【札幌記念】当日の馬場と各馬の状態を重視 中山記念の連対馬ヒシイグアス、ラーグルフに配当妙味あり 

山崎エリカ

2023年札幌記念のPP指数,ⒸSPAIA

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極端なスローペースになりにくく、内有利の傾向

札幌は洋芝100%。洋芝は野芝よりも耐久性が低く、開催が進むにつれて時計が掛かる。しかし、過去10年の札幌で行われた札幌記念の平均5F通過は59秒中盤。最も遅かった年でも60秒7で、大半は59秒台半ば~後半と、極端なスローペースになりにくい。

この傾向は馬場がよほど悪化しないとほぼ変わらない。馬場が悪化するほどペースが速くなり、稍重で行われた2018年には、久々にマカヒキが大外一気の追い込みで2着に届いている。

今週末は台風の影響で雨模様だが、雨量はそこまで多くない。加えて先週の時点では昨年よりも高速馬場なので、多少雨が降っても、やや時計の掛かる馬場で行われた昨年と同じくらいか、それよりもやや時計の速い馬場で行われる可能性が高い。ただジャックドール、ユニコーンライオン、アフリカンゴールドと前に行きたい馬が揃っているので、ハイペースにはなるだろう。

また、札幌はJRA10場の中でもコーナーが大きいため、内有利のコース。その上でCコースに替わるとなると、内有利に拍車が掛かるので、それも併せて注意したい。


能力値1~5位の紹介

2023年札幌記念のPP指数一覧,ⒸSPAIA


【能力値1位 ウインマリリン】
昨年の香港ヴァーズで悲願のGⅠ制覇を達成した女傑。同レースでは3番枠からまずまずのスタートだったが、そこからの二の脚が速く、いったんハナへ。逃げていいタイプではないので、コントロールして外の馬に行かせ、中目に収めようとしたが、そこで収めきれずに最終的には後方付近を追走した。向正面では後方馬群の中で我慢し、3角では外に出したが最後方の列へ。4角で大外を回って進出してもまだ最後方だったが、直線序盤ですっと伸びて一気に2番手まで上がり、残り300mで2番手から先頭に立ったボタニクを残り150mで楽に交わして、1馬身半差で完勝した。

香港ヴァーズでは、全盛期ほどの勢いはないにせよ、一昨年の覇者グローリーヴェイズ(3着)に2馬身差近くつけているように、ウインマリリンは長距離馬。また、昨秋のエリザベス女王杯は、Aコース使用13日目と朝からの降雨の影響で外差し馬場になっていて、11番枠から外の馬が掲示板を独占する形となったが、唯一好位からの競馬で2着同着と善戦している。このことからも、芝2000mなら時計の掛かる馬場で末脚を生かす競馬がベスト。今週末は台風の影響があってもそこまで馬場が悪化しない可能性が高い。

今回は2番枠。馬場を考慮した場合には好ましいのだが、テンの速い本馬は2列目くらいからの競馬となる可能性が高く、香港ヴァーズ時のような末脚を生かす競馬ができない。ただ、2021年のオールカマーでは、1番枠から二の脚の速さで一旦ハナから外のロザムールに行かせ、その直後の2列目3番手の最内でレースを進めた。直線序盤で窮屈になる場面がありながらも、ラスト1Fで一気に突き抜けて1馬身半差で完勝している。高速馬場の2列目からの競馬でも悪くはない。しかし、当時よりも相手が強化されていることを考えると全幅の信頼は置けない。

【能力値1位 ジャックドール】
昨年の札幌記念の覇者。昨年もユニコーンライオン、パンサラッサと逃げ馬揃いのなか、4番枠から好スタートを切ったが、外のユニコーンライオン、内のパンサラッサを行かせて、2列目の外で意図的に折り合う競馬。3~4角で位置を押し上げ4角2番手から、しぶとく逃げ粘るパンサラッサをクビ差捉えて優勝した。

前々走の大阪杯のように逃げてもいいが、2列目でも問題はないタイプ。競り合いを嫌う武豊騎手が鞍上の今回は、昨年のように外のユニコーンライオンを行かせて2番手、アフリカンゴールドが好スタートを切った場合には行かせて3番手というように、昨年のようなレースをする可能性が高い。また、内枠にテンの速い馬はウインマリリンのみ。ウインマリリンの出方次第では2列目の最内でレースを進められるだろう。

