【エリザベス女王杯回顧】スタニングローズが2年ぶり復活V 改めて証明した“薔薇一族”の活力

勝木淳

2024年エリザベス女王杯のレース結果,ⒸSPAIA

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スタニングローズ復活の要因

2024年11月10日に京都競馬場で開催されたエリザベス女王杯は、スタニングローズが2年ぶりの勝利でGⅠ2勝目を飾った。

秋華賞以来、勝利がなく、2年後のエリザベス女王杯で復活勝利。2000年ファレノプシスを思い出す。このパターンの勝利はそれ以来24年ぶりのことだという。

牝馬には同世代同士の三冠レースで活躍しながら、その後、古馬との戦いで結果を出せない馬が多い。仕上がりが早い牝馬は、なにかきっかけひとつで結果を残せず、能力を出し切らないといわれる。一方でアーモンドアイ、グランアレグリア、クロノジェネシスのように常に全力を出す牝馬もいて、牡馬は楽を覚えるが、牝馬にはそれがないという声も聞く。

牝馬のスランプ脱出は難しいと昔から言われてきた。好調期間が短く、バイオリズムが一旦狂うと、それをもとに戻すのは容易ではない。だから、三冠活躍後になかなか結果を残せない牝馬は多くいる。ファレノプシスや、その前年にエリザベス女王杯を連覇したメジロドーベルもそんな説にならい、もはや復活はないだろうとする意見があるなか、復活した。

スタニングローズもまたしかり。秋華賞でGⅠタイトルを手にしたあとは道悪のエリザベス女王杯で14着に敗れ、翌年は5、12着。故障による約10カ月の長期休養に入った。ターフに戻ったのは今年の大阪杯。8、9、6、1着と着実にパフォーマンスを取り戻し、ふたたび頂点に立った。

夏は調整しやすい札幌へ行き、涼しくなる10月に栗東へ帰厩。陣営がスタニングローズに活力を失わせないように工夫した痕跡がみてとれる。


繁栄を続ける薔薇一族

母の母ローズバドといえば、ファレノプシスが勝った翌年のエリザベス女王杯だ。

トゥザヴィクトリーが差し、猛然と追い込んだのがローズバド。ティコティコタック、レディパステル、テイエムオーシャンと続く着差はハナ、ハナ、クビ、クビ。ゴール前、二転三転する攻防、ゴール板で横並びになる映像は今もGⅠ名勝負として語られる。

ハナ差負けたローズバドの初仔がスタニングローズの母ローザブランカだ。その後、ローズバドはローズキングダムを出し、ロザリウムから函館2歳Sを勝ったゼルトザームを出すなど、着実に薔薇一族の枝葉を広げていった。

薔薇一族は今年の2歳世代にもモティスフォント、ロゼフェリシア、ガマダス、ブルーミングローズ、ビップディラン、ローズゴジャール、ザローズハーツ、ブルーマエストロと8頭もいる。

非常に活力あふれる牝系のトップラインにいるスタニングローズも5歳秋を迎え、現役生活は長くとも残り約半年。限られた時間のなかで2つ目のGⅠタイトルを手にしたのはすばらしい。祖母の無念を晴らしたのはもちろん、薔薇一族の活力を身をもって証明した。

レースはコンクシェルが先手を奪い、序盤は12秒台前半で流れ、前半1000m通過59.6とそこそこ流れたが、ここからペースが落ち、12.5-12.6と坂の下りに転じる手前で先行勢は息が入った。控えた馬たちも早めに動きたいところだが、京都特有の3コーナーの丘と外回りの長い直線への意識から動けなかった。京都外回りらしい競馬だったといえる。

下りに転じると、12.0-11.7-11.1-11.6。上がり800m46.4、600m34.4と実質上がりの競馬。好位につけ、4コーナー手前から動いて直線入り口で先頭に立ったスタニングローズは強気であり、計算し尽くされたスパートだった。来日してすぐこれだけの競馬をやってのけるクリスチャン・デムーロ騎手は恐ろしい。2着ラヴェルにつけた2馬身の差には、この絶妙すぎるスパートも含まれている。


きっかけをつかんだラヴェル

2着ラヴェルはキャリア2戦目のアルテミスSでリバティアイランドに勝ち、重賞初制覇。順風満帆かと思われたが、そこから突如、長いトンネルに入った。こちらも牝馬特有のスランプにもがいた一頭だったといえる。

先行しても差しても好走できず、そこそこ脚を使えても、決め手を欠くという現状が続いた。母サンブルエミューズだから、スタニングローズと同厩舎でライバルでもあるナミュールの妹。スタニングローズ復活勝利の2着がラヴェルだったのは不思議な縁を感じる。

ラヴェルの復活のきっかけをつくったのは、リバティアイランドの主戦・川田将雅騎手。矢作芳人厩舎とのコンビといえば、ラヴズオンリーユーがいる。

今年の川田騎手×矢作厩舎は6鞍【3-3-0-0】で連対率100%。とっておきの騎手起用だった。戦前に気がついていればと後悔しかない。2022年以降はコンビ結成数が減ったものの、年間7~8鞍はあるので、次の機会に役立てよう。

3着ホールネスは1、2着とは対照的に7戦【4-1-2-0】と崩れない。新潟牝馬Sから中2週の強行軍でも好走できたのは本物の証だろう。

デビューから約1年半で38kgも馬体重が増え、成長が止まらない。体重について触れるのは牝馬に失礼だが、底知れないスケールを感じる一頭だ。レース振りも自在で、今回は最内枠からスタニングローズの背後をうまく追い上げた。スパートで離されたのは課題だが、反応がよくなれば、大舞台での勝利もある。

1番人気レガレイラは5着。ローズSまで課題だったゲートと後ろすぎる位置取りはいくらか改善されたものの、上がり勝負で中団後ろでは厳しかった。直線も進路がなく、強引になる場面もあり、能力全開とはいかなかった。牝馬特有のスランプに陥っている可能性は否定できない。まずは立て直しだろう。


2024年エリザベス女王杯のレース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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