【エルムS回顧】札幌替わりを味方にセキフウが逆転V 北海道ダートシリーズ3戦のキモは条件変化
勝木淳
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競馬の形が崩れたペプチドナイル
大沼S、マリーンS、エルムSと続く北海道のダートシリーズは基本的に上位入線馬同士で決着していくケースが多い。別定の大沼Sとハンデ戦のマリーンSは同じ函館で行われ、斤量差を計算すれば見えやすいが、エルムSだけは札幌で行われ、かつ重賞。相手関係も変わり、なにより舞台適性が異なるため、アプローチも少し異なる。函館はコーナー区間が短い分、タイトで器用な先行馬が押し切れる。しかし、札幌は楕円に近いレイアウトで、コーナー区間が多くを占めるため、コーナー自体は緩く、後ろからでも勢いをつけて加速しやすい。まして、今年は大沼Sがやや重、マリーンSが良馬場で行われ、エルムSは不良と、馬場状態も大きく違った。結果的に、こういった条件変化がレース結果を左右した面はあった。まさに予想のアプローチ方法を考えさせられるシリーズになったといえる。
大沼SとマリーンSを連勝したペプチドナイルは、どちらもすんなり先行態勢をつくり、マイペースを決めて、1:43.1、1:43.0で勝ち、着差も0.5、0.6と大きかった。エルムS出走馬のなかでペプチドナイルを除いて唯一、どちらにも出走し、連敗を喫したセキフウが逆転したわけだから、競馬は難しい。
まず、先行して2連勝中の1番人気ペプチドナイルは、重賞の今回、さすがにマークが厳しくなった。シリーズ初参戦の2番人気タイセイサムソンにハナを叩かれ、こちらもシリーズ初参戦ですぐ隣にいたワールドタキオンにまで先へ行かれ、マリーンS4着アシャカトブからもプレッシャーを受けた。結果、ペプチドナイルはインの3、4番手に押し込められる形になってしまった。ここまで伸び伸び走れたのに、いきなり揉まれてしまい、馬は力を出せないまま終わってしまった。連勝中の1番人気の先行馬が最後の重賞ですんなり行かせてもらえないのは、競馬ではあること。同馬はこれをはね返せるだけのタフさを身につける、という宿題がひとつ残った。
札幌替わりを味方につけたセキフウ
ペプチドナイルを意識した先行勢は、少しペースも速く、息を入れにくい流れを自分たちでつくった。前半1000mは場内計時で1:00.4(推定)。2コーナー付近から12.3-12.4-12.2-12.2-11.9-12.2とほぼ上下動のないラップ構成になり、そう簡単には押し切れない競馬になった。
セキフウは武豊騎手のある程度ペースが速くなるという読みもあり、馬自身が馬群を好まないという特徴を踏まえ、シリーズ2走よりさらに後ろから競馬を進めた。この位置取りが結果的に大当たり。さらに加速をつけやすい札幌のコーナーを利用し、外を一気にまくり、抜群の手応えで最後の直線を迎えた。見るからに差し切れる勢いと騎乗フォームの一体感が美しかった。函館と札幌では4コーナーの走り方も勢いも違っており、これからも小回りでなければという条件はつくものの、ここを勝って賞金を積んだ事実は大きい。今後はもう一つ上の舞台へ向けて、計画的にローテーションを組めそうだ。
5着シルトプレの価値
2着ワールドタキオンは父アジアエクスプレス。その父はセキフウの父ヘニーヒューズなので、血統的には近い。競馬の形は対照的で、息の入らない流れを前で展開し、最後まで粘り通した。血統的にはこちらがしっくりくる。ただ、苦しいレースを凌ぎ、勝利まであと一歩というところまで迫っていただけに、2着という事実は重い。もちろん、昇級初戦でもあり、脚質的にもチャンスはまだいくらでもあると思うが、勝機があったレースを落としてしまったことが、後々響かないことを祈る。とはいえ、中央再転入後の連勝は3で止まったが、昇級初戦でこれだけ走れたわけで、未来は明るい。
3着は10番人気ロッシュローブ。ルコルセールをハナ差で抑え、波乱を呼んだ。休み明けだったマリーンSは好位から伸びきれず、6着に敗れたが、叩いて一変した。こちらもセキフウと同じく、速い流れのなか、あえて少し位置を下げて末脚にかけた。この競馬で先行差しと自在な脚質を身につけたのは大きい。3勝クラスを突破したのは、小倉ダート1700m重馬場の門司Sで、1:42.0の好タイムだった。ロードカナロア産駒らしく、ダートなら時計が出るコンディションでさらに前進する。条件さえそろえば、再度大穴提供もあるだろう。
とりあげたい馬がもう1頭。5着と掲示板にきたホッカイドウ競馬所属のシルトプレだ。前半はセキフウと同じく後方にいたが、手応えで見劣りながらも、最後は大外を豪快に伸びた。3歳時に北海優駿と盛岡のダービーグランプリを制した実力馬が、中央馬相手に意地を見せた。ダービーグランプリの勝ち時計2:04.9(良)は、地方馬同士のダービーグランプリ史上最速で、中央交流時代を含めても、2004年パーソナルラッシュ、2005年カネヒキリに次ぐ3番目の記録でもある。
地方馬のJRAダート重賞5着以内は2018年カペラS3着のキタサンミカヅキ以来で、ホッカイドウ競馬所属では2006年エルムS2着ジンクライシス以来17年ぶりだ。この2頭はどちらも元JRA所属馬であり、シルトプレのような生え抜きのJRAダート重賞掲示板は、2011年フェブラリーSフリオーソ以来。さらに地方騎手とのコンビとなると、2008年カペラS3着のフジノウェーブまでさかのぼる。ミックファイアの出現といい、最近は地方馬の勢いというか波を感じさせる。
最後に3番人気12着オーソリティは、どうやらまたも脚を痛めたようだ。なかなか思うように力を出せない競馬が続くが、まずは無事であることを願う。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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