【エプソムC】モーリス産駒の本領発揮! 持続力勝負で快勝のノースブリッジは上を目指せる器

勝木淳

2022年エプソムC回顧,ⒸSPAIA

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モーリス産駒の特徴

エリザベス女王即位70周年を祝うプラチナ・ジュビリーが英国で盛大に行われた。英ダービーもそのひとつ。その舞台であるエプソム競馬場と東京競馬場が提携を結んだことを記念して創設されたのが英ダービーの翌週、6月2週目に行われるエプソムC。こちらも今年はエリザベス女王即位70周年記念という副題がついた。

春のGⅠ戦線はファン投票選出の宝塚記念を残すのみ。ひと段落といった雰囲気は強く、エプソムCには重賞戦線で思うような結果を残せなかった馬たちが多くそろう。梅雨時の重賞ではあるが、斤量差がない別定戦、紛れにくい東京芝1800mと波乱の要素が少なく、例年、重賞戦線からここに立ち寄る馬たちが結果を残すレースでもある。

しかし今年はザダルやダーリントンホール、シャドウディーヴァ、タイムトゥヘヴンといった重賞常連組を抑え、前走3勝クラスを勝ったノースブリッジが勝利、重賞初制覇を飾った。夏は上がり馬とは言うが、エプソムCで昇級初戦の馬が勝つのは珍しく、前走が3勝クラスだった馬の勝利は96年マーベラスサンデー、03年マイネルアムンゼンに次ぐ3頭目、19年ぶりの記録だ。

ノースブリッジはモーリス産駒。2歳時は新馬、葉牡丹賞と連勝。順調な滑り出しながら、その後は休養が長く、青葉賞13着でクラシックへの道は閉ざされた。仕切り直しのラジオNIKKEI賞3着、セントライト記念10着で菊花賞にも進めなかった。善戦しながらも、あと一歩足りないという歯がゆさは若いモーリス産駒の典型だが、これぞ4歳で覚醒した父モーリスの血。3歳秋、仕切り直してからじわじわと力をつけ、条件クラスを駆けあがった。

5連勝で金鯱賞を制し、大阪杯で2番人気に支持されたジャックドールもモーリス産駒。ノースブリッジも同馬と似た戦歴を辿る可能性があり、エプソムCはその途中経過かもしれない。2、3歳前半は瞬発力でディープインパクト産駒に代表されるサンデー系に敵わなくても、それを補うだけの持続力を身につけると、手がつけられなくなる。モーリス産駒特有の成長曲線は馬券を買う側も味方につけたい。

ハイレベルな持続力勝負

当日の東京競馬場は昼間に突然の雷雨に見舞われるなど梅雨らしい不安定な空。開催後半の芝は内側がかなり悪く、タフな状態になりつつあった。逃げ宣言のトーラスジェミニは20年エプソムC18番人気3着の再現を狙った。もっと雨が降ればそれも実現できたかもしれない。トーラスジェミニにとっては馬場がちょっと軽かったか。

果敢に離し気味に逃げ、12.7-11.6-11.9-11.9-11.6。前半1000m通過59.7は緩むところがなく、記録以上にタフ。勝ったノースブリッジは好発からトーラスジェミニを先に行かせ、3番手をキープ。内側を避けて走らせたため、前の2頭の後ろに入らず、前に馬がいない状態。ギリギリなだめたといった印象も、前に壁がない状態での我慢は今後に生きる経験だった。

またトーラスジェミニが作る緩まないラップもモーリス産駒ノースブリッジには好都合。直線残り400mまで馬なりでついていくあたり、こういった持続力勝負が合う証拠だ。後半800mは11.9-11.5-11.3-12.3。極端な上昇はないものの、じわじわと上昇していき、最後の200mで時計を要し、後続が押し寄せてもしのいだノースブリッジ。この高い持続力はもっと上のレベルのレースでこそ生きるのではないか。

持続力ラップになったからこそ、外から伸びたガロアクリークが2着に入った。好走はほぼ中山に限定される馬で、昨年のこのレースも12着。東京での好走は新馬以来という完全なる持続力型。ギアチェンジが苦手で瞬発力勝負では劣るこの馬の好走は、いかにタイトな流れだったかを示す。今回の2着は再浮上のきっかけになるかもしれないが、今後も東京など軽めの競馬場では過信できない。

3着ダーリントンホールも同じ。こちらもずっと同じぐらいのラップが続く流れが理想で、今回は流れが向いた。ガロアクリーク同様に好走適性が狭いので、次走は注意したい。

4着ジャスティンカフェも昇級馬。前走に続き、道中後方追走。後ろから行って状態のよくないイン寄りに進路をとった。これは前の馬たちがみんな外に行ってしまったため、さらに外へとなると、相当ロスしてしまう。効率よく攻めるためには進路を馬場の真ん中よりインに取るしかなかった。

4着は通った進路の差であり、ガロアクリークとは反対で、こちらは広いコース、軽い馬場の瞬発力勝負に向くタイプ。それだけにこの流れで4着確保は重賞通用のメドを立てたといっていい。夏の新潟で見てみたい。

2022年エプソムC回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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