【地方競馬対談】森泰斗騎手と語る! 南関東でトップを走り続ける原動力、船橋の砂厚、そして日本テレビ盃

2022-09-27 17:00:23山崎エリカ
地方競馬対談(ゲスト:森泰斗騎手),ⒸSPAIA

本人提供

地方競馬対談 第3回:森泰斗(船橋競馬騎手)

競馬研究家・山崎エリカが様々なゲストを招いて地方競馬のさまざまなトピックについて対談を行う連載。第3回のゲストは船橋競馬所属の森泰斗騎手。南関東のリーディングジョッキーとして走り続ける原動力や、船橋競馬場の砂厚変更の影響、そして9月28日に開催される日本テレビ盃について語ってもらった。(実施日:2022年9月23日)

森泰斗騎手が南関東でトップを走り続ける理由

山崎エリカ(以下:山) 9月23日、浦和3Rのアルゴルで地方通算3800勝を達成されました。1500勝達成時に他誌で取材させてもらったのが2015年秋(2015年8月3日、船橋5R・キスミーソフトリーで1500勝達成)。あっという間にその倍以上の勝利数です。南関東で何年もトップを走り続ける原動力とモチベーションはどこにありますか?

森泰斗(以下:森) 僕もやっぱり人間なので、気持ちの波があります。だけど人様(馬主)の財産に乗るのが仕事だから、やるしかないと奮い立たせて競馬場へ行っています。

 たぶん言わないと思いつつ、「奥さんと愛犬エレナちゃんが支えです」と答えて欲しかったです(笑)。昨年、奥さんと長い同棲を経て結婚を発表されました。籍を入れるキッカケとなったのは何ですか?

 こう言ったら怒られちゃうけど、モチベーションの維持には奥さんとエレナちゃんは関係ないですね。エレナちゃんは7年間も一緒にいるので、溺愛していますけど。奥さんと籍を入れたキッカケも特になくて、コロナ禍で一緒にいることが多くなって、ケンカをしなくなったからそういう流れになりました。僕、こういう仕事ですから、週末は競馬関係者の方と出かけることが多く、帰りが夜遅くなってよくケンカしていましたから。

 普段、家にいない仕事なのに週末もなかなか帰って来ないとなると、さすがに怒られますね(笑)。でも森騎手は普段がしっかりし過ぎているので、プライベートは普通で安心しました。ところで以前、「南関東以外で騎手はやらない」と話してくれましたが、その後も中央の騎手試験を受験していないですか?

 100パーセント、受けていないですね。僕は足利、宇都宮と自分が所属していた競馬場が廃止になり、船橋に拾われたと思っています。拾われた人間が裏切ったらまずいですよね。僕が中央で通用するとかしないとか、そういう次元の話ではないです。

 高嶺を目指してギラギラしているのも嫌いじゃないですけど、自分が南関東の馬主や調教師ならそういう信念のある姿勢について行きたくなります。また南関東トップを取ってからも、騎乗機会があれば騎乗している姿勢も凄いです。

 僕は2012年から2020年までは日本で一番馬に乗っている騎手でしたが、体と集中力のバランスを取るため、騎乗機会を少しセーブさせてもらうようになりました。今後も騎手を続けていくことを考えるとね。去年、今年と和田譲治に年間騎乗回数を越されています。

 和田騎手の最近の勢いは凄いものがありますが、ちょっと前の森騎手も1日8鞍のフル騎乗(*)で、すごいバイタリティでした。かなりの騎乗数だったのに、一度でも騎乗した馬はほぼ忘れないと言うから、「じゃあ、テストしてみよう」ということで、わざと1回しか乗ったことがない馬の顔や馬体の写真を見せて、「この馬は?」とランダムに3頭ほど出題したら、あっさり正解されてしまった記憶が……。その時、異次元のものを感じました。

 今でも一度でも騎乗した馬の特徴はほぼ覚えています。僕は2005年に船橋に移籍して、その年は16勝。もっと勝つには何をすればいいか考えて、騎乗機会があれば出来るだけ乗り、騎乗馬の特徴を知り、レース前日に展開を考えるなど、思いついたことは全部実行しました。その結果でリーディングジョッキーになれたと思っています。ただ今年は厄年だからなのか、マグナレガーロやノーヴァレンダなどの有力馬が次々と故障してしまって、日本テレビ盃は騎乗馬がありません。


*南関東競馬では原則、1日8鞍までしか騎乗できない。


園田競馬場で開催されたゴールデンジョッキーカップを優勝した森泰斗騎手(本人提供)


9月7日に園田競馬場で行われた「ゴールデンジョッキーカップ」優勝時(本人提供)


今年3月の砂厚変更の影響について

 ところでノーヴァレンダが勝ったダイオライト記念の週(今年3月)は砂厚を従来より2cm深い12cmに変更したばかりで、ラスト1Fが15.0秒以上も掛かるレースもちらほらありました。最近はそこまで掛かるようなレースは見かけないですけど、やはり砂が馴染んだことが一番の理由でしょうか?

 最初の頃は、最後バタバタになる馬がいてヤバかったですね。船橋のダートは今でも重いですが、砂を入れ替えたばかりの3月、4月頃よりは砂が馴染んで軽くはなっています。あと馬が重いダートに慣れて対応するようにもなりました。最初の頃はそれまでの砂加減で走ろうとして、脚をひっかけて躓いてしまう馬もいたから怖かったです。

 砂が深くなればそのぶん脚を高く出す必要がありますが、そういう走法ではなかったということでしょうか?

