【チューリップ賞】モズメイメイ、名手を背にスマートな逃げで混戦を断つ! 本番で密かに狙える敗退組は

勝木淳

2023年チューリップ賞、レース結果,ⒸSPAIA

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変化する理想のローテーション

桜花賞最有力トライアルのチューリップ賞が重賞に昇格してから、GⅠ・5着以内馬が出走しなかったのは1995年と今年のたった2回しかない。その背景には直近6年連続でチューリップ賞組が桜花賞を勝てていない点がある。同レースから桜花賞を勝ったのは16年ジュエラーが最後になる。この6年間、桜花賞馬の前走は阪神JF、朝日杯FS、シンザン記念、エルフィンS、クイーンC、フィリーズレビュー。17年レーヌミノルがフィリーズレビュー2着から桜花賞を勝って以来、3月に競馬を使った馬は勝っていないことになる。

牡牝ともに3歳春はまだまだ弱い部分を抱えており、競馬による消耗も激しい。それを最小限にとどめるには、効率よく賞金を稼ぎ、余裕をもって本番に挑む必要がある。チューリップ賞もこれから先、実績上位馬の始動戦ではなく、ここまでに何らかの事情で賞金を稼げなかった馬たちによる出走権をかけた真のトライアルになる。

今年は重賞勝ち馬キタウイング、ドゥーラ2頭を含むオープン馬6頭、1勝馬10頭、未勝利馬1頭といった組み合わせで、これからの時代を象徴するチューリップ賞だった。


絶妙だった残り400~200m10.9

混戦模様、多頭数、飛ばす馬不在。阪神芝1600mでこういったシチュエーションだと、ほぼスローペースの団子状態で、折り合いを欠く馬があらわれ、ゴチャついた競馬になる。このレースもまさにそういったレースで、向正面や最後の直線で不利を受けた馬も多かった。

こういったレースを見越したかのような競馬だったのが、勝ったモズメイメイ。好発から競りかける馬がいないとみるや、ハナに立ち、前半600m35.2、800m通過47.5と遅すぎない絶妙な流れを作りだした。こうなれば後ろは我慢するしかなく、その我慢比べで消耗した馬は多かった。後半800m46.5で、12.4-11.3-10.9-11.9。後ろが間合いを詰めてくるや、一旦引きつけて、早めに突き放した。直線を向いて残り200mまでの10.9で作っておいたリードが効いた形だった。武豊騎手の鮮やかな逃げはいつ見てもスマートでスキがない。

モズメイメイはこれで4戦3勝3着1回。負けたのは1400mでマイルは3戦全勝。桜花賞はリバティアイランドという強敵が待ち受けるが、阪神JFよりペースが落ちるようなら、しぶとさも発揮できる。先述の通り、阪神芝1600mはスローになれば必ずといっていいほど馬群がゴチャつく。それを避けられる先行力は大きな武器だ。


桜花賞で狙いたい7着キタウイング

2着コナコーストは外枠からモズメイメイをマークする形をとれそうだったが、外からルカン、ペリファーニアがやってきて、アリスヴェリテもフラつき、下がる場面があった。鞍上は抑えにかかっていたので下げた形かもしれないが、着差を考えるとついて行きたかったか。それでも好位後ろから上がり33.7の決め手を発揮し、可能性を感じさせた。母の母は函館2歳Sを勝ったアンブロワーズで、母コナブリュワーズも函館で未勝利勝ちから函館2歳Sに挑戦した。早熟系統のようだが、母のきょうだいテオドール、ロシュフォールは4歳でOP入り、母のOP昇級も5歳春で、息長く活躍した。まだまだ強くなる。

3着はエフフォーリアの妹ペリファーニア。今回は大外枠に入り壁をつくれず、行きたがってしまった。まだキャリア2戦目で若さを見せた感じ。前半で消耗したが、自滅せずに3着に残った。展開が向いた面もあるものの、荒削りのなかに素質の一端を垣間見た。今回の経験で落ち着いて走れるようになれば、距離が延びても当然問題ない。

1番人気ドゥーラは15着大敗。前走より流れが遅く置かれなかったが、それでも展開的に厳しかった。終始馬群のなかで競馬し、最後の直線も外に出せず、馬群のスペースを突くもキタウイングに奪われ、万事休す。力を出せなかった。

もう1頭の重賞ウイナー・キタウイングは7着。栗東入厩で調整されたこともあり、馬体重は増減なし。前走と同じくインを狙う競馬でドゥーラとの進路の奪い合いにも勝った。これはいい予行演習になった。似たローテーションのスマイルカナも、同じ7着から桜花賞3着とパフォーマンスをあげた。桜花賞でぜひ狙いたい。

2023年チューリップ賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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