ただし、昨年よりも相手が強いことと、昨年ほど馬場が悪化しない可能性が高い点がネック。昨年の金鯱賞ではレコード勝ちをしているが、当時は超高速と言えるほどの馬場ではなく、3番枠から好スタートを切って、緩みないペースで逃げ切った。本質的には持久力を生かしてこそのタイプで、馬場悪化が理想。高速馬場でも通用しないことはないが、やや評価が下がる。

【能力値1位 ダノンベルーガ】
今年のドバイターフ2着馬。前走のドバイターフは4番枠から五分のスタートを切って促していたが、窮屈になって下がり、後方2列目の中目からの追走。3~4角では包まれて最後方まで下がったが、4角で必死に追いながら中目を通して直線へ。直線序盤でも進路が作れずにバタバタしたが、中団中目を捌いて残り300mで外に出すと、そこから強襲。ロードノースに3/4馬身差まで迫った。

中団内々で脚をタメた3走前の天皇賞(秋)、大半の馬が上がり3F33秒半ばという状況下で、イクイノックスに次ぐ上がり3F32秒8を記録しているように、末脚を生かしてこその馬。前々走で芝2400mのジャパンCを使われ、中団からレースを進めた影響もあって、前走のドバイターフはテンに置かれ気味で、ややスムーズさを欠いた。しかし、位置取りも本仕掛けのタイミングも悪くなかったと見ている。直線で早め先頭に立ったならば、ラスト2Fで先頭に立った前々走のジャパンC時のように、甘さを見せていた可能性が高いからだ。実際に自身のラスト2Fも10秒88-11秒10とやや減速しており、1着ロードノースと3着ネーションズプライドが抜け出しかかったタイミングで動いたことが、2着好走に繋がったと言える。

今回、管理する堀宣行調教師が「目標は秋のレースですし、1度使っておくと仕上げやすいので、今回は馬の状態に合わせて調整していきます」とコメントしているように、叩き台だろう。また、台風の影響で馬場が悪化するなら、トップスピードを存分に生かせそうにないことも含め、狙いにくい。

【能力値4位 シャフリヤール】
2021年のダービー馬で、昨年はドバイシーマクラシック勝ち、ジャパンCでも2着と好走した実績馬。前々走のジャパンCでは15番枠からやや出遅れて、そこから中団馬群の中目に突っ込んで追走。3~4角の外から動いたダノンベルーガをマークし、それを追いかけて直線へ。ラスト2Fで外に出して先頭列まで上がったが、最後に3~4角の内目から直線で中目を捌いて上がったヴェラアズールに差され、3/4馬身差で敗れた。このレースは3~4角で内を立ち回った馬が上位入線しているように、ペースが上がった3~4角でかなり外を回った本馬はとても不利。上手く内を立ち回れていれば、優勝していたと見ている。

ただし、昨秋はジャパンCが大目標。なぜならドバイシーマクラシックの優勝馬である本馬には1着賞金4億円の他、褒賞金200万ドル(約3億円)が用意されていたからだ。ジャパンCは惜しくも2着だったが、このように藤原英昭厩舎は早期から目標を定め、そこへ向かって馬を作っていくスタイル。2015~2016年にGⅠで3勝を挙げた同厩のストレイトガールが、全て休養明け2戦目に勝っており、始動戦では馬券圏内にも来れていなかったように、休養明けは仕上げ切らない傾向がある。

シャフリヤールは昨年のドバイシーマクラシックを休養明けで優勝しているように、鉄砲駆けも可能なタイプだが、この中間の調整の軽さから目標は秋と推測される。ベストは日本ダービー時のような超高速馬場だが、休養明けで明確に叩き台だったはずの一昨年の神戸新聞杯(極悪馬場に近い状態)で、好位の外から勝ちに行く競馬で4着と善戦しているように、タフな馬場も悪くない。ここが目標であれば勝っても不思議はないが、ここが目標ではない以上、馬場がどっちに転んでも本命視しづらい。

