【宝塚記念】イクイノックスいよいよ完成の域へ コース、距離、展開とわず圧巻の走りでGⅠ・4勝目
勝木淳
ⒸSPAIA
「競馬に絶対はない」を思い知った上半期
宝塚記念のファン投票で歴代最多得票数を獲得したイクイノックスは、ロンジンワールドベストレースホースランキングでレーティング129を獲得。現在、ランキング1位にいる。世界が認め、日本のファンも支持するスーパーホースの単勝オッズ1.3倍は、もしかすると、ついた方かもしれない。宝塚記念に限れば、単勝150円以下は93年メジロマックイーン150円、94年ビワハヤヒデ120円、06年ディープインパクト110円の3例。ほかに2着に敗れたのが90年オグリキャップ1.2倍、91年メジロマックイーン1.4倍、99年スペシャルウィーク1.5倍、01年テイエムオペラオー1.5倍と4頭いて、17年キタサンブラックは1.4倍で9着に敗れた。
そのキタサンブラックは宝塚記念3、9着、有馬記念3、2、1着。引退レースの有馬記念でようやくグランプリを制した。生涯で4着以下はたった2度の崩れ知らずながら、どういうわけかちょっとばかりグランプリとの相性が悪かった。イクイノックスはそのキタサンブラックの仔。だから宝塚記念は……、なんて少しばかり言いがかりに近い声もイクイノックスの耳には一切、入らなかった。
この春、1番人気が単勝1倍台の支持を集めた平地GⅠは桜花賞、天皇賞(春)、オークス、ダービーの4レースあり、1、競走中止、1、2着で、リバティアイランドの2勝にとどまった。「競馬に絶対はない」という格言の重さを思い知ったシーズンであり、イクイノックスの単勝130円はそんな流れも影響したのではないか。終わってみれば同馬の完勝。世界ランク1位の実力を国内で目撃できる機会はこの先あるのかと感じてしまうほど、惚れ惚れする競馬だった。
ようやく完成の域へ
阪神芝2200mは正面直線をたっぷり使うため、序盤で速いペースになりやすい。今年は外枠に先行型がそろい、ここから徐々に内側へプレッシャーがかかる形になった。真ん中から内は押圧され、位置を下げる場面も多い。今回もユニコーンライオン、ドゥラエレーデ、ブレークアップ、アスクビクターモアが序盤から位置取り争いを演じ、最初の600m34.0と突っ込んで入った。内枠のイクイノックスは外からのプレッシャーに対し、無理に応戦する必要がなく、あっさり引いて後方2番手に収まり、やり過ごした。
1、2コーナーで12.6とペースダウンし、12.3-12.4-12.5と進み、内回りらしく残り800m勝負になった。イクイノックスとの末脚比べに持ち込むにはアドバンテージが必要、そう判断したであろうジェラルディーナが動き、イクイノックスはその仕掛けに余裕をもってワンテンポ遅らせてきた。馬群に入る必要もなく、コーナーで距離ロスを防ぐ必要もない。自分の走りさえできれば勝てる。という自信に満ちあふれたレース運びはまさにチャンピオンの競馬だった。
国内外で8戦【6-2-0-0】、GⅠ・4勝、安定感抜群な戦績から、父キタサンブラックを連想させる。競馬場や距離、展開など、問われる適性が違う舞台で走れるのも血の影響だろう。若いころは秘める力に体が追いつかず、全能力を発揮できない状態であっても、崩れなかったのはポテンシャルの高さゆえの所業だ。3歳後半から4歳にかけて下半身を強化するなど地道な体幹トレーニングによって、才能をいかんなく走りで表現できるようになった。スピードに力強さが加わった今、いよいよイクイノックスは完成の域に達しつつある。
クビ差まで迫ったスルーセブンシーズ
2着スルーセブンシーズはイクイノックスにクビ差まで迫った。それも同馬の背後、最後方から進んでのもので価値は高い。勝負所は大外のイクイノックスに対し、少しでも内を走り、コーナリングで距離を詰める必要があったため、最後の直線で狭くなる場面に遭遇し、進路を切りかえた。着差を考えれば、このわずかなロスは悔やまれるが、イクイノックスに勝つには狭くなる可能性があっても、どこかで馬群に突っ込む必要があり、イチかバチかの選択で納得できる。宝塚記念3勝と勝ち方を知る池添謙一騎手の戦略と、そのうちの1勝ドリームジャーニーの血のコラボレーションは見ごたえがあった。
3着ジャスティンパレスは久々の中距離のため、序盤から位置取りが悪くなり、勝負所での手応えもイクイノックスに見劣りながらも、最後までしぶとく食い下がった。先行勢やまくったジェラルディーナが苦しくなる底力勝負での3着はさすがのスタミナだった。イクイノックスと同じ4歳、こちらも充実期を迎えた。
4着ジェラルディーナは対イクイノックスを想定し、必要があって先に動いたため、最後は苦しくなったが、それでも4着確保は立派だった。エリザベス女王杯のように早めにレースが動くこのコースでの強気な競馬がこの馬の形なので、もう少し前半が遅ければと感じた。牡馬相手でももう一つタイトルを獲れる力は十分示し、秋が楽しみだ。
5着ディープボンドは勝負所に下りがない阪神ではどうしても早めに手応えが悪くなるものの、しぶとかった。心肺機能の強さが問われるようなレースに強いのは変わっていない。さすがに時計勝負では厳しいだろうが、舞台さえそろえば、ひと花咲かせる力は十分ある。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』(星海社新書)に寄稿。
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