【共同通信杯】押し引き自在、優れたラップバランスで押し切ったファントムシーフの今後は?

勝木淳

2023年共同通信杯、レース結果,ⒸSPAIA

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序盤600m35.3の価値

ホープフルSで2番人気4着に敗れたファントムシーフが見事に巻き返し、クラシック路線へ再浮上した。生産した谷川牧場といえば、1973年日本ダービーを制したタケホープ、81年菊花賞ミナガワマンナ、94年オークスのチョウカイキャロルなど多くのクラシックホースを生産した。近年ではフェブラリーSを勝ったサクセスブロッケン、インカンテーション、ファンディーナといった重賞ウイナーや昨年のアルゼンチン共和国杯を勝ったブレークアップ、中山大障害のニシノデイジー、そして今年はシルクロードSを制したナムラクレアもいる。昨年後半からにわかに勢いを感じる。

馬主ターフ・スポートの重賞勝利は17年インカンテーションの武蔵野S以来になる。この年の皐月賞1番人気ファンディーナはフラワーC5馬身差圧勝から挑む異例のローテーションだった。ファントムシーフは共同通信杯を勝ち、再び牡馬クラシック出走権を勝ちとった。皐月賞出走ならファンディーナ以来になる。直近2年のエフフォーリア、ジオグリフが皐月賞を制した黄金ローテで挑む。

今年の共同通信杯はスタートで後手を踏んだタッチウッドが向正面からハナに立ち、序盤600m35.3だった。スローが定番の共同通信杯での記録としては速く、過去10年で序盤600m35秒台だったのは3度。15年35.2(勝ち馬リアルスティール)、16年35.8(ディーマジェスティ)、18年35.7(オウケンムーン)。このうち2頭がGⅠ馬になり、ディーマジェスティは皐月賞を制し、15年2着ドゥラメンテは春二冠を勝ちとった。今年の35.3は15年に次ぐ速いラップで、2番手から攻めたファントムシーフが押し切ったのは価値が高い。

1000m通過1:00.5は15、16年1:00.0より遅く、中盤で絶妙にペースダウンしたことがわかる。息を入れられる、いわゆるペースの押し引きができたのもファントムシーフにとって意義がある。ラスト600m11.3-11.3-11.5で34.1。差しに回った組はファントムシーフと2着タッチウッドの緩急に封じられた。

東京芝1800mで前半600m35秒台、後半600m34秒前半で上がる競馬は高度なもので、毎日王冠のラップ構成に迫る。古馬GⅡはもう少しハイラップだが、3歳2月時点での記録としては胸を張れるものだ。ファントムシーフもタッチウッドもこの流れを自力で押し切った。スローではない共同通信杯は皐月賞につながるだろう。


父と同じ2着だったタッチウッド

タッチウッドはキャリア2戦目でこの競馬。ゲートで遅れてどうなるかと思ったが、挽回してハナへ。T.バシュロ騎手のプランを遂行する意志あっての競馬だった。キャリアが浅く、荒削りな面が多いだけに楽しみだ。父ドゥラメンテは共同通信杯2着から荒っぽい競馬で春二冠をつかんだ。

3着ダノンザタイガーは前の緩急にいいところを消された面もあったが、それ以上に直線で外をタスティエーラに消され、追い出しても前にいたファントムシーフがフラついて進路が定まらず、能力全開の場面を作れない悔いを残す競馬だった。東京スポーツ杯2歳S2着の賞金では春の見通しは立たない。今後どうするのか。クラシックはこの辺りの微妙な着順だった馬が苦境に陥る。なんとか打開する道を探してほしい。

4着タスティエーラはダノンザタイガーと比べると、きれいに進路を作って末脚を引き出した。先行2頭が強力だった面もあるが、ゴールに向かってじわじわと苦しくなった印象で、現状は体力がまだつききっていないようだ。父サトノクラウンはタスティエーラと同じ堀宣行厩舎に所属。厩舎得意のじっくり育てる方針によって4歳終わりから再浮上した。タスティエーラも焦らず待てば開花する日が来るだろう。


2023年共同通信杯、通過順,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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