【宝塚記念回顧】闘争心を制して逃走したメイショウタバル戴冠 名手・武豊の巧みなペース配分も冴える

勝木淳

2025年宝塚記念、レース結果,ⒸSPAIA

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後続馬の末脚を削りとる“芸術的競馬”

上半期GⅠシリーズの最終戦となる宝塚記念はメイショウタバルが勝ち、2着はベラジオオペラ、3着はジャスティンパレスで決着。管理する石橋守調教師はGⅠ初制覇を武豊騎手、「メイショウ」の勝負服で達成。雨あがりの仁川に夏を呼び込む爽やかな風が吹き抜けた。

名手の巧みなペース配分は感動すら覚える。序盤3Fは12.4-11.0-11.4の34.8。先手を主張し、追いかける好位勢を制し、きっちり主導権をとる。ここから12.1-12.2-12.2と一定のリズムをとり、メイショウタバルを落ち着かせる。かといって後ろに動かれるスキを与えないようペースを落としすぎない。

勝負は残り1000mから。我先にとペースをあげ、11.9-11.9-11.8とレースをじわりと動かす。食らいつく2、3番手を次の1F11.7で振り切っていき、ラストは12.5。メイショウタバルが現状有する力をすべて出し切った。

折り合い難など不完全燃焼が多かった馬とは思えない。進むときは進み、キープしたいときはキープする。後ろが動きたくない流れをつくり、その間、末脚を削りとっていく。キタサンブラックで何度も目撃した芸術のような競馬だった。

改めてラップを並べると、以下の通り。
12.4-11.0-11.4-12.1-12.2-12.2-11.9-11.9-11.8-11.7-12.5

レース映像をみながらこのラップを振り返ると、味わいがより伝わるだろう。やりたくてもできる競馬ではない。


闘争心をコントロールし、我慢を覚えたメイショウタバル

推し馬という言葉を自分に当てはめるなら逃げ馬。つねに先頭を走り、後ろの追撃を振り切る潔さがたまらない。メイショウタバルは現役では唯一の存在だ。パンサラッサ、タイトルホルダーの熱い時代が通りすぎ、ぽっかり空いた穴を埋めてくれた。メイショウタバルのGⅠ初制覇は、穴を埋めてくれた以上に価値がある。見事な競馬だった。

競走馬の理想とはなにか、という問いに対し、発馬を決め、好位をとり、我慢して最後に末脚を残すという手筋が思い浮かぶが、これ以上に欠かせないものが闘争心だ。やはり競走は勝ち抜かなくてはいけない。最後の最後のしんどいところで負けまいと力を振り絞れる心の強さの持ち主こそが理想ではないか。

メイショウタバルはこの点でいえば、超一流。だが、闘争心を走り出すと一気に解放してしまう。そんな爆発力が陣営を悩ませてきた。

競馬としては、壊れていたという表現に近い皐月賞や、序盤で控えても途中から一気にいってしまった菊花賞など、難しい一面がある一方、毎日杯の圧勝など潜在能力は文句なし。その闘争心をどうコントロールするか。それさえ叶えば、類まれな心肺機能はGⅠをつかむだけのものがある。

そんな苦心の先に宝塚記念はある。確かに武豊騎手が騎乗したドバイターフでの抑制の効いた逃げはきっかけであり、今回も鞍上の導きは最後のワンピースだったかもしれない。だが、それ以上にメイショウタバルと陣営が闘争心のコントロールに取り組み、それを受け入れようとした馬の成長が大きい。

我慢を覚えたメイショウタバルの心肺機能には太刀打ちできない。大阪杯連覇のベラジオオペラが4コーナーで射程圏内に入れても届かなかった。この事実がすべてだ。

父ゴールドシップにとって宝塚記念は2013、14年の連覇、15年の大出遅れでやらかした思い出のレース。ここで自身の牡馬初の平地GⅠ馬が出たのは感慨深い。さらに着差0.5秒、3馬身差は牡馬だと、父が14年に2着カレンミロティックにつけて以来となる。

母メイショウツバクロの馬名由来は冠+つばめの異称。ツバメは昔、ツバクロとも呼ばれていたので、そちらが由来だとは思うが、今年2月に“中の人”が亡くなったつば九郎を連想させる。生前、企画で競馬の予想もしていたつば九郎が一発かましたような気もする。


展開、馬場敗因、明確な人気馬たち

メイショウタバルに離されたとはいえ、2着ベラジオオペラは不向きな馬場や展開にもかかわらず、3、4着馬の追撃はしのいでおり、GⅠ・2勝馬の力を示した。正攻法、いわゆる理想の競馬ができるので、大きく崩れない。ここ2年、猛暑で体調を崩しており、今年も夏の過ごし方がカギになるが、万全の状態で天皇賞(秋)に出走してほしい。

3着ジャスティンパレスは決め打ちがハマった。まともに流れに乗ってしまっては競馬にならないという判断なのか、後方から直線に懸ける競馬で着順をあげた。とはいえ、厳しい流れの体力勝負になると力を出すのは若い頃と変わらない。最強世代といわれる6歳勢のGⅠ馬は侮れない。

4着ショウナンラプンタは手応えに騙されるのか、どうも勝負所から早めに動いて、最後伸びきれない競馬が目立つ。天皇賞(春)も同じなので、距離適性とは別の問題がありそうだ。詰めの甘さ、最後のひと踏ん張りが課題だ。

8着ロードデルレイの敗因は馬場であり、9着ドゥレッツァ、11着レガレイラはスローに強く、今回は展開が向かなかった。メイショウタバルとは共存関係になく、顔をそろえた場合は、評価にメリハリをつけたい。

2025年宝塚記念、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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