【CBC賞】斤量も馬場も味方につけたテイエムスパーダ だが勝利を呼びこんだのは今村聖奈騎手の冷静さ!

勝木淳

2022年CBC賞、レース回顧

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史上5人目の重賞初騎乗初勝利

女性騎手という言葉がいまどき普通に使われることに違和感を覚える。騎手の世界はジェンダーレス。男性も女性も同じ規定で管理されるからこそ性別は不問。女性騎手という言葉はなくていい。ところが19年、女性騎手に2キロの減量特典が与えられたことで、女性騎手というカテゴリーが固定化され、この言葉を使わざるを得なくなった。いつかこの制度が見直されるぐらい、女性の騎手がたくさん活躍する日を待ちたい。

制度改正のきっかけになったのは藤田菜七子騎手。彼女の登場、活躍により、騎手を志す女性は増えているという。少子化社会は生産労働人口の減少という未来と等しく、それはスポーツの世界も同じ。どの競技も未来の担い手探しに躍起だ。総数である分母が減るわけだから、担い手にあたる分子もは当然小さくなる。縮む社会で生き残るには、夢と魅力が必須になる。そういった意味で藤田菜七子騎手による騎手志望の女性を増やしたという貢献は大きい。

今村聖奈騎手も今年デビューした女性の騎手。父・今村康成騎手はユウフヨウホウで2001年の中山大障害を勝っている。康成騎手の同期といえば武豊騎手の弟・武幸四郎元騎手(現調教師)で、デビュー週に重賞初騎乗初制覇を遂げている。

幸四郎調教師以外に重賞初騎乗初制覇を達成したのは菊沢隆仁元騎手(現調教助手)、池添謙一騎手、宮崎北斗騎手の3人。CBC賞をテイエムスパーダで勝利した今村聖奈騎手は5人目となる。歴代でたった5人しかいない記録は偉業といっていい。

ハンデの恩恵とは

ハンデ重賞で48キロという斤量は最近少なく、18年CBC賞トシザキミ以来なかった。さらに勝利となると1986年以降では、01年カブトヤマ記念タフネススター(酒井学騎手)、08年マーメイドSトーホウシャイン(高野容輔騎手)の2例しかなく、テイエムスパーダは3例目となった。

前の二つは芝1800mと芝2000m戦であり、短距離戦での達成ははじめて。これはあくまで私の持論だが、斤量の恩恵は短距離より中長距離で大きく、スピードよりスタミナの残存具合に影響する。1200mでの達成は注目したい。なぜなら1200mのハンデ重賞でこれまで48キロは【0-0-0-6】。全て10着以下だったからだ。

もちろんテイエムスパーダにも斤量の恩恵はあった。2着タイセイビジョンは57キロ、その差9キロが3馬身半差に影響を与えたことは事実。また馬場も軽く、1勝クラスで小倉芝2000mのコースレコードが更新される絶好の状態。勝ち時計1.05.8はこの恩恵に預かったものでもある。だが、斤量を最大限に活かしたのは前半600mの11.4-10.0-10.4、31.8より、後半600m10.9-11.1-12.0、34.0だったのではないか。

前半600m31.8は、芝1200mでは07年バーデンバーデンCでテイエムチュラサンも記録した。そのレースの後半600mは35.5でテイエムチュラサンは10着に敗れ、勝ったのは当時3歳牝馬49キロのクーヴェルチュール。3番手からの抜け出しだった。テイエムチュラサンは後半で失速、最後の200mは12.7と崩れ、上がり3ハロン36.3だった。

テイエムスパーダは馬場に助けられながらも、後半600m34.0。さすがに失速ラップだったが、その度合いを最小限にとどめた。このラスト12.0こそ、斤量の効果。スタミナを残せた。

今村聖奈騎手の冷静な判断

ではこの失速を抑えた要因は斤量だけかといえば違う。今村聖奈騎手のレースの入り、道中の走らせ加減が見事だったことも大きい。テイエムスパーダは2勝クラス勝ち直後であり、いくら48キロと軽量であっても、短距離のOP馬相手ではスタートで見劣る。実際、スタートはファストフォースら外枠勢が速かった。

今村聖奈騎手はテイエムスパーダのダッシュを効かせ、内枠を活かして、一目散に内ラチ沿いに馬を誘った。ここを先にとれば、ハナに立ちやすい。一方、外枠勢は競り合って、テイエムスパーダの前に出ないとならない。それだと高速馬場の小倉では極限に近い脚を求められてしまう。だから外枠勢は引き、テイエムスパーダはハナをとれた。

そこから今村聖奈騎手は押しもせず、抑えもせず、馬のリズムに合わせる騎乗を心掛け、その呼吸を整えた。ハナに立った時点でペースが速いからと緩急をつけたくなるところだが、それをしないのだから度胸がある。呼吸もリズムもマイペースを刻めたからこそ、テイエムスパーダは最後まで速いペースでもスタミナを残せた。

ペースが速いからバテる、遅いから残るも見解としては正しいが、本当のところはいかに呼吸を整えて走れたかどうかではないか。道中のペースが遅くても折り合えなければ馬は最後にバテる。こんなに落ち着いた騎乗をデビュー5カ月でできる新人騎手はそうはいない。今村聖奈騎手にあこがれて騎手を目指す子どもたちが増えれば、競馬の未来は明るい。

これでサマースプリントシリーズは函館SSナムラクレアに続き、3歳勢が連勝。このレース3着も格上挑戦の3歳アネゴハダなので、短距離路線の3歳はハイレベルだ。いやいや3歳は斤量が軽いからでしょと言いたくなるが、3歳の軽量は今年に限定したことではなく、毎年のこと。6、7月から結果を残せる年はそうはない。

2022年CBC賞、レース通過順


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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