【地方競馬対談】ホッカイドウ競馬・服部茂史騎手が登場! 「冒険」だった移籍、能力検査の秘密、そしてエーデルワイス賞を語る

2022-10-19 17:00:48山崎エリカ
地方競馬対談第4回、ゲスト服部茂史騎手,ⒸSPAIA(本人提供)

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地方競馬対談 第4回:服部茂史(ホッカイドウ競馬騎手)

競馬研究家・山崎エリカがゲストを招いて地方競馬のさまざまなトピックについて対談を行う連載。第4回のゲストはホッカイドウ競馬所属の服部茂史騎手。中津競馬場からの移籍当初のエピソードや、10月20日に開催される交流重賞・エーデルワイス賞について語ってもらった。

服部騎手の「冒険」とベテランになって変わったこと

山崎エリカ(以下:山) 先月末、船橋の渋谷信博先生に「服部騎手と対談する」と話したら「服部騎手は僕の友達だから良い記事にして下さいね」と言われました。せっかくだから先生に「服部騎手はどこが優れていますか?」と聞いたら、「どんなタイプの馬でも瞬時にどう乗るかをイメージできているところ」とおっしゃっていました。そこは経験からくるものもあると思いますが、それだけ馬を見ているということですよね?

服部茂史(以下:服) 渋谷先生、そんなことを言っていましたか(笑)。先生とはゴルフ仲間です。どう乗るかをイメージできているのは、経験によるものが大きいですね。僕はもともと中津競馬の出身で2000年にホッカイドウ競馬に移籍しました。移籍当初はとにかく僕の名前をひとりでも多くの人に知ってもらいたくて、夜中の2時からとにかく調教をつけてそのままレースに乗っていました。

 寝る時間がほとんどないじゃないですか!

 若くて体力もあったからできたのもあります。僕がホッカイドウ競馬に移籍したのは、騎乗技術向上のための冒険でした。それを体現するためには騎乗機会を増やすしかありません。そのためには名前を知ってもらうことが近道だと思いました。当時は無理もしましたが、それが馬の特徴を詳しく知るきっかけにもなっています。

 「冒険」とはいい言葉ですね。努力という言葉だと荷が重くて逃げ出したくなりますが、「これは冒険なんだ」と思うと楽しくやれそうで素敵です。服部騎手が2010~2012年の3年連続でリーディングを取ったのは、冒険で手に入れたものだったんですね。その後も常にリーディング6位以内を維持し続けて、今年も今現在で3位です。こっそり的場文男騎手のような座を狙っていたりしますか?

 的場さんは鉄人なので、比較してはいけません(笑)。でも、確かに若い頃よりは疲れが取れないようになったかなあって思っていますが、まだまだやれます。あと年を取って技術面で変わってきたことがあって、若い頃は勝ちにこだわっていたところがありましたが、今は「どれだけ楽に勝たせてあげるか」を考えながら乗っています。

 「楽に勝たせてあげる」というのは大事ですね。楽に勝たせてあげればその後が調整しやすいですし、若い馬なら成長の芽を摘まなくて済むこともいっぱいあります。ところで門別では騎手全員が控え室でその日のレースリプレイを見る習慣があると聞いたことがあります。そういったことも馬の特徴を知る機会になりますか?

 門別の騎手が当日のレースリプレイを控え室で見るのは、主に若手が危ない騎乗をしたものに対してベテランが注意喚起する、安全を目的としたものですが、それも馬の特徴を知るのに役立っているかもしれません。若手は技術的なことを聞いてくることもありますが、中堅やベテランになってくるとそれは自分で確かめるしかない。ほとんどの騎手はヘルメットを張り替えたりしながらリプレイを見ています。

 そういう若手に寄り添ったシステムが、落合玄太騎手や石川倭騎手などの若手の活躍に繋がっているのでしょうね。落合騎手は服部騎手と同じ田中淳司厩舎の所属ですが、彼はどうですか?

 落合はまだ24歳だから、ライバルというよりは子どものような感覚ですね。何をやってもかわいくて仕方ないです。コロナが流行る前の冬場の全休日には、毎週一緒にゴハンを食べて飲みにも行っていました。朝4時まで飲み明かしたこともあって、その時はみんなで楽しくやっていました。早くコロナが収束して、またそういう日が来るといいなぁ。

服部茂史騎手(2021年エトワール賞優勝時・本人提供)

2021年エトワール賞優勝時(本人提供)

能力検査の秘密

 ホッカイドウ競馬の特徴として、全国どこよりも早く3月からスタートする2歳の能力検査があります。この時期の2歳馬は1ヵ月の成長度合が速いと思うのですが、3月に能検を目指す馬よりも4月に能検を目指す馬の方が全体的に大人びていて馴致がしやすいなどはありますか?

