【宝塚記念】古馬中距離GⅠでは珍しいハイペース傾向 有力馬の血統解説

坂上明大

2023年宝塚記念の有力血統,ⒸSPAIA

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傾向解説

上半期を締めくくるグランプリレース・宝塚記念。今年は2022年年度代表馬イクイノックスを筆頭に強力4歳勢が集結。他の世代も多路線から有力馬が登録してきており、バラエティー豊かな顔ぶれが並びそうです。本記事では血統面を中心に、宝塚記念で求められる適性を整理していきます。

最初に取り上げたいポイントは中距離でのハイペース戦という特殊性について。JRAで行われる芝2000m以上の古馬混合GⅠ(牝馬限定戦を除く)は、ほとんどが前後半1000mで後傾1.0秒前後のラップを刻みます。しかし、宝塚記念だけは過去10年の平均が前後半1000m60.0-60.0の±0.0秒。スタート直後の直線が長いことや内回りコースという点が影響して、JRAの芝中長距離GⅠとしては非常に特殊なペースで流れるレースとなっています。

<前後半1000mの平均ラップ(過去10年)>
大阪杯(GⅠのみ):60.0-59.1(後傾0.9秒)
天皇賞(春)(京都):60.7-59.7(後傾1.0秒)
宝塚記念:60.0-60.0(±0.0秒)
天皇賞(秋):60.2-58.8(後傾1.4秒)
ジャパンC:60.5-59.3(後傾1.2秒)
有馬記念:61.0-60.2(後傾0.8秒)

そのため、実績面でも速い流れを経験してきた馬の方が良く、距離延長前走初角5番手以内の馬の好走率や回収率が高いのはそのためです。特に人気薄での好走馬の多くがこれに該当しており、2020年は天皇賞(春)で先行して凡走した2頭が2、3着、2021年は鳴尾記念を逃げ切ったユニコーンライオンが7番人気2着と穴を開けています。

前走距離別成績(過去10年),ⒸSPAIA


前走初角番手別成績(過去10年),ⒸSPAIA


<前走距離別成績(過去10年)>
距離延長【4-6-5-55】勝率5.7%/連対率14.3%/複勝率21.4%/単勝回収率46%/複勝回収率100%
同距離【0-0-0-1】勝率0.0%/連対率0.0%/複勝率0.0%/単勝回収率0%/複勝回収率0%
距離短縮【6-4-5-57】勝率8.3%/連対率13.9%/複勝率20.8%/単勝回収率69%/複勝回収率77%

<前走初角番手別成績(過去10年)>
5番手以内【4-5-5-36】勝率8.0%/連対率18.0%/複勝率28.0%/単勝回収率63%/複勝回収率130%
6番手以下【4-3-3-62】勝率5.6%/連対率9.7%/複勝率13.9%/単勝回収率60%/複勝回収率66%

血統面ではヨーロッパの主流血統であるNureyev≒Sadler's Wellsに注目。日本では重過ぎるきらいがある欧州血脈ですが、消耗戦になりやすい宝塚記念ではむしろ必須の重要血脈といえるでしょう。特に血統表の奥に隠れるようになってきた近年では、同血脈をクロスした馬の好走が目立ち、昨年も1着馬タイトルホルダーがNureyev≒Sadler's Wellsの5×4、3着馬デアリングタクトがSadler's Wells≒Nureyevの4×5を持っていました。これらに限らず、ヨーロッパの底力のある血統には要注意です。

血統別成績(過去10年),ⒸSPAIA


<血統別成績(過去10年)>
Nureyev【6-4-5-46】勝率9.8%/連対率16.4%/複勝率24.6%/単勝回収率102%/複勝回収率106%
Sadler's Wells【3-1-1-16】勝率14.3%/連対率19.0%/複勝率23.8%/単勝回収率165%/複勝回収率61%


血統解説

・イクイノックス
母シャトーブランシュは2015年マーメイドSの勝ち馬で、本馬の半兄には2021年ラジオNIKKEI賞勝ち馬ヴァイスメテオールがいます。本馬は父にキタサンブラックを配し、母父キングヘイローの部分だけが瞬発力を担っているような形。Lyphardの血も5・5×4で継続しており、若駒時のキレキレのイメージよりもバランスの良い万能型という評価が正しいでしょう。前走の先行経験も今回に活きてきそうです。

・ジャスティンパレス
母パレスルーマーはアメリカで2013年ベルモントS勝ち馬Palace Maliceを出し、日本でも2022年阪神大賞典2着馬アイアンバローズなどを出すスタミナ豊富な繁殖牝馬です。本馬は父にディープインパクトを配し、470キロ前後の馬体重からも超長距離適性の高さは現役屈指。その反面、中距離でのハイペース戦では相対的に分が悪く、前走のペース経験的にも高い評価は与えられません。

・ジェラルディーナ
母ジェンティルドンナは2014年有馬記念などGⅠ・7勝の名牝。Lyphardの4×4やDanzigなどからFair Trial血脈を豊富に受け継いでおり、ディープインパクト産駒のなかでも機動力に長けた競走馬でした。ただ、宝塚記念では3着、9着と連対することができず。モーリス産駒の本馬はSadler's Wellsの血を引くため母よりも底力のあるタイプではありますが、中距離でのハイペース戦を真っ向勝負で押し切れるほどの底力はないでしょう。前走のクイーンエリザベス2世Cもスローペースを後方待機から差す形で、今回も前崩れ待ちの後方待機策となりそうです。

2023年宝塚記念の有力馬と評価,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
坂上明大
1992年生まれ、岐阜県出身。元競馬専門紙トラックマン(栗東)。2019年より競馬情報誌サラブレにて「種牡馬のトリセツ」「新馬戦勝ち馬全頭Check!」などの連載をスタートさせ、生駒永観氏と共同執筆で『血統のトリセツ』(KADOKAWA)を上梓。現在はYouTubeチャンネル『競馬オタク』を中心に活動し、パドック解説や番組出演、映像制作、Webメディアでの連載もこなす。

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