【天皇賞(秋)】高速の東京芝2000mはスイートスポット、ブレイディヴェーグが本命候補 対抗タスティエーラ

山崎エリカ

2025年天皇賞(秋)のPP指数,ⒸSPAIA

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メイショウタバルの逃げなら平均~ややハイペース

東京芝2000mはコーナー3回で直線距離が長く、展開の振れ幅が広い。逃げ馬が大逃げを打った2022年、23年は前半5F57秒台のかなりのハイペースで後方有利の展開。一方、昨年のように逃げ馬がホウオウビスケッツの1頭のみの出走で、マイペースの逃げならば前有利の展開にもなる。

今回はホウオウビスケッツとメイショウタバルの逃げ馬2頭が出走。メイショウタバルはホウオウビスケッツよりもゲートが遅いが二の脚は速く、逃げがベストの馬。ここも逃げる可能性が高いと見ている。本馬が逃げるならば、鞍上は武豊騎手だけにスローペースはないだろう。平均~ややハイペースで末脚勝負になると見て予想した。


能力値1~5位の紹介

2025年天皇賞(秋)のPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 クイーンズウォーク】
指数拮抗のなかで僅差の能力値1位。GⅠ勝ちの実績はまだないが、古馬の牡馬との初対戦となった3走前の金鯱賞を勝利している。

このときは6番枠から五分のスタートを切り、楽に先行して2列目の外で進めていたが、デシエルトが飛ばしていったので3番手を追走。道中は2番手ホウオウビスケッツをマークする形で進めた。

3角は同馬のひとつ外3番手で仕掛けを待ち、4角出口で馬場の良い外に誘導して直線へ。序盤で追われてからややもたついていたが、じわじわ差を詰めて先頭とは3馬身差ほど。ラスト1Fでグンと伸び、内のホウオウビスケッツをハナ差で捉えて勝利した。

金鯱賞当日はかなりタフな馬場で、前後半5F58秒2-63秒1の超ハイペース。前へ行った馬にはかなり不利な展開だったが、後続を大きく離して逃げたデシエルト以外は実質的には差し競馬であり、この勝利は展開に後押しされたもの。

本馬は稍重馬場で時計が掛かった昨秋のローズS(中京芝2000m開催)も勝利しているように、上がりの掛かる馬場や展開で差す形がベスト。2走前のヴィクトリアマイルは超高速馬場で追走にやや忙しさを見せていたが、アリスヴェリテの逃げで意外と上がりが掛かったことや、外差し有利な馬場で16番枠だったことが2着好走の要因だ。

前走の新潟記念は返し馬で転倒し、ラチを飛び越えるアクシデントもあって競走除外。新潟記念を使えなかったことで、今回は実質的に6ヵ月半の長期休養明けかつ2Fの距離延長で挑むことになる。馬場が悪化すれば実戦から遠ざかったぶんのスタミナ不足に泣く形となり、馬場が高速化すればトップスピード不足に泣く形になりそう。ここは評価を下げたい。

【能力値2位 セイウンハーデス】
2023年の七夕賞で重賞初制覇を達成後に屈腱炎を発症。1年5ヵ月に及ぶ長期休養を余儀なくされ、復帰後の2戦は不振だったが、再調整した前走のエプソムCで見事な復活を果たした。

その前走は好スタートを決めたが、無理をせずに控えて好位の外を追走。道中では少し促しているが、位置が下がって中団外目。3角手前で外のダノンエアズロックを行かせ、その後ろで3角に入る。

3~4角でも同馬の後ろを通し、4角出口で外に誘導。序盤で追われてまだ中団だったが、ラスト2Fで一気に突き抜けて2馬身ほど前に出る。ラスト1Fで馬場の良い内に切りながらリードを広げたところ、外からドゥラドーレスに突っ込まれたが、余裕を持って1馬身3/4差で完勝した。

このレースは1分43秒9のコースレコードで決着しているように、高速馬場で前後半5F46秒0-46秒6の緩みない流れ。前がラスト2Fで早々にバテたところを一気に突き抜けての勝利だった。

本馬は極悪馬場で逃げ馬不在だった2023年の新潟大賞典でも、淡々としたペースで逃げて3着馬には8馬身差をつける高指数の2着実績があるように、とにかくスタミナがある。

今回は再び前走から長期休養明けの一戦。前走時ほどの状態にはないように映るが、プール主体の調教だった2~3走前と比べると明確に状態はいい。ここも勝ちに行く競馬をしなければ展開には恵まれる可能性が高く、重い印を打ちたい。

