【スプリンターズS】逃げ候補2頭は競り合わない 本命はビクターザウィナー、対抗はピューロマジック

山崎エリカ

2024年スプリンターズステークスのPP指数,ⒸSPAIA

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ペース上がりやすい舞台も、逃げ候補は競り合わない

スプリンターズSが行われる中山芝1200mは、外回りの坂の頂上付近からスタートし、約4.5mの坂を下っていくコース。3~4角のカーブが緩いため、下り坂で加速がついたまま4角に進入することになるが、もうひと押しのところで失速し、差し馬が台頭するというパターンが多い。

スプリンターズSも、中山開催の過去10回で逃げ馬は2着3回、3着1回と一度も勝利がなく、同様の傾向が見てとれる。この傾向は前半からスピードが乗ってしまう超高速馬場でより顕著となる。しかし、今年に関しては、逃げ馬候補のピューロマジックとビクターザウィナーがそこまで競り合わないと見て、極端に前がかりの展開にはならないと想定している。


能力値1~5位の紹介

2024年スプリンターズSのPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 マッドクール】
今春の高松宮記念の覇者。同レースでは2番枠からまずまずのスタートを切り、そこから押して先行策をとった。外からハナを主張するビクターザウィナーにある程度は抵抗しながらも最終的には行かせ、2列目の3~4角で最内を通り直線へ。直線序盤ですっと伸びて半馬身ほど前に出て、ラスト1Fでそのまま抜け出したところをナムラクレアに急追されたが、ハナ差でしのいだ。

中京芝1200mは道悪になっても外差しは決まりにくく、前走時も圧倒的に内が有利な馬場。ここでは最短距離を通るスマートな立ち回りで自己最高指数を記録した。

前走のチェアマンズSPは、休養明けで高松宮記念を好走した疲れからか大外11番枠からやや出遅れてしまった。そこから押してハナを狙ったが、3角までに取り切れなかったことで、3角で外に膨らんで位置が下がり、11着に大敗。今回はそこから立て直されての一戦で巻き返しは期待できる。

高松宮記念時ほどの指数では走れないと見ているが、国内では熱中症に近い状態で体を絞り切れなかったCBC賞以外は馬券圏内を外していない。昨秋のスプリンターズSでも10番枠から上手く好位の最内に入れてハナ差2着に善戦したこともあり、軽視できない。

【能力値2位 ナムラクレア】
2歳時から重賞で活躍し、3歳夏に函館スプリントSを勝利。同年のスプリンターズSでは5着に敗れたものの、道悪のなか行われた昨年と今年の高松宮記念で2着。昨秋のスプリンターズSでは、1番枠からやや出遅れたが、中団の中目のスペースを拾う形で好位の直後まで上がり、3~4角でやや外目を回るロスを作りながらも3着に善戦した。

前々走の高松宮記念では2着。同レースでは3番枠からまずまずのスタートを切ったが、促してもあまり進まず、中団中目からの追走。道中はビッグシーザーの後ろの位置を確保して進み、3~4角では最内を通って3列目で直線へ。直線序盤で抜け出したマッドクールの後ろから最内を通って2列目まで上がり、ラスト1Fでしぶとく猛追したが、アタマ差で惜敗した。

前走時は内が圧倒的に有利な馬場。上手く最内を通ったことで自己最高指数を記録した。そこから立て直されて始動戦となった前走のキーンランドCでは5着と、芝1400m以下では3歳時のスプリンターズS5着以来の馬券圏外に敗れた。

昨年までと比べると、スタートと二の脚がやや甘くなっている面は感じられる。ただ、前走は2番枠だったこともあり押して最内を先行したことが主な敗因とみている。また、馬場の内側がやや悪化していたことも敗因のひとつだ。今回は乗り方次第では巻き返してくるとみている。

【能力値3位 サトノレーヴ】
3歳4月と遅いデビューになった芝1600mの未勝利戦を勝利。その後は条件戦で一度も連対を外すことなく芝1200mで順調にキャリアを積み、今年2月の阪急杯では、重賞初挑戦ながら4着とOPでも通用する能力をアピールした。3走前の春雷Sを勝利すると、重賞の函館スプリントS、キーンランドCを連勝し、サマースプリント王者に輝いた。

