明徳義塾・馬淵史郎監督の信念、目標は「甲子園」目的は「人間づくり」

SPAIA編集部

明徳義塾の馬淵史郎監督,Ⓒ双葉社

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3大会連続22回目の甲子園出場

熱戦を展開中の第104回全国高等学校野球選手権大会。3大会連続22回目の出場を果たした明徳義塾は第6日第3試合で九州国際大付(福岡)と対戦する。馬淵史郎監督に、『コロナに翻弄された甲子園』の著者である小山宣宏氏が高校野球に懸ける思いについて聞いた。

甲子園は「絶対に勝ちたいと思える場所」

世の中はコロナ禍の真っ只中にいる。2年前に比べればたしかに感染対策はできているが、コロナに罹ったときの対処は保健所の指示に従って動かなければならない。そのうえ免疫力が落ちるとコロナに罹る確率が高くなってしまうことで、以前のようなハードな練習を課すのも勇気がいることだ。

それでも明徳義塾の馬淵史郎監督は前を向いていかなければならないと強く話す。

「これまでの当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなった。だからと言って『しょうがない』と嘆くのではなく、不測の事態に備えて動く準備もしなければならない。監督や選手たちは、『野球だけをやっていればいい』という時代はもう終わったと考えるべきでしょう」

馬淵は甲子園で勝つために、負けた分析も余念がなかった。甲子園では54勝しているが、同時に34敗している。34の負けはすべて違う負け方をしている。それだけに、負けから学ぶこともおろそかにしていない。

かつての馬淵は「勝利至上主義」と批判されたこともあった。だが、これに対しても馬淵は異を唱える。

「甲子園の舞台に立ったら、監督であれば誰もが『勝ちたい』と思うわけですよ。あの場にいて、『勝っても負けてもどちらでもいい』という試合なんて存在しないんです。『勝ちたい』という強い気持ちがあるから、普段の練習も頑張れるし、研究もするし、苦しい練習にも耐えることができるのです」

馬淵と同じ言葉を以前、帝京の前田三夫(前監督)から聞いたことがある。帝京もかつては「勝利至上主義」とマスコミから批判され、逆境での戦いを余儀なくされた時期もあった。私は『いいところをどんどん伸ばす』(日本実業出版社)の取材でこの点について前田に聞いたときに、甲子園の魅力についてこう話していた。

「暑い夏に熱い戦いをする。あの舞台で勝ちたいと思うからこそ、自分を律して日々の練習に励む。野球は相手より1点でも上回れば勝つスポーツですが、そのためにはどんな作戦が有効なのか、相手をよく見て研究してから試合に臨むのです。甲子園は日々の頑張りを勝利に結びつける集大成の場だと考えていました」

馬淵もこの意見に賛成している。たとえ0対10で負けていても、どうにかして逆転できる方法がないか考える。その可能性がたとえ1%しかなくても、打開策を講じるべきだというのも、馬淵の勝負哲学のなかにある。

ミーティングで「何のために生きるのか」

同時にこれからは「コロナと共に」野球をやっていかなければならない。「コロナだからできない、仕方がない」と諦めるのではなく、「コロナのなかでも何ができるか」を第一に考えていく。

高校を卒業し、大学に進んでから社会人になったとしても、人生においてコロナ以上に苦労することだって大いにあり得る。「人生100年」と言われるなかで、高校野球ができるのは2年4カ月の間だけである。長い人生を考えれば、あっという間に過ぎてしまうわけだ。

だからこそ馬淵は、「目標は甲子園」とする一方、「目的は人間づくり」ということにも主眼を置いた指導をしている。これからの時代、野球しかできないという人材はもはや通用しない。人間教育を行って社会に出たときに、「明徳義塾出身の人材はさすがにいい教育をしている」と評価されるようでなくてはならない。

だからこそ馬淵は毎夜行うミーティングで「人間は何のために生きるのか」という話をすることもある。これも明徳の野球部を卒業した選手たちが皆、幸せになってほしいと願っているからにほかならない。

馬淵は70歳まではグラウンドに立っていたいと考えている。今年の11月で67歳になることを考えると、残り4年を切っている。その後は妻と秘湯巡りを楽しみたいという夢があるそうだ。

今年2月、馬淵は脊柱管狭窄症の手術を行い、3週間ほど入院していた。若い頃の体とはまったく違うことは、誰よりも本人が一番自覚している。けれども今はできることをきちんとやること。その考え方を馬淵は大切にして選手の指導にあたっている。

今年の夏、明徳義塾が2度目の全国優勝を果たせるのか、あるいは野球部を卒業した選手がどんな人材となって世のなかに輩出されていくのか。「コロナに絶対に負けない」と断言する馬淵の手腕に注目していきたい。

コロナに翻弄された甲子園

Ⓒ双葉社


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