【目黒記念】ヒートオンビート、待望の重賞初制覇! 血統的にもまだ上を目指せる器
勝木淳
ⒸSPAIA
帰りたくないという雰囲気が運んだ熱気
日本ダービーの発走から1時間20分後、競馬場の熱気は冷めてはいなかった。スタンドを埋め尽くす大勢の観客のなか、家路へ急ぐ人々が蛇のようにすり抜けていく。メインレースを見届けて帰るのは勝ち組か負け組か。ダービーに限らず、最終レースを前にした競馬場でふと思う。私は勝っても負けても帰らない。それがもはや習性であるなら、メインレース後に帰る人も習性だろう。競馬は人それぞれ、付き合い方がある。
目黒記念は普段とは明らかに違った。どこかみんな、帰りたくないようにみえる。帰ればダービーデイが終わってしまうからだ。今年も生観戦するには事前の抽選が必要だった。指定席は2週間前、入場券は1週間前に予約しなければならない。待ちに待った一日。楽しい時間は辛い時間の百倍早く進む。ダービーが終われば、目黒記念。敗者復活だけでは片づけられない余韻を感じた。
さて、目黒記念は3歳同士のダービーとは毎年、まったく違う趣きを出走馬に感じる。わずか100mしか距離は違わないが、古馬と3歳のレースへの向かい方が異なる。今週から3歳と古馬は1勝クラス以上の条件戦で対戦する。この雰囲気の違いに斤量と勢いが混ざり合う。新しい幕開けも楽しみだ。
1200mスパートで強みを活かしたディアスティマ
またも話が逸れた。目黒記念は古馬同士とあって例年、スローが定番。東京芝2500mで飛ばす馬はそういない。ディアスティマが昨年のステイヤーズS以来の逃げの手に出て、2コーナー手前から11.4-13.1-13.0とペースを落とし、レースにメリハリをつける。長距離で強いディアスティマの長所はスタミナ。この馬を知り尽くした北村友一騎手はそれを引き出そうと、残り1200mから12.0-11.7-11.7とじわりとペースをあげ、ついてくるバラジ、アーティットを振り切りにかかる。スタミナにそれなりに自信をもった先行勢だが、ディアスティマとはキャリアの差もあった。
残り600m11.2-11.3-12.0。途中から動いてきたセファーラジエルも残り200mで振り切ってみせたが、最後200mは12.0。ディアスティマも時計が出る東京でロングスパートから11秒台前半を2度続けたとあれば、最後に限界がきた。やはり競馬の残り200mは本当に苦しい。自然に生きていれば絶対に出すことのない速度で走り、最後まで失速しないのは観る者の想像を超える世界だ。
ディアスティマの脚色が鈍ったところを捉えたのが勝ったヒートオンビート。2年前の目黒記念2着、昨年のアルゼンチン共和国杯3着、勝ち鞍はないが、このコースに強い。これまで重賞2着3回3着3回の惜敗続きに終止符を打った。ディアスティマの持ち味がスタミナとロングスパートであるように、ヒートオンビートもスタミナと持続力に長ける。3000m級の長距離まで延びると厳しいが、2400~2500mの持久戦なら今後も活躍できる。
父と母父は日本ダービー馬で、母は桜花賞馬。ここにも出走した半兄ラストドラフトは3歳で重賞を勝ち、5歳時に不良馬場のAJCC3着、6歳時はオクトーバーS2着と、ベテランになっても時々好走したように、息が長い。母マルセリーナも桜花賞後、5歳夏のマーメイドSで2年2カ月ぶりの勝利を飾っており、6歳ヒートオンビートもまだまだやれる。
次は狙える4着ゼッフィーロ
わずかに最後及ばなかった2着ディアスティマもこの好走で改めて戦法を確認できた。上がりが極端に速くならない競馬に持ち込むには、自身でペースを握るべきだろう。押し引きの巧い北村友一騎手とは手が合う。
3着サリエラはダービーと同じく目黒記念でも有利に働くとは思えない外枠がアダになった。馬体の小さな牝馬だけに、気分よく走らせるには外を回らざるを得なかった。伸びきれなかったのはそこだろう。この血統は父ハーツクライ産駒のサリオスこそ2歳王者に就いたが、サラキアやエスコーラなど、早期から活躍できるディープインパクトの血であっても晩成型が多く、ちょっと興味深い。ドラフトが佳境を迎えるPOGでは毎年人気になる血統だが、期間外から走る産駒も多く、頭を悩ませる。今年の2歳はサリオスと同じ父ハーツクライの牝馬。さて、どう出るだろうか。
4着ゼッフィーロは上がり最速33.5を出すも4着まで。これでまだキャリア10戦。重賞初挑戦のここも無理はせず、終いどこまでという競馬を試みた。上がり最速を記録できたのは収穫で、次走以降はもっと積極的な競馬運びになるのではないか。次は勝負になる。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
《関連記事》
・【安田記念】カギはソダシの位置取り! 切れ味勝負ならソングラインとシュネルマイスター、メイケイエールもチャンスあり
・【鳴尾記念】中心は前走重賞組のフェーングロッテン、カラテ、ソーヴァリアント! マリアエレーナとアドマイヤハダルも魅力あり
・2023年に産駒がデビューする新種牡馬まとめ 日本馬の筆頭・レイデオロは「ディープ牝馬」との配合で期待
おすすめ記事