【能力値5位 ヒシイグアス】
昨年の宝塚記念で2着の実績馬。同レースはタイトルホルダーがペースを引き上げていく中で、10番枠からまずまずのスタートを切って楽な手応えで2番手まで上がり、そこから控えて好位の中目を追走する形。道中でやや折り合いに苦労していたが、3~4角で4列目の最内から最短距離を通し、4角で中目を捌いて3列目で直線へ。そこからしぶとく伸びてタイトルホルダーに2馬身差まで詰め寄る、驚きの好内容だった。

そこから長期休養明けとなった前々走の中山記念は、11番枠からやや出遅れ、そこからじわっと中団内目に入れ、3~4角でも中団の内のスペースを拾って4角で3列目の中目に誘導された。直線序盤でやや狭くなったが、そこから外に出されると、しぶとく伸びて前のドーブネを捉え、追いすがるラーグルフを3/4馬身差で振り切って完勝。2021年に続く中山記念二連覇を達成した。

前走の大阪杯では7着と敗れたが、これは馬体重18Kg減が示すように、長期休養明けで好走した疲れもあったはず。今回はそこから立て直されての一戦となる。今年の札幌記念は好メンバーが集まっているが、指数上位馬が適性面に不安があったり、ここが目標ではなく状態面での不安がある馬が多いなか、本馬は比較的、順調にきている。少なくとも同厩のダノンベルーガよりも勝負度合は上だろう。

また、タフな馬場で前半型の競馬は苦手。その証拠に、極悪馬場で行われた2019年のラジオNIKKEI賞では、好位の直後の中目でレースを進めながら、3角手前で手応えが怪しくなってジリジリ後退し、最後の直線でバテた馬を何頭か交わしての9着とこれまででもっとも悪い着順だった。

超高速馬場で行われた2021年の中山記念を優勝したことや、例年よりも高速馬場だった同年の香港Cで、後方2番手から最後の直線でラヴズオンリーユーと叩き合って2着に入ったことを踏まえると、高速馬場で末脚を生かす競馬を得意としている。これらのことから、例年の札幌芝よりも2~3段階は軽い今年は、好都合のはず。レース当日に多少雨が降ったとしても、そこまで馬場は悪化しないと見て本命候補としたい。


穴馬はソーヴァリアントとラーグルフ

【ソーヴァリアント】
一昨年と昨年のチャレンジCを連覇した馬。一昨年の同レースは、逃げ馬不在。11番枠からまずまずのスタートを切り、二の脚でハナに立つ勢いだったが、内からハナを主張するマイネルフラップを行かせてなんとか2番手でコントロール。道中もかなりのスローペースながら3番手以下を離してマイネルフラップを煽りながら追走。3角からややペースが上がっても持ったままで、楽な手応えで4角を回って直線序盤で先頭に立つと、そこから突き抜けて3馬身半差で快勝した。

このレースでは前に行く競馬で最速タイの上がり3Fタイムを記録しているように、とても強い内容。記録した指数もGⅠ級通用レベルのものである。休養明けの前走・鳴尾記念は掛かり気味の競馬で崩れたが、ひと叩きで折り合いが付けば、一気の前進に期待できる。

【ラーグルフ】
昨秋の3勝クラス・甲斐路Sでオープン級の指数を記録して本格化を示すと、中山金杯を優勝。さらには強豪そろいの中山記念でも2着と好走した。同レースでは13番枠から五分のスタートを切って、中団やや後ろの外を追走。3~4角で前のリューベックが仕掛けていってくれたので、その後ろを通して、4角出口で大外に出されると、直線序盤でやや置かれたが、そこから最後までしぶとく粘ってヒシイグアスに3/4馬身差まで迫った。3~4角で大外から強気に仕掛けたことを考えると、なかなかの好内容だった。

前走の大阪杯は前有利の流れを後方3番手、4角では最後方からの競馬で能力を出し切れなかったが、立て直されての巻き返しに期待が高まる。今回は相手が強いが、4歳馬にとってこの時期は成長期だけに、ここで展開に恵まれれば馬券圏内に加わる感触を感じる。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)ウインマリリンの4走前の指数「-24」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.4秒速い
●指数欄の背景色の緑は芝、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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