【天皇賞(春)】底力が問われた伝統の一戦 カギを握った中盤1000mの攻防とは

勝木淳

2021年天皇賞(春)のレース結果ⒸSPAIA

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緩まなかった中盤1000m

いくつかあった京都と阪神の相違点のうち、もっとも大きいポイントは正面直線部分の急坂だった。芝3200mは外回りから内回りという珍しさも注目を集めたが、急坂を2回通過することが、よりスタミナを問う厳しさをもたらした。レースの最後600mは37.4、ゴール前200mは13.0、どの馬も最後は疲れた。テストケースとして行われた2月松籟S(3勝クラス)の勝ち時計は3分14秒9。天皇賞(春)の勝ち時計はそれを0.2上回ったにすぎない。

開幕3週目と12週目の最終週では馬場状態も異なるが、阪神の芝はレース数を抑え、開催を消化しても速い時計が出る好状態を保った。松籟Sと天皇賞(春)両日に組まれた芝1400m戦で比較する。2/27・2勝クラス平場戦(勝ち馬ルプリュフォール、4角11番手)600m通過33.2、勝ち時計1分20秒0。5/2・山陽特別2勝クラス(勝ち馬キュールエサクラ、4角先頭)600m通過33.6、勝ち時計1分20秒5。前日に降雨があっても極端な悪化はなかった。最終週でもそれなりに時計が出る馬場だった点を踏まえ、松籟Sと天皇賞(春)を比較したい。

まず先手を奪ったのはどちらもディアスティマ。最初の1000m通過は松籟S59.4、天皇賞(春)59.8。ジャコマルに外から絡まれたため、すぐにペースを落とさずに突っ込んだラップになったが、松籟Sではディアスティマは11秒台前半が続くもっと速いペースを刻んでいた。同馬にとって、マイペースに近い形だった。

ところが最初の急坂を通過する中間1000mが厳しかった。ディアスティマ、ジャコマル、カレンブーケドール、シロニイ、ディープボンドが形成した先行集団がひと塊に進み、お互いをけん制した。この区間は1分1秒5。松籟Sの中間1000mは1分3秒7。最初の急坂越えを含むこの中盤の緩みのなさが、結果としてレースを厳しいものにした。2000m通過は松籟S2分3秒1、天皇賞(春)は2分1秒3。全体時計は変わらないが、内容がまったく違った。したがって後方にいた伏兵陣は向正面半ばで早くも手応えを失くした。

明白になったステイヤー資質

松籟Sで残り1200mからペースをあげたディアスティマは、天皇賞(春)でも同じタイミングでジワリとペースをあげた。急遽の乗り替わりながら、松籟Sの再現をきっちり狙った坂井瑠星騎手の手綱さばきが光った。

このロングスパートに2着ディープボンドは手ごたえを悪くし、ステッキも入った。4コーナーでの手応えは3着カレンブーケドールが格段によかった。同馬は抜け出すとソラを使うクセがあるが、だからといって後ろを待てるような展開ではない。最後の急坂で脚色が鈍り、ディープボンドに捕まったが、間違いなく強い競馬はできた。

4回目のGⅠ3着、もう2、3着はいらないかもしれないが、5歳牝馬の天皇賞(春)3着以内は史上初。勝てるGⅠはどれなのか、悩ましいところだが、前を向いてほしい。

4コーナーで相当手応えが悪かったディープボンドは、ジリジリと止まらずに走ってカレンブーケドールを捕らえた。3歳クラシック戦線からこの馬は止まりそうで止まらないといったレースばかり。まさに生粋のステイヤーだ。ディアスティマのペースもロングスパートもこの馬向きの形だっただけに勝ちたかった。4コーナーで手応えが悪くなるのは、ペースアップに対応できないのか、コーナーリングが下手なのか。コーナーがキツい中山金杯大敗から後者である可能性も考えておきたい。走れる条件が狭いタイプで、評価の上げ下げにメリハリをきかせたいところだ。

勝ったワールドプレミアはディープボンドをマークしたアリストテレスを視野に入れつつ、理想的なレースだった。前半と中盤の厳しい流れとは絶妙な間合いを保ち、勝負所でしっかり射程圏に入れつつ、手応え十分だった。前崩れを遅れて差すというイメージもあったが、前走日経賞で早めにポジションをあげる競馬を試みたことも大きかった。2周目が内回りになる本番をにらんだもので、代打で手綱をとった石橋脩騎手もひと役買った形だ。4歳時は体調が整わず、秋2戦のみだったため、消耗も少ない。菊花賞馬らしく長距離向きではあるが、持久力勝負なら中距離戦線でも十分やれる。

4着アリストテレスは不可解な敗戦だった阪神大賞典を引きずっていたか。マークしたディープボンドに並ぶことはなかった。この2戦は力を出せていない。休養に入り、立て直すのも手かもしれない。

5着は牝馬のウインマリリン。厳しい流れでも先に動くことができ、包まれるのを嫌ったワールドプレミアに仕掛けるきっかけを与えた。3200m向きではないが、牝馬としては長めの距離に適性がある。それだけに今後はレース選択が難しくなるが、牡馬相手でも持久力勝負で戦えることを示した。例年、そういった持久力勝負のレースになりやすい宝塚記念でも強力メンバー相手にやれそうだ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。

2021年天皇賞(春)のレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA


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