【ジャパンC】ヴェラアズールという大器、ここに花開く 明暗分けたスローペースの攻防

勝木淳

2022年ジャパンCのレース結果,ⒸSPAIA

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年明けは2勝クラスのダート戦出走

年明け1月9日2勝クラスのダート1800m戦で7着だったヴェラアズールがジャパンCを勝った。こう記すと近年にない大器晩成感が強い。3歳クラシックの価値が高まり、そこへ勢力を集中する傾向にある時代にあって、3歳でできあがった勢力図を古馬になって切り崩すのはなかなか難しい。骨折でデビューが遅れたヴェラアズールにあえて過度な期待と急かすことをせず、ダートでコツコツと実績を積み上げた渡辺薫彦調教師と馬主サイドの努力をまずは称えたい。

さらにいえば、芝を使うタイミングの見極めも的確だった。初芝は3月阪神芝2600m。それはスタミナ重視のコースで極端なスピードを要求されない舞台だった。実際、上がり最速でも34.8。ヴェラアズールのポテンシャルが高いからこそ一気に瞬発力を使わせない心遣いが透けて見える。昇級初戦も似た適性を問う中山芝2500m。3着だったが、上がり最速34.0を記録。芝で鋭い末脚を使えることを入念に確認した。

そんなヴェラアズールの長所を発揮させられる広いコース東京芝2400mへの出走は芝転向3戦目。そんな繊細な芝への使い出しがヴェラアズールの素質を大舞台で花開かせたのではないか。案の定、緑風S3着後、広いコースの芝2400mで3連勝。前走京都大賞典は上がり33.2。着差がつきにくいスローペースで差して2着に2馬身半差はGⅠ級だった。

エイシンフラッシュの特性がつまったヴェラアズール

この勝利で管理する渡辺調教師のほかにエイシンフラッシュ産駒もJRAのGⅠ初制覇。思えば初年度産駒は生産頭数135頭。種付けも200頭を超えていた。ダービーと天皇賞(秋)を勝ったエイシンフラッシュは中距離王道路線の実力馬ながらサンデーサイレンスが血統表に入っておらず、貴重な存在ではあった。

しかし、産駒の活躍は芳しくなく、重賞勝利は今年の京成杯オニャンコポンがはじめて。群雄割拠の種牡馬界は産駒成績自体が晩成では厳しく、今年の2歳世代の血統登録は31頭まで落ちた。ヴェラアズールは血統登録が3ケタだった最後の年になる17年生まれ。エイシンフラッシュにとっても正念場の世代であり、ヴェラアズールのジャパンC勝利は起死回生の一撃でもあった。

振り返ればエイシンフラッシュのダービーは前半1000m1.01.6。そこから13.5-13.1と進む信じられないほどの超スローペースだった。これを1番枠から内を通り、最後は外目に持ち出し、上がり32.7。いまも破られていないダービー史上最速の瞬発力を繰り出した。そこから惜しい競馬を続け、5歳天皇賞(秋)はハイペースを上がり33.1でインを切り裂き、復活。ダービーを勝ちながら5歳でGⅠ制覇はウオッカやオルフェーヴルなど数えるほどしかいない。

早期から仕上げてGⅠをつかみ、5歳で返り咲くのは容易なことではなく、その類まれな息の長さがヴェラアズールで実を結んだ。またインを攻めるレース内容も上がり最速タイ33.7もエイシンフラッシュと重なる。ヴェラアズールはその血を継ぐものとして名を残した。これでエイシンフラッシュ産駒への評価が大きく変わり、我慢は要するが、若い頃に花開かずとも成長力にかける方向へ進むことを願う。

躍動する5歳世代、らしさを見せたシャフリヤール

エイシンフラッシュを管理した藤原英昭厩舎が送ったのが2着シャフリヤール。藤原調教師はレース後「エイシンフラッシュに負けた」とコメント。こちらは1000m通過1.01.1のスローペースを後方馬群の外目で追走。終始外を回るロスが響いた。上がりはヴェラアズールと同じ33.7。通った差としか言いようがない。

天皇賞(秋)とは一転、後方待機策を選んだのはダービーの再現を狙ったもので、作戦はよく、その証拠に久しぶりにシャフリヤールらしい瞬発力を繰り出せた。今回は流れ不向きが響いたのと、ヴェラアズールがスローの団子状態のなか、インをこじ開けたゆえの敗戦だった。抜け出せなくても不思議ない状況で極限まで脚を溜められてしまった。

3着ヴェルトライゼンデはスローペースを好位のインでじっとする最高の形。抜け出して最後甘くなったように見えたのは1、2着馬との地力の差だが、現状でやれることはすべてやった印象。長期休養もあり、古馬になってまだ4戦目で消耗が少ない。無理はできないが、大事に管理すればまだまだやれる。ヴェラアズールと同じくコントレイル世代を代表する1頭として活躍を期待する。

4着は同じ5歳、三冠牝馬デアリングタクト。2年前のジャパンCはアーモンドアイ、コントレイルに次ぐ3着。こちらも上がり最速タイ33.7を記録。中1週でこの走りに勇気をもらう。やはりベストは直線が長いコース。適性を改めて確認した一戦だった。

5着ダノンベルーガはゴール前の不利は痛かったが、脚色からやはり距離はやや長いかもしれない。じわっとペースがあがった4コーナー手前から進出する競馬だと最後に距離の壁を感じる。2000m前後で見直してみたい。

外国勢4頭のうち最先着は昨年5着だったグランドグローリーの6着。デアリングタクトより年上の6歳牝馬にして、凱旋門賞も5着。本当にタフで頭が下がる。昨年も引退レースの予定だったが、今回こそ引退レース。息長く活躍できる産駒を送ってくれるだろう。

2022年ジャパンCのレース展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。



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