 それはないですね。3月の能検を目指す馬も11月の能検を目指す馬にも優等生もいれば、なかなか言うことを聞いてくれない馬もいます。

 やっぱり、そうですか。完成された馬から能検を受けることになるので、完成が早いかどうかの差ということになりますね。能検に向かうまでの馴致や、騎乗する上で心がけていることを伺いたいです。

 能検に向かうまでの馴致で一番の目的はゲートで大人しくさせることですね。ゲートを出られないと何も始まりません。その後は真っ直ぐに走らせるという感じです。

 砂を被せる経験はするのでしょうか?

 ゲートが開いた時に周りの馬が速ければ、その後ろに入れて砂を被るレースをしてみたりはします。自分の馬が速くて前にいれば、そのまま抑えて行ったりすることはありますけど、わざわざ位置を下げて砂を被せに行ったりはしないですね。それで変な癖が着いても困りますから。

 つまり、テンが速い馬は砂を被るのが未経験なまま能検に向かって、そこでも速ければ砂を被る経験をしないままレースに向かうことになりますね。少なくとも自分よりテンの速い馬が現れるまでは、砂を被らずにすむことになりますが、自分より速い馬が現れた場合にどうか。それに馴致や能検は実戦よりも頭数が少ないですし、速度も出ていないので、そこでは砂を被って大丈夫でも、実戦では苦手な面を見せる場合もありそうですね。馬券を買う側は、そこも視野に入れて買わないといけません。ステッキを使うタイミングはどうでしょうか?

 ステッキは馴致でも能検でも使います。坂路追いで15-15(※1ハロンあたり15秒程度を刻む調教)ぐらいの時から入れています。若駒は古馬のようにスッと坂路を上って行くわけではないので、肩ムチを入れたりして、そこで馴らしていきます。うちの厩舎の馬は、坂路の段階でほとんど使いますね。

 能検でタイムの速い馬は、新馬戦で人気になりますが、まず走ってくれます。でも中には、能検のタイムは出走馬中で断トツなのに、実戦では走らない調教番長も何頭かはいます。それらに共通していることはありますか?

 背中が良いのに走らない馬は、精神的なものが大きいですね。怖がりな面が本番に行ったら出てくるものです。能検では5頭、6頭と少ない頭数で走りますが、実戦では9~12頭になるのでそこで怖がったり、お客さんがいるパドックを回ったりして気の悪さを出す馬もいます。音にも敏感で、怖がったりする馬もいますね。

 きっかけひとつで、変われそうではありますけどね。

 馬も環境に慣れるので、新馬戦で負けてもその後勝ったりもするんですけど、しばらく負け続ける馬もいますね。とにかくパドックでキョロキョロと落ち着かない馬は能力を出し切れない傾向があるので、若駒のレースほどパドックを見たほうがいいですね。

 服部騎手は2019年のエーデルワイス賞をコーラルツッキーで勝ち、ダートグレード初制覇を飾っていますが、コーラルツッキーは能検で跨っていかがでしたか?

 コーラルツッキーは能検の時から走ると思いました。ただ最初は前向きさがあり過ぎて、気性がいいとは言えませんでした。それで短い距離を使っていたんですけど、「この馬は長い距離だよね」という話は調教師と最初からしていました。レースを使っていたら落ち着きが出てきたので、長い距離でもいいと感じたのですが、最初の段階から調教師と相談してエーデルワイス賞が目標と決めていたので、そこから逆算してレースを使いました。リリーカップから1か月間を開けたのも予定どおりでした。

 2歳時、特に牝馬は短距離レースが充実していますからね。将来は中距離馬でも、最初の段階ではスプリント戦を使う馬はけっこういますよね。この年は大本命の逃げ馬プリモジョーカーが次々に競り掛けられて前がかなり厳しい展開になったので、コーラルツッキーは落ち着いて差す競馬ができて良かったですね。7番人気での大金星でした。

エーデルワイス賞と2歳戦線

 10月20日(木)にエーデルワイス賞が行われます。現在ホッカイドウ勢が5連覇中と、交流重賞でもっとも地元勢が強いレースとなっています。もともと「道営の2歳馬は強い」と言われていましたが、近年さらにレベルが上がったなど感じることはありますか? 上がったとすればその要因はどんな点にあると考えますか?

