新時代を駆ける「逃げの名手」は? 勝利数では横山武史騎手、馬券なら木幡育也騎手

SPAIA編集部 鈴木佑也

若手逃げ騎手インフォグラフィックⒸSPAIA

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騎手の花形でもある「逃げ」戦法

「逃げ」戦法には華やかさと脆さが同居した独特の魅力がある。サイレンススズカやツインターボ、近年ではエイシンヒカリやキタサンブラックなど、逃げる競馬で人気を博した馬は枚挙に暇がない。

スタートから先頭を走って自らのペースに後続を従え、そのままゴールをはかる逃げ戦法は騎手にとってもまた花形だ。そんな逃げを得意とするジョッキーとしては前述のツインターボとコンビを組んで「逃げの中舘」の異名をとった中舘英二元騎手(現調教師)がいの一番に挙がるだろう。

また、現役では武豊騎手(当然、逃げ以外も一級品だが)や、地方・船橋競馬所属の左海誠二騎手に逃げのイメージが強い。武豊騎手はデビュー34年目、左海騎手は28年目と、どちらも大ベテランだ。

では、若手で逃げ戦法を得意としているのは誰だろうか。今回の記事では騎手の「逃げ」に関する各種データを見ながら、令和の競馬界を背負って立つ次世代の「逃げ騎手」が誰か、探っていきたい。

横山武史騎手が「逃げリーディング」

まずは2020年、現段階での逃げ勝利数、通称「逃げリーディング」を見ていこう。上位の顔ぶれ自体は通常のリーディング表と似ているが、順番はかなり異なっている。

逃げ騎手リーディング

逃げに限定した場合の勝ち星トップは21勝で横山武史騎手。トータルでの勝利数ではルメール騎手132勝に対し横山武騎手66勝とダブルスコアをつけられているが、逃げに限ると逆転する。2位に20勝で武豊騎手、3位に19勝で松山騎手が続き、ルメール騎手は4位となった。

そのルメール騎手は今年505回ものレースに騎乗して、逃げたのがわずかに33回。積極的に逃げるタイプではないようだ。ただ、逃げたときは勝率57.6%と10回以上逃げた騎手の中ではダントツの成績をマークしている。またルメール騎手が1700m以上のレースで逃げた場合、勝率が68.8%とさらに上昇する。普通、短距離戦の方が逃げ有利の傾向を示すだけに、卓越した技術を証明するデータといえる。

あまり逃げないルメール騎手とは対照的に、逃げを積極的に選択しているのが2年目の団野大成騎手。69回の逃げ回数は全騎手中トップだ。回数が多い分、勝率は他のリーディング上位騎手にはやや見劣るが、言い方を変えればチャンスの薄い馬でも果敢に逃げて見せ場を作っている、とも解釈できる。前残りの馬場傾向やスローペースが予想されるときは狙ってみたい騎手だ。

若手では亀田温心騎手や木幡育也騎手にも注目

ここからは25歳以下の若手に限定して、横山武、団野両騎手に次ぐ「逃げリーディング」3位以下を見ていこう。

若手騎手限定の逃げリーディング



上位2名とは少し離されたが、12勝で3位に入ったのが亀田温心騎手。重賞初騎乗となった先日の函館2歳Sでも逃げて4着と健闘した。492回の騎乗で62回、つまり全騎乗の12.6%で逃げているという割合は団野騎手(12.0%)や横山武騎手(11.7%)よりも高い。3番人気以内の馬で逃げた際は【7-4-1-4】で連対率68.8%を誇っている。

4位には快速逃げ馬モズスーパーフレアとのコンビでGⅠを制した松若風馬騎手、5位には西村淳也騎手が入った。

9勝で6位の藤田菜七子騎手は382回騎乗で49回の逃げを敢行しており、逃げる割合は先ほどの亀田騎手をさらに上回る12.8%。ちなみに、この数字は今年100回以上騎乗している現役騎手の中では2位だった(1位は松田大作騎手の13.4%、5月に引退した中谷雄太騎手は15.4%)。

スタートが上手く、平場のレースでは女性騎手特典の2キロ減もあるため、逃げ馬とのマッチングが多い模様。ただ、藤田騎手はいまだに「ナナコ人気」を背負い続けていることもあり、逃げた際でも回収率があまり高くない点に注意しておきたい。

勝利数ではランクインしなかったものの、逃げの単回収率が619%という爆発的な成績を残しているのが木幡育也騎手。今週から開幕の中山コースでも13回の逃げで7回馬券に絡み、単回収率1248%、複回収率391%という驚異の数字。穴党は欠かさず買い目に入れておきたい。

横山武騎手の「逃げ」の特徴とは?

最後に「逃げリーディング」堂々の1位に輝いた横山武騎手について、馬券に活かせそうなデータを探ってみよう。

横山武史逃げデータ

まずデータを見て驚いたのが、なんと横山武騎手は今年の66勝全てを4角7番手以内の騎乗で挙げていることだ。父の典弘騎手は胸のすくような追い込みも要所で魅せる騎手だが、武史騎手は脚を余さないという意識が極めて強いようだ。

また、コース別の逃げ回数に注目すると、57回の逃げのうち、直線の短いコース(ここでは札幌・函館・福島・中山・小倉とする)での逃げが50回を数え、直線の長いコース(新潟・東京・中京。京都と阪神は騎乗なし)はわずか7回。前者の方が騎乗数も多いとはいえ、コースの特徴によって乗り方を変えている点がうかがえる。

ここまで述べてきたように逃げ先行の競馬を得意としているが、前走でも逃げていた馬に騎乗した際の勝率は16.7%と、そこまで特筆すべき数字でもない。むしろ回収率では前走が後方からのレースだった馬の方が狙い目で、単回収率272%を誇る。それまで後方で脚を余していた、届かなかった馬が積極策に転じて穴を開けるケースは多い。

逃げた際の成績では、距離延長とそれ以外のケースで大きな差がみられる。前走と同距離もしくは短縮となる馬での逃げで好成績を残している。前述したように先行意欲の高い騎手なので、距離延長の馬では比較的、オーバーペースに陥りやすいのかもしれない。

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