前走のキーンランドCでは、10番枠から五分のスタートだったが、二の脚が速く楽に先行。他馬の出方をうかがいながら2列目の中目で進めた。3~4角で先頭のセッションの後ろを進み、4角出口でセッションの後ろから外に出て、2列目付近で直線へ。直線序盤ですっと伸びて先頭列に並びかけると、ラスト1Fでそのまま抜け出して1馬身半差で完勝した。

折り合いがスムーズで、仕掛けを我慢できる点が魅力のレース巧者だ。また前々走では最後の直線で1頭分だけ開いたスペースを突いて抜け出しており、この辺りに素質の高さも窺える。しかし、秋の頂点を目指す馬は夏場を休養にあてるのが一般的だ。

サマースプリントを二連覇したベルカントが、スプリンターズSで2桁着順に終わったのは、そこにも理由があったとみているし、2022年のサマースプリント王者となったナムラクレアも同年のスプリンターズSでは5着と、初めて芝1400m以下で連対を外す結果となっている。ただ本馬に関しては上昇一途なので警戒はしたい。

【能力値4位タイ ルガル】
デビュー当初はダートを使われていたが、芝路線に転向して本格化。芝2戦目、不良馬場で行われた昨年の橘Sを5馬身差で圧勝し、3歳春の時点で古馬OPでも十分に通用する指数を記録した。その後は出遅れやレース中の不利が続いて善戦止まりだったが、前々走のシルクロードSで重賞を初制覇した。

前々走は4番枠から好スタートを決めてハナを主張したが、最終的には外のテイエムスパーダを行かせて、離れた2番手を追走した。3~4角ではコントロールしながらテイエムスパーダとの差を詰め、4角では持ったままで同馬と半馬身差で直線へ。直線序盤で馬場状態の良い外に誘導してテイエムスパーダをかわし、1馬身半ほど前に出た。ラスト1Fでそのまま抜け出し、アグリの追撃を問題にせず、3馬身差で完勝した。

シルクロードSで記録した指数は、ここでは1位タイ。昨秋のスプリンターズS出走なら優勝、今春の高松宮記念出走ならマッドクールやナムラクレアと接戦レベルのものだった。

しかし、1番人気に支持された前走の高松宮記念では10着敗退。この敗因を悪化した馬場に求める見解もあるが、この馬は不良馬場でも実績がある。となると、シルクロードSで自身がこれまでにないレベルの走りをした疲れによるものが大きいと考えられる。レースからしばらくたった頃に骨折が判明し、今回は休養明けのぶっつけ本番になるが、巻き返して当然の実力がある。重い印を打ちたい。

【能力値4位タイ トウシンマカオ】
新馬戦を勝利し、次走京王杯2歳Sでいきなり2着に入った素質馬。3歳OPのクロッカスSでは好位の外から掛かりながらも勝利し、その次走のファルコンSでは1番人気に支持されたが、ここでは他馬よりも斤量が重かったこともあってダッシュが付かず、好位の内目で包まれて5着に敗れた。

2~3歳時は芝1400m~1600mを使われていたが、3歳夏以降は芝1200mを中心に使われ、重賞を4勝。前走のセントウルSでは、17番枠からやや出遅れたが、押して中団の外目まで挽回し、3~4角で外を回ってジョウショーホープの後ろから直線へ。直線序盤の伸びは地味だが、それでも一列上がってラスト1Fでは一気に伸び、最後はママコチャを捉えて半馬身差で勝利した。

本馬はエンジンが掛かると堅実に伸びてくるタイプ。4走前のオーシャンSも、京阪杯の2勝も外枠からエンジンを掛けていく形で勝利している。今回は内枠。中山の超高速馬場を考慮すると2番枠は好ましいが、この馬の適性を考えた場合は外枠がベストだ。