 そうですね。ただ適性面もやっぱり大きくて、以前の軽いダートでいい成績を残していた馬で、重くなって走れなくなった馬もいます。これまでスピードを生かしていた馬が、持久力が求められるようになって、走れなくなったパターンです。もちろん、逆のパターンもあります。

 ダイオライト記念のノーヴァレンダは、持久力が求められるようになって、より良くなったパターンでしょうか?

 ノーヴァレンダがダイオライト記念を勝ったのは、正直、砂が深くなった恩恵もあったと思っています。砂が深くなって上がりが掛かることで、ミューチャリーなどの後半型の馬があまり切れる脚が使えなかったというものですね。

 なるほど。森騎手自身は、砂を入れ替える前と今とで、乗り方を変えたなどはありますか?

 僕はわりと今のほうが、先行したいと思っています。砂を入れ替える前の船橋ほど差しが決まらなくなったというか、後ろからスパンとできなくなりました。レースがバテ合いになることが多くて、後ろで脚をタメていても結局、バテてしまってキレる脚が使えないんですね。特に下級条件ではそうです。


日本テレビ盃の有利な枠と、乗ってみたい馬

 日本テレビ盃の過去10年を見ると、1~3枠が各0勝、4~6枠が各1勝、7枠3勝、8枠4勝と内枠よりも外枠の馬が活躍しています。船橋1800mは4角の奥からのスタートで最初のコーナーまでの距離が長く、一般的に枠による有利不利はないと言われていますが、どう思われますか?

 僕は知らなかったですが、馬券を買う人にとっては有益な情報ですね。確かに船橋は内枠がそんなに有利ではないです。川崎や浦和と比べるとコーナーはゆったりしているし、スパイラルカーブもあるから、外を回ってもそれらよりロスが少ないです。また強い馬が外目から番手をバンと取ると勝ちやすいですね。

 確かに8番枠からクリソライトが番手を取った2014年の日本テレビ盃は内枠の馬が控えて外枠主導の競馬で、2着もクリソライトについて行った10番枠のダノンカモンでした。だけど内枠(2番枠)から唯一、出鞭を入れてクリソライトよりも前の位置を意識して行ったのが、森騎手騎乗のグラッツィアです。あれは作戦でしたか?

 あの時はグラッツィアが元気のない成績が続いている時でしたので、刺激を、という意味で思い切って行かせました。地方騎手ではなかなか乗れない角居勝彦厩舎の山本英俊会長の馬を頼まれたのが嬉しくて、勝たせたい気持ちが一杯でした。今、振り返ると3着という結果は悪くないと思うのですが、当時は勝てなかったことを悔しがっていました。

 2020年も2番枠のストライクイーグル(7番人気)で3着でした。あの時もよく頑張ったと感心したのですが……。

 実はストライクイーグルも馬が揉まれ強くないから先行させたかったのですが、前に行けませんでした。でも、結果的にハイペースになり馬群がバラけてくれたので、上手く外に出せました。前がけっこう止まったので、展開の恩恵もありましたね。

 ストライクイーグルは外枠のような競馬でしたね。その時、逃げたのがサルサディオーネですが、外からアナザートゥルースに競られて苦しい競馬になりました。両方とも揉まれたくないタイプの馬でしたからね。

 サルサディオーネはスパーキングレディーCで一度乗せてもらいました。その時はショウナンナデシコにがっつり叩かれちゃって、けっこう苦しくなりましたが、マイペースで行かせたらしぶといですね。サルサディオーネのような何が何でも逃げるというような馬は、内枠で出遅れたら包まれたりしますが、外枠だと万が一があっても挽回しやすいです。

 昨年の日本テレビ盃で10番枠から内に切って行って、巻き返していますからね。そうは言っても、内枠が特別にダメな理由もないので、「そういう傾向がある」というくらいに受け止めたほうがいいのかもしれません。では、最後にお聞きします。今年の日本テレビ盃の出走馬で、一番乗ってみたい馬は?

 ジャパンダートダービー(JDD)を勝ったノットゥルノがいいですね。3歳の勢いと競馬が上手そうなところが気に入っています。まだ底が割れていないのもいいですね。

 JDDの前の兵庫チャンピオンシップではブリッツファングに8馬身も差を付けられましたが、これはどう思われますか?

 あれは園田特有の小回りコース(1870mはコーナーを6回)で負けたようなもの。小回りコースは展開ひとつで何馬身も差をつけられたりしますからね。それに地方競馬はトラックバイアスが大きく、それもその日によって違っていて、通ったコースが噛み合っていると同じくらいの能力でも5馬身位まで差が開きます。8馬身差は展開や馬場、状態の差で付けられたのだと思います。

 確かにノットゥルノは飛びが大きいせいか、兵庫チャンピオンシップではコーナーで置かれ気味で追走に苦労していました。実際にJDDではブリッツファングを逆転しましたね。森騎手もノットゥルノやノーヴァレンダのような馬に、また巡り会えるといいですね。今日は騎手の視点で詳しくお話し頂き、ありがとうございました。勉強になりました。


ゲストプロフィール
森泰斗
船橋競馬所属騎手。足利競馬場でデビューののち、宇都宮を経て船橋へ移籍。南関東リーディングを7度、全国リーディングを5度獲得している。2017年にはヒガシウィルウィンに騎乗して東京ダービーを制覇。2022年9月23日の浦和3Rを勝利して、地方競馬通算3800勝を達成。

地方競馬対談(ゲスト:森泰斗騎手)



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