【福島記念回顧】ホウオウエミーズ、ついに重賞タイトル奪取! 絶妙すぎる田辺裕信騎手の仕掛け

勝木淳

2023年福島記念、レース結果,ⒸSPAIA

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6歳にして堅実さを増したホウオウエミーズ

とうとう重賞を勝ってしまったか。失礼な話だが、ホウオウエミーズの強さがついに万人に証明されてしまった。福島記念のゴールを過ぎ、最初に抱いた感想がこれだ。キャリア28戦、6歳牝馬ホウオウエミーズは、この6月まで好走は良馬場以外のいわゆる道悪に集中しており、1番人気での勝利はなかった。昨年の新潟牝馬S8番人気1着も稍重でのことであり、穴党にとってありがたく、分かりやすかった。牝馬ながら馬体重以上にパワーがあり、前走成績に関係なく、条件次第で一変する馬だった。

それが6歳の6月マーメイドS3着を機に良馬場でも結果を残すようになる。七夕賞3着、新潟牝馬S2着と堅実さを増していく。そして、福島記念を勝った。本格化したということだろうか。かつては道悪でこそだったが、最近は前半からある程度流れるようなスタミナ勝負であれば力を出す。これが福島記念でピタリはまった。福島名人の田辺裕信騎手を配したのも大きい。


スタミナと我慢強さが問われた

内にテーオーシリウス、外にバビット、ユニコーンライオンと小回りを利して逃げ込みたい馬たちがそろい、枠を味方にテーオーシリウスがハナを奪うと、ユニコーンライオン、シルトホルン、バビットらが追いかけ、縦長に。前後半1000mは59.5-1.01.4で落差は1秒9もあった。中盤以降はゴールまでラップはほぼ一定で推移し、スタミナと我慢強さを問われる競馬になった。

後方にいた馬たちのなかで、もっともタイミングよく動いたのがホウオウエミーズだった。少々強気でも、外を回るなら3コーナーから先に進出しないと間に合わないのが福島コースであり、田辺騎手らしい絶妙なタイミングで仕掛けた。それを可能にし、最後まで持ちこたえたのはホウオウエミーズの強さによるものだ。

ブレイディヴェーグと同じロードカナロア産駒だが、母父アグネスタキオンや母母父ホワイトマズルなど母系にスタミナ色が強い馬が並び、同産駒らしいハイペース耐性も加わった。なにより6歳で手にした重賞タイトルと安定感には頭が下がる。よくぞここまで強さを開花させたものだ。これから先、いつまで現役でいるか分からないが、ハイペース想定のレースでは人気がなくても買い目に入れたい。なぜなら、ホウオウエミーズはいつも人気以上に走る馬だからだ。


6着シルトホルンは経験値の差

2着12番人気ダンディズムにも恐れ入った。とはいえ、休み明けだった目黒記念12着から札幌日経OP3着、丹頂S2着と札幌芝2600mで好走を続けていた。条件が大きく変わったこともあり、人気の盲点ではあった。上記の通り、後半に入ってペースアップしない流れはスピードを問わず、スタミナ優勢の展開に導いた。洋芝の長距離で培った体力がここで生かされたといったところだ。

札幌芝2600mでの好走など、スタミナを問う競馬に強いのは父マンハッタンカフェに重なる。ダンディズムはその最終世代。軽さを要求される流れだとサッパリだが、2.00.9と時計がかかるハイペースなら中距離でもやれそうだ。成績のムラもスピード優先の昨今の競馬を考えれば、仕方ない。それを逆手にとって狙いどきを決めよう。

3着カレンルシェルブルは1、2着馬と同じく後方から進め、ペースを味方につけられたが、内にいた分、ホウオウエミーズの仕掛けについていけず、後ろから来たアケルナルスターに外へ出すスペースを作らせてもらえなかった。ちょっとした仕掛け遅れが最後に響いたようだ。先に動いたダンディズムが記録した上がり最速35.9に対し、こちらは36.0。勝負所でもたついた分、及ばなかったとみていい。本来はホウオウエミーズのように機動力があり、強気に動ける。ただ、こちらも時計面に限界があるので、好走できるゾーンはそこまで広くはない。

1番人気シルトホルンは6着に敗れた。古馬が演出する厳しめの流れのなか、好位をキープするのは堪えたようだ。この辺はキャリアの差で、上位馬たちとは逆に、もう少しゆっくり流れる形や緩急を問う流れになれば、同じ先行でも結果は変わってくる。


2023年福島記念、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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