【アルテミスS】またもキョウエイマーチ牝系が重賞制覇 ラヴェルとリバティアイランドのスケールが際立つ一戦

勝木淳

2022年アルテミスSのレース結果,ⒸSPAIA

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キョウエイマーチ牝系の魅力と不思議

ラヴェルがキャリア2戦で早くも重賞タイトルを獲得。改めてキョウエイマーチ一族のポテンシャルを知った。

ラヴェルの三代母キョウエイマーチは97年不良馬場の桜花賞を勝った。父ダンシングブレーヴから底力と気難しさを受け継いだキョウエイマーチは1200~1600mを中心に活躍、引退後はノーザンFで繁殖入り。初仔ヴィートマルシェはナミュール、ラヴェルの母サンブルエミューズだけではなく、ブリーダーズCディスタフを勝ったマルシュロレーヌや、マーキュリーC勝ち馬バーデンヴァイラーをもこの世に送った。

キョウエイマーチが産んだ牝馬はヴィートマルシェ1頭。それでもきっちり系統は受け継がれる。サンブルエミューズも合わせ、素晴らしい繁殖牝馬だ。この一族はここまでみんなキャロットファームが所有。だからキョウエイマーチ牝系に魅了された馬主さんは多い。

またキョウエイマーチもヴィートマルシェもサンブルエミューズもみんなデビューした産駒の交配相手(つまり父)がバラバラで、いわゆる全きょうだいがいない。それでもナミュールとラヴェルは戦歴や適性に共通点がある。一方でダイワメジャー産駒の母サンブルエミューズとの共通点は少ない印象がある。それはその祖キョウエイマーチにも言える。ここまで瞬発力に長けた馬が出現するとは、キョウエイマーチの現役時代を知る者としては想像しがたい。底知れぬ魅力がある。

そもそもナミュールとラヴェルは人間でいえば年子。連続で重賞を勝ち、クラシック戦線に乗ること自体も多いようで少ない。姉は活躍したが、その下は……なんてことはよくあること。血統の難しさはそういうところにあったりもする。姉妹の活躍はこの牝系の未来を約束する。


よほど決め手がないと逆転できない流れ

さてレースを主導したのはアリスヴェリテ。前走野路菊Sでは2000m戦で前後半1000m1.01.4-58.8、最後の600m33.8(自身は34.1)を演出。ファントムシーフには完敗だったが、3着フラッシングレートには6馬身差。牡馬相手に2000mで力上位の戦歴。この馬が逃げてペースを作ったことがポイントのひとつだった。

マイル戦の今回は前後半800m47.8-46.0。前走同様ゆったりした運びだったが、最後の600m11.4-11.0-11.4で33.8。逃げた自身は残れても、後ろの先行馬はそれなりにひと脚使えないと上位に入れない。絶妙な流れだった。その分、決め脚比べで上回れれば、後ろからでも届く。4コーナー9番手から外を回し、末脚全開のラヴェルは上がり600m33.0。アリスヴェリテにとってラヴェルや2着リバティアイランドが計算の上をいく末脚を繰り出したといったところ。1、2着のスケールが際立った競馬だった。

この開催3週目まで、東京芝は上がり最速を出した馬が【22-9-3-12】勝率47.8%、複勝率73.9%。ペースを問わず最後は決め脚比べのレースが多く、スローだから残れるわけでもない。このレースもそれを象徴する競馬。

その意味では、上がり2位33.3で2着だったリバティアイランドは惜しかった。勝ったラヴェルとはおそらく互角の末脚。今回は内に入って、さばきに手間取り、追い出しを待つ場面があった。この一瞬のできごとが結果をわけた。とはいえ賞金加算には成功。まずは焦らずに今後のプランを練ることが可能になった。2歳戦線で実力の指標になるアリスヴェリテに先着したのは事実。GⅠではきっとラヴェルに人気面は逆転されるだろうが、結果はわからない。

2022年アルテミスSのレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』(星海社新書)に寄稿。



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