また今回は休養明け好走後の一戦。今春の高松宮記念では、休養明けのオーシャンSを好走した疲れから6着に敗れたように、ここも取りこぼす可能性も十分あるとみている。

【能力値4位タイ ヴェントヴォーチェ】
前々走の2023年のオーシャンSで重賞2勝目を挙げた馬。同レースでは9番枠から五分のスタートを切り、軽く促して中団の外目で脚を温存した。3~4角で前がペースをコントロールしている状況下で外から押し上げ、4角出口では楽な手応えで2列目の外まで上がって直線へ。直線序盤ですっと伸びて先頭に立ち、3/4差ほど前に。ラスト1Fではしっかりと抜け出して2馬身差で完勝した。

前走の2023年高松宮記念では、休養明けに好走した疲れで進みが悪く、3角手前から内にモタれ気味の苦しそうな競馬。結果、8着に敗れた。その後、繋靱帯を痛めて休養し、今回は1年6ヵ月ぶりの一戦。長期休養明け自体はそこまで悪くないが、多くの馬が引退に追い込まれた不治の病からの復帰。全盛期の能力を失っていることが多いので、ここは様子見したい。


本命馬はビクターザウィナー、対抗はピューロマジック

【ビクターザウィナー】
今春の高松宮記念は逃げながらも最後の直線で伸びない外を選択する形で3着に敗れた。しかも、この高松宮記念はセンテナリースプリントCを大目標とし、結果を出した後の一戦である。

前々走のチェアマンズSPでも抜群のスタートを決めてハナを主張したが、前半は外からハウディープイズユアラブに競られて息を入れられず、3角手前で今度はマッドクールが迫ってきたので抵抗し、ペースを引き上げて苦しくなった。完全なオーバーペースだったが、マッドクールには先着している。

前走のシャティンヴァーズでは6着敗退。ここではシーズンオフを前に一度使っておきたかったのか、斤量61kgの酷量を背負っての出走だった。ややスローペースで逃げながらも最後の直線で伸びあぐねた辺り、本調子ではなかったと考えられるが、それでも残り300mまで先頭に立っており、見せ場はあった。

今回は立て直されての一戦。現状、香港馬と日本馬のトップクラスの対決では香港馬が優勢の勢力図がうかがえるだけに、ここは本命候補としたい。

斤量61kgを背負っても抜群のスタートを決めるほど一完歩目が速いが、昨年の香港スプリントでは外のジャスパークローネを行かせて2番手の外から小差の4着に善戦しているように、控えてもやれる馬。大方の予想に反し、ピューロマジックとそこまで競り合いにならないパターンもあり得るとみている。

【ピューロマジック】
3歳馬ながら北九州記念を優勝。同レースでは12番枠からまずまずのスタートだったが、スピードの違いで内に切れ込み、同型馬を制すると、そのままペースを緩めずに3角へ。3~4角でも最内を通って2馬身差を維持。直線序盤でヨシノイースターに1馬身3/4差まで詰められた。ラスト1Fでは同馬にさらに詰め寄られたが、しぶとく踏ん張り、半馬身差で振り切った。

北九州記念当日は時計の掛かる稍重馬場かつ強風で、ハイペースで逃げ切るのは楽ではなかった。それでも、前後半3F32秒3-35秒6の相当なハイペースで逃げ切り勝ち。斤量53kgと恵まれた面はあったが、初速の速さにものを言わせての横綱競馬で新星誕生を予感させた。

前走のセントウルSは休養明けで好走した疲れで13着敗退。それほど速くないペースので逃げだったが、前々走では消耗戦に持ち込んでの優勝だったことから、大敗しても当然だった。今回は前走で凡走したことで疲れが取れて、変わり身が見込める。

今回はビクターザウィナーとの競り合いが予想されるが、ピューロマジックは初速が非常に速い上に、ビクターザウィナーよりも内枠を引いたので、本馬が逃げて、ビクターザウィナーがその外2番手という形で隊列が落ち着く可能性が高いとみている。ここは対抗評価だ。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)トウシンマカオの前走指数「-23」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.3秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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