【ダービー卿CT】インダストリア、中山巧者に通じる血を武器に重賞初制覇

勝木淳

2023年ダービー卿CT、レース結果,ⒸSPAIA

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力がないと乗り切れない後半の加速ラップ

波乱前提のハンデ戦ダービー卿CTは3番人気インダストリア、2番人気ジャスティンカフェ、5番人気ゾンニッヒで決まり、ちょっと肩すかしを食らうような上位人気決着になった。1番人気レッドモンレーヴがスタートで遅れる波乱こそあったが、このとき一緒にトーラスジェミニも出遅れたため、外枠からベレヌスが労せずハナに行き、2番手ミッキーブリランテで隊列はあっさり決まった。

中山マイルの波乱はスタートから2コーナーにかけての序盤で隊列が定まらず、ハイペースになった際に起こりやすい。2走前にこのコースを逃げ切ったウイングレイテストが引き、トーラスジェミニも立ち遅れたことで、序盤600m35.4、800m通過47.2。これは同日7R3歳1勝クラスの35.3-46.9よりも遅いぐらい。7Rは差し決着になったが、古馬重賞でこれほどの流れになれば、先行優位になる。

後半800mは11.9-11.6-11.3-11.2と加速ラップを描き、46.0。勝ったインダストリアと2着ジャスティンカフェはともに上がり3位33.4の末脚を繰り出し、好位の後ろからきっちり捕らえた。加速ラップになったことで我慢できる馬が減り、展開に乗じた組も多くなく、実力がストレートに反映された。きっちり差したインダストリア、末脚全開まで少しもたついたジャスティンカフェ、好位で粘ったゾンニッヒはその実力を証明してみせた一戦だった。


中山適性の差

勝ったインダストリアの母インダクティはホールオブフェームの仔で、きょうだいには重賞6勝フェイムゲーム、中山重賞4勝バランスオブゲームがいる。ホールオブフェームの母ベルベットサッシュは父ディクタスと母ダイナサッシュ、サッカーボーイのひとつ年下の全妹だ。3歳(現在表記)でマイルCSを勝った快速馬サッカーボーイは、のちにヒシミラクル、ナリタトップロードといった名ステイヤー、さらに3歳夏に軌道に乗り、秋華賞を勝ったティコティコタックを送った。

サッカーボーイが証明したスピードと成長力は同血ベルベットサッシュからホールオブフェーム、そしてインダクティからインダストリアへ受け継がれている。NHKマイルCは2番人気5着に敗れ出直す形になったが、そこから成長するのがこの血統の長所だ。バランスオブゲームもフェイムゲームもクラシックで壁に弾かれ、さらに強くなった。スピードをバランスよくレースで発揮できるようになったインダストリアの今後が楽しみだ。

2着ジャスティンカフェはこれで2度目の重賞2着と歯がゆい。昨秋マイルCSで前が壁になり、抜け出せなかったように、勝負所で加速しきるまでにやや時間を要するタイプで、直線が短い中山はイメージとは遠い舞台。4角から直線前半でもたつきながらも、よく2着まできた。東京の重賞だと前走の東京新聞杯のように展開面が合わず、スローで物理的に厳しいケースが想定されるので、余計に歯がゆい。反面、ちょっと流れが厳しくなりそうな安田記念は展開がハマる可能性を感じさせる。それだけにここは勝ってさらに賞金を積んでおきたかった。

3着ゾンニッヒは中山マイル【1-2-0-0】。コース巧者らしく、今回も先行して上手に流れに乗り、これで4戦全て馬券圏内に入っている。1、2着馬の決め手に屈したように、重賞タイトル奪取にはもうワンパンチほしいところ。現状では崩れはしないが、あと一歩足りないというタイプ。父ラブリーデイの成長力を背景にもう一段ステップアップできるか注目だ。

1番人気7着レッドモンレーヴはスタートのタイミングが合わず、遅れたのは痛恨だった。本来は先行力もあるタイプだけに、スローを後方追走ではどうにもならなかった。後方から末脚に賭けたのは4着マテンロウオリオンも同じ。こちらは4コーナーでは外を回りすぎず、馬群に突っ込む形で見せ場をつくった。器用な立ち回りもできる馬で、ちょっとリズムが悪そうな印象も、立て直してくれば重賞2勝目も近い。


2023年ダービー卿CT、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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