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【秋華賞】悲願成就! スタニングローズに見る薔薇一族の道のりと生産者の執念、そして進化

2022/10/17 10:33
勝木淳
2022年秋華賞のレース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

薔薇一族の歴史と特徴

今週も競馬が紡ぐ物語が止まらない。秋競馬はドラマチックなものであり、まだまだ続く。ぜひ堪能したい。秋華賞はスタニングローズが勝利、スターズオンアースの三冠を阻んだ。真っ先に思い浮かべるのは薔薇一族という言葉。それはスタニングローズの血統表にみえる4代母ローザネイがフランスから輸入され、はじまった。

初仔の牝馬ロゼカラーは428キロでデビュー。8戦2勝、オークス4着、秋華賞は後方から追い込むもファビラスラフインの3着だった。父サンデーサイレンスの弟がロサード。デビューは406キロ。最終的には430キロ台まで成長したが、姉と同じく追い込み一手で、重賞5勝もGⅠは未勝利に終わった。ロゼカラーの初仔が牝馬ローズバド。426キロでデビュー、最後のレースも428キロだった。ローズバドも研ぎ澄まされた瞬発力が武器の追い込み型。秋華賞はテイエムオーシャンを捕まえられず、3/4馬身及ばず2着だった。

やがてローズバドがキングカメハメハとの間にもうけたローズキングダムは、456キロと薔薇一族としては大きな体で初陣を飾り、3戦3勝で朝日杯FSを制し、一族にGⅠ勝利をプレゼントした。

ローズキングダムより2歳年上、ローズバドの初仔がスタニングローズの母ローザブランカ。その父はクロフネ。瞬発力身上の薔薇一族は反面、体が小さく、馬群に入る競馬では持ち味を発揮できないところがある。牡馬は徐々に体の大きな産駒も出てきたが、牝馬は小さい馬が目立つ。ロゼカラーもローズバドも能力の片鱗は見せつつも、GⅠに届かなった。薔薇一族に足りないものはなにか。ローズバドの交配相手が雄大な馬体のキングカメハメハやシンボリクリスエス、クロフネだったことからノーザンFの意図は想像できる。

クロフネとキングカメハメハがもたらした層の厚さ

480キロでデビューしたスタニングローズは生産者の模索が実を結んだ1頭。スケールを感じる馬体は競走で強さを生み出し、好位で流れに乗るという理想的な競馬を実現した。心技体とは横綱の理想像。体が心の強さを補い、器用さという技を磨く。秋華賞のスタニングローズはそんな競馬を表現した。アートハウスの背後に忍びこみ、緩めの流れを味方に4コーナーで外から動き、ライバルたちの追撃を封じる。薔薇一族らしからぬ競馬は一族の進化と生産者の執念を示す。

スタニングローズに影響を与えた1頭が母の父クロフネ。昨年母の父キングヘイローが活躍したように90年代後半から2000年代前半の競馬界を支えた名馬たちが今も血統表の奥に見える。それはスタニングローズの父キングカメハメハも同じ。最終世代からGⅠ馬を出すこと自体が偉大さのあらわれだ。クロフネと同じくサンデーサイレンスを持たないキングカメハメハがディープインパクトと双璧を成したからこそ、日本の競馬は一段高みに進め、かつ分厚い層を作ることに成功した。

数字以上にハイレベル

そのキングカメハメハの後継ドゥラメンテは3着に敗れた二冠牝馬スターズオンアースの父。ここにも層の分厚さがみえる。スタートで後手を踏み、後方からの競馬を余儀なくされ、4コーナーもインで包まれる絶体絶命の形。これを直線だけで3着まで押し上げた。間違いなく実力は世代最上位だ。

それにしてもルメール騎手は恐ろしい。三冠がかかった競馬で出遅れたにもかかわらず、無理に挽回することなく、冷静に後方追走。包まれる形でも動じず、馬の力を信頼し、末脚を引き出した。流れが落ち着いてしまい、スタニングローズの流れになってしまったゆえの3着だが、ペースが流れていれば、差し切りまであったのではないか。上がり最速33.5にその可能性を感じた。

2着はスタニングローズと同じ高野友和厩舎のナミュール。高野師は今春、馬体維持が難しく、攻められないもどかしさを感じていた。それを振り払うかのように秋は自信をもってナミュールを送り出した。馬体重プラス20キロは最高の調整ができたからこその数字だ。中団外目を追走、小細工なしの末脚を最大限に引き出す競馬は負けて強し。春は先着できなかったスターズオンアースに一旦、前に出られながらも最後に差しかえした。今後も楽しみだ。

レースは中盤600~1200mで12.3-11.7-12.3とラップがアップダウンする先行勢には難しい流れ。後半800m11.8-11.5-11.5-11.8と急坂をモロともしないラップ構成で、前後半1000m59.7-58.9という数字以上にハイレベル。秋華賞2着だった母パールコードの雪辱を期した4番人気5着アートハウス、またも放馬のアクシデントがあった12番人気7着サウンドビバーチェなどの先行勢が次走あっさり結果を出す可能性はある。いずれにしても前走秋華賞という戦歴にはしばらく注目したい。

2022年秋華賞のレース展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。



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