【高松宮記念回顧】マッドクールがナムラクレアとの壮絶な叩き合いを制す 血統表にはワージブの名前も
勝木淳
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はね返された壁は必ず乗り越えてきたマッドクール
5年連続で重、不良で行われたスプリントGⅠ高松宮記念。今年のゴール前はひと際、感情を揺さぶられる熱いものがあった。昨年のスプリンターズSでハナ差敗れたマッドクールが先頭でゴール板を目指し、昨年の高松宮記念2着ナムラクレアが進路を切りかえてから再加速。2頭並んで飛び込んだゴール板。どちらも勝って昨年の雪辱を果たしたい。その執念たるや、これぞ競馬だと胸を張って伝えたい。2着では終われない。勝たなければ未来に名を残せない。すべてはそのためにある。
最後のバトンを託された2人の騎手、その叱咤にこたえる2頭のサラブレッドの姿に、もはや自分の馬券など吹き飛ばされた。人は挑戦を諦めたとき、年老いていく。アントニオ猪木氏の言葉がよぎる。たゆまぬ挑戦の先のゴール板はできることなら2つあってほしかった。
最後はマッドクールがわずかアタマ差でしのぎ切った。2年前に未勝利戦から4連勝でオープン入り。このうち3勝が今回と同じ中京芝だった。重賞初挑戦は昨年のシルクロードS。連勝の勢いを評価され1番人気に支持されるも3着。1200mではじめて負けた。
その後、春雷Sを勝ち再浮上を狙うもCBC賞9着と壁にはね返された。それでも次走のスプリンターズSで2着と弾かれても必ず乗り越えてきた。香港では輸送で体を減らし8着。今回は挽回する番だった。馬体重は+18キロで、デビュー以来最高体重。香港の負けを引きずるどころか、それを糧にしていた。はね返されても壁を必ず乗り越える。これがマッドクールの魅力だろう。
令和に栄えるワージブの名
マッドクールの父はDark Angelで、血統表の奥にはワージブの名前がみえる。この馬名をみて、記憶を90年代に飛ばした方は年季の入った血統派といっていい。かつて藤沢和雄厩舎に所属し、1995年ラジオたんぱ賞を勝ったプレストシンボリの父がワージブだ。日本では枝葉を広げられなかったが、ワージブは欧州でその血脈を残していった。
英国スプリントGⅠ・2勝のロイヤルアプローズの孫がDark Angel。マッドクールの勝利によって、ワージブの血が日本に残る可能性が高くなった。プレストシンボリから約30年、かつて地味な存在だったワージブの日本での復興はマッドクールからはじまる。
そんな希望の光マッドクールを所有するサンデーレーシングはこの勝利でJRAのGⅠ完全制覇を達成した。99年阪神3歳牝馬S8着アルーリングアクトから24年4カ月での達成はあっという間のことともいえる。
Dark Angel産駒は現在、JRAに6頭の現役馬がいる。産駒の通算勝利25勝中15勝を1200mであげ、函館3、福島3、小倉4勝の小回り巧者でもある。小倉に強いように高速決着も苦にしない。マッドクールも条件戦時代に小倉で1:06.9を記録した。決して道悪専用ではない。決着時計に幅があるのはスプリントのチャンピオン級の証でもあり、まだまだ秋も主役をはるだろう。
収穫があった4着ウインカーネリアン
またも涙を飲んだナムラクレアは、これでスプリントGⅠで5、2、3、2着。本当にあと一歩が遠い。重馬場で記録した上がり3ハロンは33.2。これだけのパフォーマンスで勝てないのはなぜなのか。なんともいえない気分だ。最内が伸びる馬場で3番枠を引き、定石通り終始最内を通って抜けてきた。目標だったマッドクールが前にいて、切り返す場面でバランスを崩し、わずかに離されたのが結果につながったが、決して手筋に誤りはなかった。ゴール前の脚色は勝ち馬をしのぐものがあり、それだけに負けてしまったのが悔やまれてならない。
レースは前後半600m34.9-34.0。スプリントGⅠとしてはスローの後傾ラップだった。重馬場を差し引いても、流れは先行勢のもの。溜めて伸び、3着に入ったのはナムラクレアしかいない。
この流れを演出したのが香港のビクターザウィナーだ。抜群のダッシュ力で先行勢の機先を制した。ダッシュ力抜群との評判通り、最初の2ハロンで隊列を決めてしまった。前半からハイペースで流れにくい高松宮記念では、逃げ争いがレースの形を決める。今年もそんな競馬になった。ビクターザウィナーは4コーナーで外へ行ってしまい3着。慣れない左回りで勝手が違ったようで、惜しかった。最内を譲らない姿勢があれば、また違っていたのではないか。
そのビクターザウィナーを追いかけ、粘ったのが4着ウインカーネリアン。速くない逃げを利用しての好走ではあるが、7歳にして初の1200m出走、それもGⅠでこの結果は堂々たるもの。スピードを生かした競馬が身上だけに、1200mなら番手でも競馬ができそうだ。内枠絶対有利の状況下で、外を通って踏ん張ったのは大きい。もちろん、後半がわずかに速い流れだったからこそであり、ハイペースでどこまでついて来られるかは分からないが、試してみる価値はありそうだ。
最後に引退レースだったメイケイエールについて。これまでも回顧で何度となく取りあげ、色々な推理を巡らせてきた。前に馬がいると追いかける、両側に馬がいるとエキサイトするなど、どうすればいいのか。勝手に頭を悩ませた。というのも、能力を発揮したときの強さがケタ違いだったからであり、なんとなく気になって仕方ない存在だったからだ。あの強さを備えた産駒に会える日が楽しみだ。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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