馬を6馬身も突き放した。POG指名馬の圧倒的な走りに明るい未来が見えた。ただし、デビュー後に骨折するなど、ブレイディヴェーグは能力に身体がついていけていない悩みがあった。この歯がゆさはPOG指名者より、馬主、陣営の方が何倍も感じたにちがいない。走りに身体がついていかないのはイクイノックスと似た境遇であり、関東の若手調教師特有の柔軟さが実を結ばせたといえる。

骨折でクラシックシーズンを全休し、復帰したのは6月の終わり。POG期間は終わっていた。東京芝2000mを1:57.9で快勝。走ればやはり能力は重賞級だった。ローズSで芝1800m1:43.2を記録し、続戦を心配したが、ブレイディヴェーグをよく知る関係者は慎重だった。あえて秋華賞をパスし、エリザベス女王杯へ。この選択がGⅠ馬に導いたといっていい。馬の状態を優先させ、決して無理をさせず、最善手を打つ。同馬をGⅠ馬にした手腕は確かなものがあった。

母インナーアージの母はミュージカルウェイ。フランスでドラール賞など重賞を3勝し、香港C3着など活躍した。その初年度産駒がインナーアージであり、全妹に二冠牝馬ミッキークイーンがいる。中距離に強い母系にロードカナロア。同馬にとって2000m以上のJRA・GⅠ優勝は、アーモンドアイ、サートゥルナーリアに次ぐ3頭目。中距離系の牝系によって代を経るごとに中距離型が出てくるなら、キングカメハメハの後継として懐の深さを見せられそうだ。

レース巧者になったブレイディヴェーグ

ブレイディヴェーグはゲートを真っ直ぐ出ないなど若さを見せつつも、さっと好位につけるなど1番枠を利用した器用な立ち回りを見せ、格段にレースが上手になった。ラチ沿いの隊列はハーパー、ブレイディヴェーグ、ルージュエヴァイユ。川田将雅騎手、C.ルメール騎手、松山弘平騎手、名手たちの並びに間違いはない。ハーパーが横に動けば、ブレイディヴェーグも同じように動き、徹底して背後を離れない執拗なマークだった。1000m通過1:01.1と遅かったが、その分、残り800m坂の下りからじわじわとペースアップしていった。

ハーパーが馬場のいい外へ行こうとするも、ゴールドエクリプスに阻まれる。そんな攻防を見ていたブレイディヴェーグはハーパーの内に進路を定め、直線で抜け出した。最後の200mは12.0とかかり、後ろも差せる流れではあっただけに、ラチ沿いでスタミナを温存した1~3着馬の鞍上の騎乗が光った。レース選択や好騎乗などアシストも多分にあったブレイディヴェーグがこの先、キャリアを積んでどこまで強くなるのか。キャリアは少ないながら、確実に競馬が上手になっており、底知れなさも感じる。今回はその始まりにすぎないかもしれない。

2着ルージュエヴァイユは重賞連続2着と古馬のなかではもっとも充実していた。勝ち馬の内から迫るも、併せるところまでは持ち込めず。本音は外に出したかっただろう。だが、レース展開からそのチャンスはなかった。それでも2着確保は充実期に入ったからこそ。1800、2000mなら重賞タイトルも巡ってくる。3着ハーパーはブレイディヴェーグにマークされる形と、勝負所で外へ出すのに手間取った。結果的に外へ出せたが、内へ飛び込んだ1、2着馬と比べると、距離ロスも響いた。狙われる形になった分、3着に終わったが重賞2勝目は近い。

唯一差してきたのが4着ライラックだった。馬群に入り、直線入り口まで少し待たされたのも痛く、馬群に突っ込まざるを得ず、末脚を存分に使いきれたとは言い難い。特殊なレースになった昨年を思えば、この4着で改めて力は示したといえる。昨年の勝ち馬ジェラルディーナは5着。パドックからイレ込んでおり、ゲートで遅れをとるなど、内面が響いた。時計がかかった残り200mで差を詰めはしたが、いくらか昨年のような力強さがなかった印象を受けた。

2023年エリザベス女王杯、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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