【日本ダービー】美しすぎる名騎乗、武豊騎手ダービー6勝目 夢の途上に現れたヒーロー・ドウデュースの物語

勝木淳

2022年日本ダービー回顧,ⒸSPAIA

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マイルと2400mのGⅠを勝ったドウデュース

2019年生まれサラブレッド7,522頭の頂点を決める競馬の祭典、日本ダービーはドウデュースが勝利を飾った。武豊騎手は6度目のダービー制覇。管理する友道康夫調教師は3勝目。そして馬主のキーファーズは念願のダービーを武豊騎手と獲得、夢をひとつ叶えた。

「武豊騎手と凱旋門賞を勝ちたい」

キーファーズ代表松島正昭氏はそう夢を掲げてきた。クラブ馬主全盛の時代、馬主の夢は語られにくくなった。そんな時代だからこそ、松島氏の夢は注目を集めた。良血馬を購入するにとどまらず、海外のセリで馬を買い、フランスで馬主にもなった。あらゆる手立てのすべては「武豊騎手と凱旋門賞を勝つ」という目標を達成するためだ。そこまで人を惚れこませる武豊騎手の魅力は今さら語るまでもない。人と人のつながりの先に馬がいる。ドウデュースはそんな物語の途上に現れたヒーローだ。

朝日杯FSを勝ち、日本ダービーを制したのは94年ナリタブライアン以来。適性判断を重視する昨今では、クラシックを意識する馬は東京スポーツ杯2歳SかホープフルSに向かう。だからこそ、マイルと2400mのGⅠ制覇はドウデュースが秘める総合力の圧倒的な高さを示す。スピード、折り合い、ギアチェンジ、いずれが欠けてもこの記録はなし得なかった。

皐月賞の伏線

友道師と武豊騎手は松島氏にダービーを。これを目標に3歳シーズンに入った。この目標を叶えれば、凱旋門賞が見えてくる。ダービーを勝つためにどんな手段がいいのか。そこは5頭のダービー馬に騎乗した武豊騎手と2頭のダービー馬を管理してきた友道師。経験が違う。皐月賞ではあえて中山で勝つためのプランを選択しなかったのではないか。

スローペースを4コーナー14番手、それも大外強襲は無理に勝ちにいかなかった結果。広いところを伸び伸びと走らせ、ゴール板まで末脚をきっちり伸ばした。これが皐月賞での伏線。ダービーの残り400m。武豊騎手がスパートの合図を送った途端、ドウデュースが弾けるように伸びたのはその答えでもあった。経験に裏打ちされた目標達成のための手立ての選択、これは武豊騎手と友道師だからこそ実行できたこと。そう考えると、圧倒的なダービーだったとさえ感じる。

未来につながる3着アスクビクターモア

さてレースは皐月賞で逃げられなかったデシエルトが外枠からきっちり主張。内枠伏兵陣では皐月賞で逃げたアスクビクターモアが2番手、毎日杯を逃げ切ったピースオブエイト、逃げてスプリングSを勝ったビーアストニッシドがその背後に。

さらに厳しいラップだった青葉賞を勝ち抜いたプラダリアが先行勢を見る位置につけ、プリンシパルSで最後の切符を手に入れたセイウンハーデスと青葉賞2着ロードレゼルがさらに続き、中団を引っ張る形。最内に潜り込んだアスクワイルドモアは京都新聞杯の再現を狙い、その外にGⅠ・2着の実績馬ジャスティンパレスがつけた。

中団馬群の後ろは内にきさらぎ賞Vマテンロウレオ、その背後に京成杯を勝ったオニャンコポン、その外に皐月賞で枠に泣いた1番人気ダノンベルーガと皐月賞馬ジオグリフ。ダノンベルーガに上手くポジションを奪われたジオグリフはやや外すぎたか、前に馬がいない状態で2コーナーを出た。この2頭を壁に、つかず離れずの距離感をとったドウデュース。スタートから周囲のライバルの動きを伺い、スマートに最高のポジションにおさまった。この時点で勝負あった。

皐月賞よりはよかったものの、スタートでやや遅れたホープフルS勝ち馬キラーアビリティはその後ろ。この春は少しずつ歯車が狂った印象。秋の立て直しを待ちたい。ドウデュースをマークする皐月賞2着イクイノックス。スタートで遅れたNHKマイルC2着マテンロウオリオンと抽選を突破したジャスティンロックは末脚勝負にかけた。

1000m通過58.9、前後半1200m1.10.6-1.11.3はダービーにふさわしい厳しい流れ。残り800mからペース上昇、11.8-11.5-11.7-12.0とアスクビクターモアが覚悟を決めて後ろを離しにかかる。先行勢には辛い流れのなか、苦しくなりながらも最後まで大きくバテることなく踏ん張った3着アスクビクターモアは恐ろしい。無事ならタイトルホルダーの後を追う可能性を感じさせた。

わずかな動きで勝機を逸したイクイノックス、ダノンベルーガ、ジオグリフ

ペースが上がった残り800mからジオグリフ、ダノンベルーガが進路を確保しようと動き出す。最後の直線、ダノンベルーガは進路を失いかけるも、ジャスティンパレスが内に行き、進路が開ける。そこに併せるジオグリフ。福永祐一騎手は観衆0人、約4000人の苦しい時期の日本ダービーを連勝、その価値を保ってきた。だからこそ、約6万超の祝福を受けてほしかった。だが、無情にも残り200mでジオグリフの末脚は鈍った。2コーナーでリズムをわずかに乱した分だろう。

できうる限りの競馬で抜け出しにかかる2頭の外から来たドウデュースは道中、馬群の切れ目にいただけにきれいに外に進路をとり、2頭を目標にスパート。後ろにいたイクイノックスはジオグリフとドウデュースの間を狙うもあきらめ、外に切りかえて追撃。その分、ドウデュースに先に仕掛けられてしまった。父キタサンブラックは3歳秋以降に本格化。キャリアたった3戦、まだまだ強くなる。

ライバルたちがちょっとした動きで勝機を逃した一方、ドウデュースは序盤から最後まで完璧。進路を失う部分もなく、1度もブレーキをかけることもなく、ライバルを射程にとらえつつ、タイミングを計って差し脚を伸ばす。最後まで実に美しい競馬だった。

武豊騎手と凱旋門賞を獲りたい松島氏、日本ダービーを勝ち、ひとつ恩返しをしたい武豊騎手と友道師。その物語を6万超の観衆と共有できた時間はさぞ幸せだったにちがいない。

競馬はどうしても馬券が間にあるので、観衆との共有が難しい面もある。だが、第89回日本ダービーのゴール後は馬券を忘れ、みんなで感動を共有できた名場面だった。さあ夢の凱旋門賞へ。その第一幕がこの日、終わった。

2022年日本ダービー回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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