【マイルCS回顧】ソウルラッシュが悲願のGⅠ制覇 6歳で優勝は実力の証、“先輩たち”同様さらなる飛躍に期待
勝木淳
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6歳マイルCS勝ち馬といえば
2024年11月17日に京都競馬場で開催されたマイルCSは、6歳ソウルラッシュが3度目の挑戦で秋のマイル王座を手中に収めた。グレード制が導入された1984年以降、6歳でマイルCSを勝ったのは5頭目になる。
トロットサンダーは翌年安田記念を制し、トウカイポイントは次走香港マイル3着、ダイワメジャーは前年からマイルGⅠ3連勝を決め、最後は有馬記念で3着に粘ってみせた。
ソウルラッシュと同じ3度目の挑戦で射止めたダノンシャークも6歳。同郷・下河辺牧場の先輩にあたる。3度目の挑戦といえばカンパニーもいる。こちらは8歳での達成だから、上には上がいる。カンパニーも含め、6歳以上で勝った5頭は戦歴を振り返れば、みんな元気いっぱい。年齢で語るのは失礼というものだ。
今年のマイラーズCでセリフォスを圧倒したように、ベストは下り坂で惰性をつけながら加速できる京都。2年前は阪神で行われ4着。昨年は京成杯AHを59kgで勝ち、満を持しての京都だったが、ナミュールの驚異的な末脚に屈する。舞台と相手に恵まれない不運があった。
これまで浜中俊騎手、松山弘平騎手、そしてJ.モレイラ騎手が騎乗してきたが、今年は初戦マイラーズCから団野大成騎手に手綱が渡った。そこで一発で結果を出し、秋も再び団野騎手。騎乗成績を【2-1-0-0】とした。歴戦のマイラーと若武者のコンビは妙にしっくりくる。
華のある騎乗が目立つ団野大成騎手
団野大成騎手は今年6年目を迎えた24歳。2度目の年男の今年、57勝目をあげた。キャリアハイは2年目の62勝だから、上回る公算は高い。
今週は現地時間金曜にバーレーンで騎乗し、日曜日にGⅠ制覇という若手らしいタフさをみせた。2年目62勝のあとは、21年にはフランス修行、22年にケガによる長期離脱もあり54勝、30勝と勝ち星を減らしたものの、ファストフォースで高松宮記念を勝った23年が50勝、そして今年57勝と着実に上昇カーブを描く。
勝利を確信し、ゴール手前でのガッツポーズもまた若さゆえのこと。格上挑戦だったショウリュウイクゾの日経新春杯、逃げ切りを決めたディアンドルの福島牝馬S、自厩舎キラーアビリティを復活に導いた中日新聞杯の追い込みなど、華のある騎乗が印象に残る。あっと言わせる騎乗ができるのは団野騎手の長所でもある。
マイルCSはよほど自信があったのか、堂々たる競馬ぶりだった。前後半800m45.7-46.3。序盤600m33.8に対し、ラスト600m34.5だから、序盤で少し突っ込み気味に入った。
一旦、中団後ろで速い流れをやり過ごすと、終盤は坂の下りからギアをあげていき、直線入り口では前を射程圏に入れていた。後半800mは11.8-11.6-11.4-11.5と、ソウルラッシュが得意とするギアをあげながらの持続力勝負だった。
外が伸びる芝に外枠もハマった。勝つときはすべてが上手くいく。上がり600m33.6はタイムトゥヘヴンに次ぐ2位。チャリンと同じだった。後方で溜めた2頭に対し、こちらは中団で流れに乗ってのもの。地力の差を示す数字といっていい。
上記の先輩たちと同じく、この先だってまだまだ戦える。6歳にしてGⅠ制覇はまぐれでもなんでもなく、真の実力が備わっていないと達成できない。レース内容を踏まえても、ソウルラッシュだってまだ更なる高みを目指せるだろう。
前半の適性が出たチャリン
2着エルトンバローズは昨年、毎日王冠で古馬を撃破し、上位人気で挑んだマイルCSは4着止まり。今年は毎日王冠3着から参戦し、2着と気を吐いた。1800mなら先行できるが、マイル戦となると差す形にならざるを得ない。昨年と同じ流れであっても、今年は最後まで伸びてきた。進化を感じる内容だった。
ディープブリランテ産駒らしく切れ味より持続力勝負に長けており、昨年より序盤から流れたのも味方した。11秒台が並ぶラップ構成に強い、いわゆる4ハロン型。5ハロン勝負にも対応しつつある。母の父ブライアンズタイムであり、もう少し時計がかかると前進が見込めそうだ。
3着ウインマーベルはスプリンターズS5着から穴をあけた。スプリンターズS5着以下から好走したのは、2011年11人気2着フィフスペトル以来のこと。同馬はその2走前に京成杯AHを勝っていた。ほかに好走したのは2頭。ゼンノエルシド、スズカフェニックスとどちらもマイル重賞Vがある。一方、ウインマーベルは実績的には1400m止まり。それどころかマイル戦は今回初出走だから大したものだ。
連覇を狙うであろう阪神Cは前走マイルCS敗退からの巻き返しが目立つレースだが、3着馬も【1-0-1-2】。同じローテで挑んだスズカフェニックスが勝利を飾っている。今年は同じ京都外回りでもある。連覇のチャンスは広がった。
対して、今回連覇を目指したナミュールは17着。異変を察知したC.デムーロ騎手が無理をしなかった。走らせるのが騎手なら、止めるのも騎手。鞍上の判断は尊重されるべき。大事に至らなくてよかった。
1番人気ブレイディヴェーグは4着。直線で少しさばきに苦労した。前半から流れるマイル戦だとやや走りに余裕がないようだ。久々に海外から参戦したチャリンは5着。今年の欧州トップマイラーらしく最後は意地を見せ、猛然と突っ込んできた。やはり、日本の競馬はゲートから中盤までが速く、前半の適性が影響したとみる。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
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