【函館SS】軽量50キロの恩恵いかしたナムラクレアの強さ 次走スプリント戦線で注目したい馬は?

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浜中俊騎手、50キロ騎乗は14年ぶり
サマースプリントシリーズ開幕戦にして、夏を告げる重賞・函館スプリントSは3歳牝馬ナムラクレアが2着ジュビリーヘッドに2馬身半差をつけ快勝。前走桜花賞3着馬が斤量50キロでGⅢ出走はもはや反則レベルだが、これがルール。ここを選択した陣営の勝利でもある。
浜中俊騎手が50キロ以下でレースに騎乗するのは08年小倉記念ウイントリガー49キロ以来のこと。基本的に騎乗しない斤量にあえて挑んだ。騎手は仕事柄、体脂肪率が非常に低い。単に2、3キロダイエットするのとは訳がちがう。ここに向けて色々と調整は大変だったのではないか。それでも騎乗するという意欲と浜中俊騎手のナムラクレアへの高い評価を感じる。
浜中騎手は昨夏小倉2歳Sでナムラクレアに初騎乗。当日乗り替わりで、鮮やかに差し切り勝ち。その後は距離を延ばしながらファンタジーS2着、阪神JF5着、フィリーズレビュー2着、桜花賞3着。世代トップクラスのメンバーと差のない戦いを繰り広げた。特に桜花賞は先を行くウォーターナビレラにうまくついていき、見せ場たっぷり。
小倉2歳Sで中団から差してきたように、元来レースセンスが高い。だからこそ距離延長で難しい面を見せることなく、好位から手堅い競馬ができた。これがナムラクレアの最大の武器であり、浜中騎手が惚れこむ部分だろう。
勝因は斤量差だけではなく
そして春のクラシックを戦い終え、陣営は早々に短距離路線への転換を表明。マイル前後で培ったレースセンスを適距離で存分に発揮するという算段は見事に的中した。
外目の枠に快速馬ビアンフェが入った。いつもやる気満々の巨漢馬ビアンフェはスタートがそこまで速くなく、二の足の差で先手を奪うタイプ。札幌で行われた昨年の覇者であり、ハナに行けばそうは崩れない。つまりビアンフェはライバルにとって格好の目標にもなる。案の定、ナムラクレアも外枠のレイハリアも好発からみんなビアンフェが来るのを待った。ナムラクレアのこの余裕はスプリント適性の証であり、レースセンスの高さでもある。
みんなが待つなかで果敢に攻めたビアンフェが作るペースは前半600m32.8。好天で幕を開けた函館の芝は時計が出る状態だったので、それほど苛烈なペースでもなく、この時点で先行勢に分があった。
4コーナーでビアンフェに早めに並ぶレイハリア。この2頭が押しながら直線に向かうなか、ナムラクレアは馬なりで対応。外からねじ伏せるように交わしにかかる。この手応えの違いは正直、斤量の差もあったのではないか。ビアンフェとは7キロ、レイハリアとは4キロ差。ナムラクレアの力を割り引くというより、ビアンフェとレイハリアの評価を落としすぎないほうがいい。
函館の短い直線262.1mでナムラクレアが早々に抜け出してしまったので、2着以下の争いは大混戦。2着ジュビリーヘッドは春の中山で3勝クラスを勝ったばかりの昇級馬。勝負所の4コーナーで一旦ナムラクレアに離されながらも、手応えのわりに直線はしぶとく伸びた。今回で函館札幌の芝【1-2-0-0】の洋芝巧者。ここを経験してオープンの流れに慣れれば、今夏北海道シリーズでまだまだ重賞制覇のチャンスはある。
次走注意はキャプテンドレイク
さらに混戦だった3着争いを制したのは13番人気タイセイアベニール。4コーナー14番手からインを追い込んだ。これは馬場読み名人・鮫島克駿騎手らしいインベタ騎乗。開幕週の絶好馬場、どこも荒れていないなら、距離ロスがない最内がベスト。しかし、みんなそこを狙うので混雑は避けられない。その最内を巧みにさばいてきた。
42戦目の7歳馬タイセイアベニールもそれに応えた。進路がなく、追い出しを待たされる場面もあり、2着ジュビリーヘッドとは差はない。さすがに高速決着では厳しいものの、1分8秒台の決着なら重賞でも出番はある。
3着以下は11着ファーストフォリオまで一団でゴール。次走で流れが変われば巻き返す馬は多数いそうで、チェックしておきたい。5着キャプテンドレイクはこれまでより位置が下がり、3、4コーナーで進路がなく、踏み込み損ねた印象。直線でも内へ外へと切り替えながらも掲示板まできた。連勝時のように中団で流れに乗れれば一変する。
函館SSを斤量50キロで勝利したのは16年ソルヴェイグ、17年ジューヌエコールに続く3頭目。2頭は次走斤量52キロでそれぞれキーンランドC4着、スワンS12着と敗れた。この2頭は桜花賞大敗で、ナムラクレアの方が実績は上回っているが、果たして秋の大一番まで駆けあがれるか、次走に注目したい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
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