【中山記念】鮮やかな復活劇! 中山巧者ヒシイグアスが2年ぶりの中山記念2勝目

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堀厩舎の厩舎力
昨年の勝ち馬パンサラッサはここからドバイターフを勝ち、宝塚記念では前半600m33.9、1000m通過57.6というハイペースで逃げ、2:09.7という強烈なレコード演出にひと役買い、タイトルホルダーの底力を引き出した。天皇賞(秋)でも前半1000m通過57.4で逃げ、ゴール寸前まで粘った。そして中山記念当日の早朝、世界最高賞金額のレースであるサウジCを制し、芝・ダートの海外GⅠ勝利という偉業を達成した。
昨年行われたレースのなかでも屈指のインパクトを残した宝塚記念は、ハイレベルすぎたのか、その後、勝ったタイトルホルダー、3着デアリングタクト、4着ディープボンドなど上位馬含め、軒並み不振に陥った。
しかし、7着ウインマリリンが香港ヴァーズを勝利し、8着パンサラッサはサウジCを勝ち、改めて宝塚記念がハイレベルだったことを証明する。そして、宝塚記念以降出走がなかった2着ヒシイグアスが2年ぶりに中山記念2勝目をあげた。同馬も宝塚記念後、重度の熱中症にかかり、陣営は立て直しに苦心した。ようやく8カ月ぶりに競馬場へ戻ってきたという印象のコメントもあり、地力に期待したいといったところだった。
そういった中での今回の勝利、ヒシイグアスの地力は相当高い。思えば中山は2年前に中山金杯、中山記念を連勝した得意な競馬場。瞬発力勝負だと分が悪い面があり、宝塚記念のようなハイペースや瞬発力を必要としない舞台での持続力勝負が身上。序盤は中団後ろで馬群のなかに入り、リズムを作った。コーナーは内目を通りロスを軽減し、最後の直線を迎えてから外目を意識、スタニングローズの外に進路を見出すときれいに抜けてきた。強風下の中山中距離戦のお手本のような運びはヒシイグアスの中山巧者ぶりを示す。
8カ月かけて慎重に立て直しただけでなく、堀厩舎らしい無理のない間隔をとったレース選択のおかげで、7歳でもまだ16戦しか出走しておらず、馬も若い。また、堀宣行厩舎の戦略がヒシイグアスに合う。能力は高いが慎重な仕上げを必要とする馬を管理する技術に長けた厩舎だ。今後も適性と状態を見極めて出走させてくるだろうから、出る以上は勝負になると踏んで評価していきたい。
2、3着はまだまだ強くなる4歳2頭
2着は2年前のヒシイグアスと同じく中山金杯からの連勝を狙ったラーグルフ。開幕週で馬場の内側が良かったため、渋滞が起こったなかこちらは後方から外を通った。伸び伸び走らせることに主眼を置き、ロスを承知で割り切った策が当たった。ラップに上下動がない一定の流れだったこともラーグルフの好走要因。やはりモーリス産駒はこの手の持続力勝負に強い。これでGⅠ即通用とはいえないが、まだまだ強くなる余地を感じるので、いずれハマるときがくるかもしれない。
3着は逃げたドーブネが粘った。骨折休養明けからこれで1、1、2、3着。着実にレースの格を上げながらも崩れておらず、充実期に入った。残り1200m地点から坂下まで11秒台を連発し、残り600~200m11.6-11.4と巧みなペース配分も光った。最後は12.4と苦しくなり1、2着の決め手に屈したが、バランスのとれたラップを踏めるのは性能が高い証だ。先行勢が追いかけにくくなる広いコースでも面白いのではないか。
4着シュネルマイスターは内で闘志をコントロールし、最内を突くもイルーシヴパンサーとのスペース争いでゴチャついた。ドーブネの内はイルーシヴパンサーが入ろうとしており、内1頭分ないようなスペースだったので、外国人騎手特有の強引さもあった。明らかに中山向きではなく、精神的に落ち着けば東京コースで巻き返すだろう。
ゴチャつきを避けるように外から進出したスタニングローズは5着。手順は悪くなく、馬場も流れも悪くなかったが、ちょっと弾けなかったのは気になる。元来は器用な立ち回りを武器にしてきた馬、もう少し伸びてほしかった。道悪だったエリザベス女王杯の影響だろうか。骨っぽい牡馬相手に終始外を回ってきた分もあったかもしれない。
1番人気ソーヴァリアントは9着。レース運びは良かったが、追って伸びなかったのは不可解だ。プラス12キロでデビュー以来最高馬体重だったのも響いたか。チャレンジC連覇の内容から能力は間違いなく、今回は力を出し切っていない。1800mが忙しかった可能性もあるだろう。2番人気ダノンザキッドは11着。内枠がアダになり、勝負所で下がってしまった。こちらも力を出していない。枠内駐立不良で発走調教再審査という裁定。やや気難しさも気になる。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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