新馬戦で上がり3ハロン32秒台で1位だった馬たちのその後は? 今年7月デビューの注目2歳馬3頭も紹介

高橋楓

新馬戦上がり3F1位×32.9秒以下を記録した馬,ⒸSPAIA

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新馬戦で上がり3ハロン1位×32.9秒以下の馬たち

「届くか、届くか、届くか、届くか、届いた、届いた! 差し切り勝ち、凄い脚だ!」

今から約22年前の2000年11月12日GⅢ根岸ステークス。ブロードアピールがダートでは驚異の上がり3ハロン34.3秒という奇跡のような末脚で殿一気を決めた。この時の衝撃は今でも忘れることが出来ない。良馬場のダート1200m戦で上がり3ハロン34.3秒以下を記録し勝ったことがある馬は1984年以降、ブロードアピールと2010年のシルクフォーチュンだけだ。

末脚と言えば、7月30日にリバティアイランドがJRA史上最速タイとなる上がり3ハロン31.4秒を記録し話題になった。そこで今回は、新馬戦で32秒台の末脚を使った馬たちが、その後どのような成績を残しているのか調べてみたい。

新馬戦で上がり3ハロン1位×32.9秒以下を記録した馬の成績,ⒸSPAIA


今回は2017年から2021年までの5年間に行われた夏競馬(6~8月)の新馬戦で「上がり3ハロン1位かつ32.9秒以下」のタイムを記録した馬を調べてみた。行われたレース数は543。該当したのは下記の9頭だ。

2017年7月16日 ワグネリアン 1着 32.6秒(中京・芝2000m)
2017年8月5日 ウラヌスチャーム 1着 32.0秒(新潟・芝1600m)
2017年8月6日 ロックディスタウン 1着 32.5秒(新潟・芝1800m)
2017年8月20日 ラヴァクール 2着 32.9秒(新潟・芝1600m)
2019年7月27日 ラインオブダンス 5着 32.5秒(新潟・芝1600m)
2019年8月3日 ウーマンズハート 1着 32.0秒(新潟・芝1600m)
2020年7月25日 ギャリエノワール 2着 32.5秒(新潟・芝1600m)
2021年8月1日 スターズオンアース 2着 32.6秒(新潟・芝1800m)
2021年8月8日 ステルナティーア 1着 32.7秒(新潟・芝1600m)

9頭中5頭が1着、3頭が2着。記録されたコースは当然ながら全て芝コース。新潟1600m戦が6回、1800戦が2回、中京2000m戦が1回となっている。父親はドゥラメンテ産駒とハーツクライ産駒が2頭ずつで、スピード馬としてすぐに頭に浮かぶロードカナロア産駒とダイワメジャー産駒は1頭ずつとなっている。

9頭の次走成績を振り返る

新馬戦で上がり3ハロン1位×32.9秒を記録した馬の次走成績,ⒸSPAIA


次に9頭の次走成績を振り返ってみたい。

ワグネリアン 野路菊S(OP) 1着
ウラヌスチャーム アルテミスS(GⅢ)10着
ロックディスタウン 札幌2歳S(GⅢ)1着
ラヴァクール 3歳未勝利 5着
ラインオブダンス 2歳未勝利 3着
ウーマンズハート 新潟2歳S(GⅢ)1着
ギャリエノワール 3歳未勝利 3着
スターズオンアース 2歳未勝利 1着
ステルナティーア サウジアラビアRC(GⅢ)2着

意外なことに2戦連続で上がり1位を記録した馬はスターズオンアース、ウーマンズハート、ラインオブダンスの3頭しかいない。ワグネリアンは次走の野路菊Sでも33.0秒の末脚を使ったがメンバー中2位のタイムだった。

そう考えると2000年代にスプリントからマイル戦で活躍したデュランダルという馬は本当に凄かったと痛感する。デビュー以降国内17戦中15戦で上がり3ハロン1位。タイムは展開や位置取りで変わってくるが、常に安定した末脚を繰り出せるのはやはり才能が成せる業と言える。

ワグネリアンは日本ダービー馬に! 9頭のその後

新馬戦で上がり3ハロン1位×32.9秒を記録した馬の通算成績,ⒸSPAIA


最後に9頭がその後、どのような競走成績を歩んでいるか見てみたい。

ワグネリアン 17戦5勝(2018年 日本ダービー)
ウラヌスチャーム 25戦6勝(2020年 新潟牝馬S)
ロックディスタウン 6戦2勝(2017年 札幌2歳S)
ラヴァクール 9戦0勝
ラインオブダンス 18戦2勝
ウーマンズハート 8戦2勝(2019年 新潟2歳S)
ギャリエノワール 7戦1勝
スターズオンアース 7戦3勝(2022年 桜花賞・オークス)
ステルナティーア 5戦1勝

9頭中5頭がオープン以上のレースを制し、ワグネリアンは2018年の日本ダービーを制覇。スターズオンアースは今年の春に牝馬二冠を達成した。2頭の共通点はデビュー戦で1800m以上のレースに出走し、上がり3ハロン32秒台の脚を使っていた点と、2戦目に勝利をあげていた点だ。

新馬戦上がり3F1位×32.9秒以下を記録した馬の通算成績,ⒸSPAIA

今年7月に行われた新馬戦で見つけた期待馬3頭

今年も6月4日から新馬戦がスタート。まだ2ヶ月しか経過していないものの、すでに上がり3ハロン32.9秒以下を記録する馬が複数頭出ている。今回はそんな中から特注の3頭を紹介する。

まず1頭目は、7月31日新潟1800mの新馬戦を勝ち上がったダノントルネード。本馬は2021年セレクトセールで1億8,150万円で取引された。母はオーストラリアの3歳牝馬チャンピオンのシーウィルレインという期待馬だ。

このレースは同じくセレクトセールで2億4,200万円で取引されたシャザーンも出走。注目となった一戦を叩き合いの末、ダノントルネードが制した。前半1000mが65.9秒という超スローペースのなか、本馬は上がり3ハロン32.4秒と素晴らしい瞬発力を見せた。先に紹介したクラシックホース2頭に続けるか期待が高まる。

2頭目は、話題に上がっていたリバティアイランド。7月30日に行われた新潟1600mの新馬戦で上がり3ハロン31.4秒を記録。1984年以降、JRAのレースで過去に上がり3ハロン31.5秒以下を記録したのはわずか3例。しかも全て新潟の直線1000m競走でのことだ。直線競馬以外では31.8秒が1回、31.9秒が6回あるのみ。しかも全て古馬のレースで、オープンクラス以上が多くを占めている。それだけにリバティアイランドの上がり3ハロン31.4秒が驚異的なことだと分かる。次走は要注目だ。

最後にシーズンリッチにも注目しておきたい。デビュー戦はダノントルネードと同じレース。後方待機から上がり3ハロン32.4秒で1位タイの脚を使いながら、前が止まらず4着。過去には初戦で敗れながら2戦目で勝ち上がったスターズオンアースが牝馬二冠を達成している。次走であっさり勝ち上がるようなら、来春のクラシックに乗ってきても不思議ない素材と睨んでいる。

上がりの脚だけで馬の能力は計れない。しかし、近5年間だけでもデビュー戦でキラリと光る走りを見せた馬は9頭中5頭がオープン以上で活躍。そのうち2頭はクラシックホースとなった。引き続き8月の新馬戦からも目が離せない。

《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレース、競輪の記事を中心に執筆している。

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