【能力値3位 シランケド】
キャリア4戦目の紫苑Sで1勝クラスの身ながら3着と健闘。そこから休養を挟んだ戸畑特別(1勝クラス/小倉芝2000m)では、馬体重14kg増と成長した姿を見せて5馬身差で圧勝。そこでオープン通用級の指数を記録し、この時点で能力は本物、後の活躍は必至だった。

そこから成績を上げ、3走前の中山牝馬Sで重賞初制覇を達成すると、2走前のヴィクトリアMでも勝ち馬アスコリピチェーノとタイム差なしの3着に健闘している。

ヴィクトリアMは超高速馬場で、前後半4F45秒4-46秒7のややハイペース。アリスヴェリテがペースを引き上げてくれたことで、12番枠から出遅れて最後方の位置取りでも間に合ったという側面はある。ただ、思い切って馬場の良い外を狙うか、ラスト2Fで前が壁にならなければ勝っていた可能性もある内容だった。

今年から別定戦に変わり、札幌記念以上の強豪が集結した前走の新潟記念でも2着。この時も12番枠からやや出遅れ、軽く促して中団やや後方を追走。かなりのスローペースになったが、道中も中団やや後方の外目で我慢させた。

3~4角でもペースが上がってこなかったが、中団外目で直線へ。序盤で外に誘導しながら追われると、少しふらつく場面もあってまだ地味。ラスト2Fで追われながら鞭が入るとしぶとく伸び始め、2列目付近まで上がり、ラスト1Fでも伸び続けてエネルジコを半馬身差で競り落とした。

このときは標準馬場で前後半60秒5-57秒5というかなりのスローペース。展開には恵まれていないが、例年のように最後の直線で外に出すほど有利な馬場状態で、馬場の中目を通したエネルジコに対し、本馬は外目を通しており馬場には恵まれた面がある。

それでも、強豪が揃った一戦で勝利したことは大きく、さらなる成長があればここも通用するだろう。

【能力値4位 ブレイディヴェーグ】
3歳時にエリザベス女王杯を制し、そこから長期休養明けとなった昨秋の府中牝馬Sでも勝利を挙げた実力馬だ。

府中牝馬Sでは5番枠からやや出遅れ、促して中団やや後方からの追走。道中では前のスペースを維持し、中団やや後方のまま3角に入る。

3~4角で中目から外に誘導、じわっと仕掛けながら直線は外へ。序盤の伸び始めはやや地味だが、ラスト2Fですっと伸びて一気に2列目まで上がり、ラスト1Fでしっかり抜け出して1馬身1/4差で完勝した。

このときはコンクリートレベルの超高速馬場でややスローペースだったが、ラスト2F11秒4-11秒0と加速する展開を一気に差し切る非凡な末脚を見せた。ちなみに、同馬がラスト1Fで先頭に立ったところのJRAの速度計は滅多に見ない67km/hを計測していた。

本馬は前半でゆったりと進め、末脚を活かす形がベスト。昨秋は同馬主のレガレイラとの使い分けもあり、C.ルメール騎手から「マイルは短い」というコメントが出ていたなかでエリザベス女王杯には出走せず、マイル路線を選択した。実際、マイルでの3戦は追走に苦労して末脚は不発に終わっているが、それでも全て4着と大崩れはしていない。

また、3走前のドバイターフ(メイダン芝1800m)では7着に敗れているが、このときは4番枠から出遅れ、2列目の外まで挽回して行く形。近走でマイル戦を使われていたことで行きっぷりが良かったにせよ、メイショウタバルがある程度ペースを引き上げているなかで2列目まで挽回したのは、さすがに無理な脚を使わせすぎた。

前走の新潟記念も外差しが圧倒的に有利な馬場で1番枠。中団最内から好位のスペースを拾いながら進め、最後の直線では一番最内から追い上げたが6着に敗れている。

このとき内目を通して3着だったディープモンスターは次走で京都大賞典を勝利。7着だったナムラエイハブも先週のカシオペアS(L/京都芝1800m)で接戦の2着と健闘しているように、この日は明確に内が伸びていなかった。本馬はそのなかで前記2頭よりも荒れた内を通している。

昨秋の府中牝馬S勝利後は不運の連続だが、おかけで今回は人気薄になった。高速の芝2000mは本馬のスイートスポット。相手は強いが、連続敗退で溜まったエネルギーの爆発で馬券圏内突入を期待する。今回の本命候補だ。

