【皐月賞】50年ぶり重馬場の皐月賞はソールオリエンス伝説の幕開け
勝木淳
ⒸSPAIA
道悪の皐月賞
皐月賞当日、中山競馬場は中山グランドジャンプが行われた前日とは正反対の、爽やかな春の空が広がっていた。今開催は週末の雨が多かった。春は周期的に雨がやってくるだけに、悪いリズムから抜け出せず、馬場は相当に傷んでいた。せめてグランドジャンプと皐月賞だけは青空でという願いは残念ながら届かず、イロゴトシが圧勝したグランドジャンプは表現できないほど酷な環境になった。皐月賞の晴天はせめてもの救い。このまま晴れてくれれば、メインはやや重まで回復するだろう。しかしそんな願いは届かず、東京都心の方向から雷鳴がとどろき、8レースから9レースにかけて大粒の雨が馬場を濡らした。
重馬場の皐月賞は1973年ハイセイコーが勝った年以来、50年ぶり。その皐月賞は母と結婚する前の父が競馬場にいた。ひと昔どころかふた昔前の話だ。なお、不良の皐月賞はドクタースパートが勝った1989年がある。このレースはハイペースで進み、好位にいたドクタースパートが追い込むウィナーズサークルを半馬身退けて決着した。ウィナーズサークルは次走、良馬場の日本ダービーを勝利。はるか昔のことだが、中山内回りで道悪になれば、末脚勝負は難しいという認識はいまも変わらない。なにせ直線はわずか310m。ぬかるんだ不安定な馬場で3、4コーナーから加速するのは容易ではない。まして、キャリアの浅い3歳ならば差し届かないのが当然だ。
データもトレンドも覆した勝利
最内枠を嫌い、スタート直後に下げて後方集団に入りつつ、外目に持ち出したソールオリエンスが1コーナー15番手で突入したとき、浅はかにも、これはないと感じてしまった。自分の経験則からくる直感ほど意味がないものだと知らされた。しかし、ソールオリエンスは勝負所でも進出せず、4コーナー17番手、加えて京成杯と同じくコーナーリングが不格好で、かなりロスしており、とても届くとは思えなかった。たしかに先行勢には苦しい流れだったが、タスティエーラが抜け出した残り200m地点からゴールまでは12.0。その前が12.7-12.5なので、タスティエーラはこの馬場で加速する強さを見せた。それを瞬く間に外から差し切ったソールオリエンスのスケールは計り知れない。
キャリア3戦の皐月賞制覇は史上初。昨年イクイノックスが達成できなかった記録でもある。京成杯が1999年に本番と同じ2000mへ変更されてから前走京成杯は【0-0-2-7】。エイシンフラッシュ、ジェネラーレウーノの3着が最高で、ソールオリエンスが初勝利。近年は共同通信杯をはじめ前走で1800mを走った馬が強く、スピードを活かせる距離延長が優勢と言われたが、今年の1、2着ソールオリエンスとタスティエーラはともに前走は同舞台だった。50年ぶりの重馬場皐月賞は近年のトレンドやデータを覆し、ソールオリエンスの伝説を演出した。
規格外の末脚! 次位に0秒9差
レース後に喜びを爆発させた横山武史騎手はエフフォーリア以来2年ぶりの皐月賞制覇となった。その年、GⅠで大活躍し一気にブレイクしたものの、昨年はGⅠで人気を裏切る場面が多く、本人も悔しい思いをした。だが、外目が優勢の馬場、ハイペースとはいえ、後方待機から直線勝負に賭ける胆力はさすがの一言。思えばエフフォーリアの皐月賞もインで仕掛けを待ち、ラチ沿いを抜けてきた。ここ一番での肝の据わり方が素晴らしい。本馬場入場までゴーグルを装着し忘れ、検量室前までソールオリエンスと一緒にとりにいったなんて茶目っ気もまたファンを魅了する。
ソールオリエンスは次走、二冠をかけ日本ダービーへ進む。重馬場の皐月賞を豪快に差し切ったことで、つけ入るスキありとみられるかもしれないが、ソールオリエンスが記録した上がり3ハロン35.5は次位36.4より0秒9も速い。展開以上にこのメンバーでは決め手が違う。ダービーで直近10年、前走皐月賞1着、かつ上がり最速は【2-0-0-1】。次位に0秒5以上つけた馬はドゥラメンテとコントレイル、どちらも日本ダービーを勝った。さらにコントレイルは0秒5差、ドゥラメンテは0秒6差で、ソールオリエンスの0秒9差は規格外だ。
今年の皐月賞は前後半1000m58.5-62.1の超ハイペース。グラニットの逃げは計算内だったが、外枠タッチウッドが1、2コーナーにかけて馬が前を追いかけようとし、そのリズムをなんとか整えるべく、結果的に深追いする形になり、ハイペースを誘発した。馬場を考えても先行勢から直線で完全に抜け出したタスティエーラは負けて強し。先ほども書いたが、後半600mは12.7-12.5-12.0でタスティエーラは最後に加速ラップを演出した。十分、評価できる内容だ。一方、今年3戦目で消耗が心配になる競馬ではあった。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
《関連記事》
・【マイラーズC】実績馬ソウルラッシュ、シュネルマイスター有力 伏兵候補は六甲S組のサヴァ
・【フローラS】ポイントは中距離へのシフトチェンジ 狙いは君子蘭賞勝ち馬キミノナハマリア
・【福島牝馬S】中山牝馬Sからの連続好走が頻発! 斤量増でも構わずストーリア
おすすめ記事