 エーデルワイス賞を使いに来るJRAの馬は1~2戦しかしていないし、ナイターは初めて。そこは明らかに不利ですね。競走馬のレベルが上がったというよりは、屋内調教用坂路ができてそこを目標に馬を作りやすくなったことが影響しているかもしれません。

 坂路ができた翌年にハッピースプリントが北海道2歳優駿(現JBC2歳優駿)と全日本2歳優駿を優勝して、2歳時はダート無敗。その時、一部で坂路効果だと話題になりました。中央競馬でもかつて東高西低の勢力図から西高東低に変わったのは、栗東に坂路ができてから。坂路は効率良く心肺機能を高められるので、有効でしょうね。あと坂路を使うためには十分な準備運動が必要で(いきなり使うと心臓麻痺を起こす)、乗り込み量を増やさなければならないのも結果に繋がっている、と栗東の調教師さんが言っていました。

 ただ門別の坂路は約1000mあるんだけど、実際に上る坂は約800m。栗東の坂路は約1200mで実際に上る坂は約1000mです。1200mのエーデルワイス賞を勝つのはそれほど難しくないのに、1800mのJBC2歳優駿がなかなか勝てないのは、そんなところに理由があるのかなぁと思っています。ホッカイドウの馬はJRAの馬たちのように、最後のひと脚がありません。

 脚をタメて最後グイッと伸ばすようなレースをほとんど経験していないというのも、ひと脚が使えないことに関係ありませんか?

 関係あるかもしれません。JRAなら昇級すれば相手が変わるけど、門別はそんなに相手が変わらないから、レースがワンパターンになりがちですね。そのぶん何とかならないのかと、調教でもレースでもがんばって乗っているんですけどね。

 ところで服部騎手はエーデルワイス賞でてっきりジョリダムに乗るのかと思っていたんですが、出走しないんですね。

 ジョリダムはJBC当日、盛岡芝1600mのジュニアグランプリを使います。中央のクローバー賞を勝っていますから。

 ジュニアグランプリは今年から1着賞金が400万円から大幅増額の2000万円。勝ったら何かご馳走して下さい(笑)。ジョリダムにはどのような特徴がありますか?

 ジョリダムは乗りやすい子ですね。注文をつけるところはないです。ただエピソードがあって、「ジョリダム」(フランス語で可愛い婦人という意味)と名付けたのはルメールなんです。桑田牧場で育成されていた時にルメールが馬を見に来ていて、その時に付けたそうです。

 ここでルメール騎手の名前を聞くとは思いませんでした(笑)。牧場の方も期待しているところがあったから、ルメール騎手に名付けてもらったのかもしれませんね。ところで服部騎手はエーデルワイス賞は何に乗られるんですか?

 僕はまだ決まっていません(注:取材日の10月14日時点。その後ラビアータへの騎乗が発表された)。

 では騎乗馬がない可能性も視野に入れて聞きますが、今年のエーデルワイス賞で乗ってみたいのはどの馬ですか?

 アサクサロックですね。松井(伸也騎手)が乗って重賞(フルールカップ)を勝った時に強いなぁと思って、松井に「エーデルワイス賞、チャンスあるんじゃない?」と言いました。エーデルワイス賞は前に行って勝っている、砂を被りたくない馬が多く集まる傾向があるので、2番手、3番手で砂を被った経験のある馬にアドバンテージがあります。それに直線も長いです。プレッシャーをかけられずに行ければ前も残れますけど、重賞だとプレッシャーをかけてくる馬がいて、前が止まりやすい。僕だったら差し馬に乗りたいですね。

 なるほど! 今回逃げてプレッシャーをかけられそうなのが、JRAのエコロアイです。武豊騎手ですから、おそらく1番人気でしょう。エーデルワイス賞はJRAの馬が不当に人気になって、門別の強い馬が順当に勝って高配当になるというストーリーになりがちなので、毎年楽しみで仕方ありません。今年もアサクサロックの他に、2歳牝馬2冠のスティールグレイス、栄冠賞の2着馬ライトニングブルー、ジョリダムが3着に敗れたハイレベルなウィナーズチャレンジの2着馬メイドイットマムと役者が揃いましたね。

 ホッカイドウ競馬に思い入れが強いので、エーデルワイス賞もJBC2歳優駿も北海道の馬に勝って欲しいです。

 これからそのJBC2歳優駿や道営スプリント、道営記念などの大一番も待ち受けていますが、今年の開催もラスト1か月を切りました。最後にファンに伝えたいホッカイドウ競馬の魅力など、メッセージをお願いします!

 JBC2歳優駿は何とかホッカイドウの牡馬で勝ちたいなと思っています。距離が長くなるとJRAの馬も辛くなってくるので、絶対に負けられない戦いだと思っています。毎年、言っているんですけどね(笑)。ホッカイドウ競馬の関係者はJRAの馬に負けない馬作りを目指して日々がんばっていますので、これからも応援をよろしくお願いします。


ゲストプロフィール
服部茂史
1994年に中津競馬場でデビュー。2000年にホッカイドウ競馬に移籍すると、2010~2012年に3年連続でリーディングを獲得。2018年にはハッピーグリンとのコンビでジャパンカップにも参戦。2019年にコーラルツッキーでエーデルワイス賞を制し、ダートグレード競走初制覇。

服部茂史騎手2(本人提供)


服部茂史騎手3(本人提供)

(本人提供)


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