【能力値5位 タスティエーラ】
2023年のダービー馬であり、休養明けの菊花賞でも2着と好走した実績馬。その後は調子を落としていたが、長期休養明けの天皇賞(秋)で2着と復活を果たした。

昨秋の天皇賞は4番枠からまずまずのスタートを切り、押し進めて好位中目を確保。道中もペースは上がらなかったが、好位の中目で我慢させた。

3~4角で包まれ、直線序盤では進路確保に手こずるも、外に誘導して4列目。ラスト2Fで追われ、じわじわ伸びて3列目に上がり、ラスト1Fではホウオウビスケッツを捉えて2着を確保した。

このときは超高速馬場で、前後半5F59秒9-57秒4のかなりのスローペース。レースの上がり3Fが33秒7と極端に上がりの速い展開になったために、ドウデュースに伸び負けしてしまった。

本馬はこれまでメンバー中最速の上がりを記録したことが一度もなく、一線級が相手だと決め手不足は否めない。しかし、ペースが上がらない前半で前の位置を取って後続を捻じ伏せる強さがあり、23年のダービーもその競馬で戴冠している。

また、昨秋の天皇賞も長期休養明けで2着だったように、本馬は鉄砲が利くタイプ。昨年同様に内目の枠で、1年前とは鞍上が異なるも「今回どう乗るか」の目途は立てやすい。

今年も昨年同様に香港Cが目標であるようだが、ここも崩れずに走れる可能性が高いと見ている。対抗評価だ。


一発狙うならエコロヴァルツ

エコロヴァルツは昨年2月の共同通信杯では序盤から酷く掛かるなど、気性的にかなり難しい面を抱える馬。そのため昨春のクラシック戦線では後方で折り合いに専念したり、抑えが利かずハナに立ったりと、極端な競馬で不本意な結果に終わった。

しかし、昨年末から気性の成長が見え、徐々に成績が安定。4走前の中山記念では2着と好走した。この時は4番枠から好スタートを決めてハナに立ったが、1~2角でメイショウチタンがハナを主張すると、同馬を行かせて2列目の最内を追走。道中は淡々と流れるなか、逃げ馬とのスペースを広げ、3番手の最内で3角に入った。

3~4角でも3列目の最内を通し、3角でしっかり仕掛けてひとつ外に誘導。2列目の外で直線へ。序盤で2馬身ほどあったメイショウチタンとの差を半馬身差まで詰め、ラスト1Fで同馬をかわして抜け出したが、外からシックスペンスに差されてハナ差で敗れた。

当時は2回中山開催2日目。C→Aコース替わり2日目のコンクリートレベルの高速馬場で、前後半47秒0-46秒3のややスローペース。本馬をマークしていたシックスペンスに差されてはいるが、内有利の馬場で最短距離を通しており、完璧に近い内容だった。

3走前の大阪杯は4着。14番枠からまずまずのスタートを切ったが、枠も悪く中団の外を追走。道中も中団の外で進め、前が飛ばしていくと向正面で内目に入れて我慢させた。

3~4角では内目を通って中団で直線へ。序盤で中目のスペースを拾って好位列まで上がり、ラスト1Fでもしぶとく伸びたが、外からヨーホーレイクに差されてハナ差の4着となった。

4走前も超高速馬場で緩みない流れ。ここで後方有利の展開に恵まれたことや、向正面で上手く内目に入れたことでシックスペンスを逆転した。2~3走前は立ち回りや展開に恵まれている面があるが、指数上はここでも通用する。

2走前の安田記念は8番枠から好スタートを決め、そこから促したことで激しい先行争いに巻き込まれる形に。好位の中目に控えたが、狭くなって中団中目まで下がる不利も。結果3~4角で包まれて追い出しが遅れ、7着に敗れた。また本馬にとっては上がりの速い決着でもあった。

前走の中京記念は内有利の馬場で、逃げ先行馬による行った行ったが決まる展開。本馬は8番枠から好スタートを決めて押し進めたが、じわっと下がって3列目の外。道中も好位の外で2頭分外を回るロスもあり、安田記念以上に上がりの速い決着に泣く形での4着だった。

本馬もここ2戦は芝のマイル路線を使われているが、マイルだと追走に忙しく中距離でこそのタイプ。ここで変わり身があっても不思議ない。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)クイーンズウォークの2走前の指数「-21」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.1秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

《ライタープロフィール》
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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