【弥生賞回顧】ファウストラーゼンのマクリは魔術のごとく! 皐月賞もタフな流れ演出で勝利を狙う

勝木淳

2025年弥生賞ディープインパクト記念、レース結果,ⒸSPAIA

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操縦性の高さをみせたファウストラーゼン

皐月賞、そしてダービーをも見据えたトライアル弥生賞ディープインパクト記念は、7番人気のファウストラーゼンが勝ち、重賞初制覇。2着ヴィンセンシオ、3着アロヒアリイが皐月賞の優先出走権を手にした。

本レースは皐月賞と同舞台ながら、出走権がかかるトライアルということで各馬、慎重に大事にレースを進める傾向がある。今年もスタート直後の正面スタンド前で先手を主張する馬はおらず、どの馬も出方をうかがい、先頭に立ちたくないことが手にとるようにわかった。

こうなると1コーナーで内にいる馬がどうしても押し出される。ハナに立たされたのは3番枠のヴィンセンシオ。行きたくはないが、内で好位置を狙えば、自然とこうなる。当然、ペースを上げる理由はどこにもなく、3ハロン目から12.4-12.8とスローの気配。隊列が決まり、淡々とした流れになった。

これを嫌ったのが勝ったファウストラーゼンだった。残り1000m地点手前から進出し、一気に先頭へ。ここで11.5-11.7とレースが動くも、その後は12.4-12.1とペースダウン。同馬のマクリは急かして動かし、気合を注入したりしない。

どちらかといえばダービーでレイデオロがみせたマクリに近く、自然に走ったら先頭にいたという印象で、マクリ終えるとペースを落とせる。ファウストラーゼンの操縦性の高さ、センスを感じる。

馬名のファウストはドイツの錬金術師ヨハン・ファウストが由来。魔術に通じていたという伝説もあり、悪魔と盟約を結んだ魔術師ともいわれている。魅惑のマクリは魔術のごとく。皐月賞も楽しみだ。

ホープフルSは17番人気という伏兵だったこともあり一発に賭けるマクリだったが、今回はもう少し確信に近い。この形なら十分戦えるという自信に裏打ちされたマクリであり、ファウストラーゼン自身も2度目の経験で慣れた雰囲気すらあった。1度ならず2度マクリに出て、なおかつ勝ったという事実は重い。人馬とも自信を得たことは、皐月賞出走の権利を掴んだ以上の価値がある。

本番は3度目のマクリに期待しよう。マークされる、内で包まれるというリスクもあるが、ファウストラーゼンが早めにレースを動かせば、最後は厳しい戦いになる。今回もラストは12.7と時計を要し、上がり3ハロンは37.2。弥生賞としては珍しい我慢比べになった。

皐月賞と微妙な関係

厳しい後半は馬場の影響も大きい。この日朝のクッション値は8.5で、昨年4月7日以来の低さだった。硬い馬場は土ぼこりをあげるが、軟らかいと掘れてしまい、土の塊が飛ぶ。前日夜の雨がダメ押しになり、さらに掘れる馬場へと変わった。

一気に馬場が悪くなるのも中山の特徴で、本格的に暖かくなるまで時計を要する馬場になるだろう。この独特の力のいる馬場によって、差し馬勢は末脚を封じられ、マクったファウストラーゼンに追い風となった。

今年の馬場は本番に近いのではないか。もともとスローが多い弥生賞は皐月賞より距離が延びるダービーとつながる重賞でもある。今年は後半1000mの持久戦になったことで、タフなレースになることも多い皐月賞へのつながりも感じる。

一方、昨年レコードが記録されたように、近年の皐月賞は時計が速くなることもある。馬場は読みにくいが、1分57秒台で決着するようなら、弥生賞2.01.3は厳しい。ファウストラーゼンの走りを評価する以上、当日の馬場読み、特に時計の推移には気を配りたい。

ミュージアムマイルの適性

2着ヴィンセンシオは慣れない逃げに加え、途中で勝ち馬に先頭を譲るという大敗してもおかしくない状況を踏ん張っており、能力の高さを感じる。難しい状況でも動じない精神力も示し、さすがはGⅠ馬を多数輩出するシーザリオ一族だ。この一族は性能以上に精神的に強く、どんな状況でも最後まであきらめない。この芯の強さはクラシックを戦い抜くうえで武器になる。

父リアルスティールはGⅠ・7勝馬キタサンブラックと同期で、クラシック2、4、2着。春二冠は同馬に先着を許さなかった。1800mを得意としたため、国内GⅠこそ獲れなかったが、サウジカップを勝ったフォーエバーヤングなど大物を送り、自身の力を証明している。

3着アロヒアリイは5、6頭分外を回って追いあげた。まだまだ外を回ったらアウトという馬場であり、状況的にはよく伸びたといっていい。父ドゥラメンテ、母父オルフェーヴルと二冠、三冠馬の血が入り、底力を秘める。母エスポワールは通算【4-3-2-3】と崩れにくい強さがあった。アロヒアリイは混戦向きの印象で、穴馬には一考だろう。

1番人気ミュージアムマイルは4着。タイミング的に外を回らざるを得ない状況になり、競馬の形としては厳しかったため、最後に伸びを欠いた。休み明けであり、本番を見据えた競馬だった面は考慮しなければならないが、さらに外を回った3着アロヒアリイに1馬身差は見逃せない。

朝日杯FSをみてもマイラーではなさそうだが、小回りや軟らかい馬場が合わないのではないか。朝日杯FS当日の京都芝クッション値は11.6、2勝目をあげた黄菊賞も11.1で、経験の浅さゆえ、今回の馬場に対応できなかった可能性はある。

2025年弥生賞ディープインパクト記念、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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