若き天才と熟練の名手、ラスト1完歩の逆転劇 2021年日本ダービー馬・シャフリヤール

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日本ダービーまであと1日
いよいよ2022年の日本ダービーまで残り1日。過去10年の日本ダービーを一戦ずつ振り返ってきたこの連載も最終回。記憶に新しい昨年を取り上げていく。
「冷静と情熱のあいだ」
騎手という職業は、アスリートの中では比較的、選手生命が長い。50代のベテラン騎手と、18歳でデビューしたての若手騎手が同じレースで1着を争う。だからこそ生まれるドラマもある。
2021年日本ダービー、話題は1頭の無敗馬と1人の若手ジョッキーに集まっていた。無傷4連勝で皐月賞を圧勝したエフフォーリア、手綱をとるのは22歳の横山武史騎手。その皐月賞でGⅠ初制覇を成し遂げてから、わずか42日。ダービー1番人気、単勝1.7倍の重圧とともに、千載一遇の好機を迎えることとなった。
2番人気は牝馬のサトノレイナス、3番人気はグレートマジシャン、4番人気は毎日杯で日本レコードを更新したシャフリヤール。以下、青葉賞馬ワンダフルタウン、皐月賞5着ヨーホーレイクと続く。
ゲートを出ると、横山武騎手は臆することなく先行。内の3番手という、理想的なはずのポジションで最初のコーナーを通過していった。
しかし、この年は少々勝手が違った。3ハロン目から12.2-13.0-12.3と一気にペースが緩み、外の2番手につけていたタイトルホルダーが手綱を抑えながら前に入ってくる。動けない1番人気馬を尻目に、スローを察した他馬がポジションを上げて、エフフォーリアは3コーナーを迎えた時点で内の9番手まで後退する。
劣勢に立たされたかに見えたエフフォーリアだが、直線入り口で前を行く各馬が内外にバラけたこともあり、すかさず追い出しを開始。皐月賞でも見せた、一瞬で抜け出す反応はこの馬の長所。残り300m地点で早々と先頭に立つ。……いや、立ってしまった、というべきかもしれない。結果論に過ぎないが、レースは残り1000m地点から1ハロン11秒台のラップを刻む、ロングスパート戦。先に動いた馬は苦しい。
勢いが鈍るエフフォーリアを標的に、迫ってきたのがシャフリヤール。直線は前が壁になるシーンもありながら、丁寧に馬群を捌いて追い上げ、最後の最後、まさに最後の一完歩でハナ差だけとらえての勝利だった。
シャフリヤールに騎乗したのは、44歳のベテラン・福永祐一騎手。これでダービー3勝目となった熟練の名手は、直線の心境を「冷静と情熱のあいだ」という表現で振り返った。
ハナ差で苦杯をなめた横山武騎手は秋に菊花賞、天皇賞(秋)、有馬記念、ホープフルSを制し、この年GⅠ・5勝。間違いなく、将来の日本競馬界を背負う存在として成長しつつある。2021年のダービーは、これまで積み重ねられた経験の重みと、これからの未来への期待が交錯する、そんな一戦であった。
2021年日本ダービー・全着順
1着 シャフリヤール 福永祐一 2.22.5
2着 エフフォーリア 横山武史
3着 ステラヴェローチェ 吉田隼人
4着 グレートマジシャン 戸崎圭太
5着 サトノレイナス ルメール
6着 タイトルホルダー 田辺裕信
7着 ヨーホーレイク 川田将雅
8着 グラティアス 松山弘平
9着 バジオウ 大野拓弥
10着 ワンダフルタウン 和田竜二
11着 レッドジェネシス 横山典弘
12着 ラーゴム 浜中俊
13着 タイムトゥヘヴン 石橋脩
14着 ヴィクティファルス 池添謙一
15着 バスラットレオン 藤岡佑介
16着 ディープモンスター 武豊
17着 アドマイヤハダル M.デムーロ
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