【京王杯SC】ゴール後に天を仰いだ池添謙一騎手 メイケイエールの距離適性と新たな発見

勝木淳

2022年京王杯SCのレース結果,ⒸSPAIA

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メイケイエール、重賞5勝目

木曜日午後からの雨は土曜日朝まで降り続き、総雨量22.0ミリ。競馬場がある府中市は沿岸部ほどではなかったようだが、メインの京王杯SCで良馬場は驚いた。今週からBコースになった芝は4週目を迎えてもなお絶好の状態。改めて路盤の水はけのよさを感じさせた。

京王杯SCは東京芝のコンディションのバロメーター。17年こそ重馬場で時計を要したが、18年以降はすべて1分19秒台で安定。良馬場とはいえ、雨の影響を考えると、今年の1.20.2はおよそ例年通りだ。その決着時計で勝利したのが1番人気メイケイエール。ゴール後にスタンドから自然と大きな拍手が沸き起こった。

メイケイエールはこの勝利で重賞5勝目。同世代の牝馬でJRA重賞5勝はヴィクトリアマイルVソダシの6勝に次ぐ記録。超がつくほどの個性派ゆえに、最近では珍しくファンが物語を共有できる貴重さがある。大きな拍手はその証だった。

スタート直後に外へ逸走、折り合いを欠き、制御不能の状態に陥るなど気難しさは現役屈指。馬に囲まれるとエキサイトするなど繊細な部分は裏を返せば、瞬時にスイッチが入る反応のよさのあらわれだろう。この点が東京の瞬発力勝負に高い適性を示した。

勝ってもマイルに向かわないという選択

メイケイエールについては再三、回顧で触れてきたが、1600mの桜花賞を除き、短い距離ではどんなに無茶な競馬でロスしようとも、バテたシーンがほとんどない。底知れぬ能力をどのぐらい競馬で発揮できるのか、陣営の工夫と苦労は想像をはるかに越えるものがある。

前走高松宮記念は最内しか伸びない難しい馬場で外枠から外々を通って5着。負けて強しの内容。それだけ力を発揮できたのは池添謙一騎手によるところも大きい。初騎乗だったスプリンターズSで外に逸走。池添騎手はその後も調教でコンタクトを重ね、シルクロードSで好位から正攻法で勝利。敏感なメイケイエールを手の内に入れた。

今回も再度外枠を引き、さらに距離延長。折り合いは本当にギリギリつくかつかないかという人馬の攻防が続く。ビオグラフィーの背後でなだめようと必死だった。必ずしもきれいに折り合ったわけではなく、ゴール後、向正面で馬を止めた際、ひと息つきながら天を見上げた池添騎手の仕草がすべてを物語る。

次走は安田記念に向かわず、夏休み、秋のセントウルSからスプリンターズSを目指すという。それには頷くばかり。国内短距離戦線は3月終わりから10月はじめまで間隔が長く、レース選択が難しい。京王杯SC出走はそういった面によるものだろう。しかしながら今回、追い出されてからの加速がより際立ち、瞬発力の高さを示した。新たな発見だった。

安田記念で狙いたいタイムトゥヘヴン

レースはギルデッドミラーがゲートのタイミングが合わず、大きく出遅れる波乱の幕開け。先手を主張したのはリフレイム。前半600m34.4は平均的な流れ。リフレイムはトップスピードに入ると、右前が後肢にぶつからないように右前を外側へ出すところがある。東京の直線で外へ外へ行く姿はもはや見慣れた感すらある。条件クラスはそれでもしのげるが、重賞では厳しかった。

後半600m10.9-11.3-12.2、34.4は前半とまったく同じ。4コーナー手前から坂下まで10.9と最速タイのラップで一気に加速したため、先行勢はラスト坂を上がってから苦しかった。

2着スカイグルーヴは先に抜けたメイケイエールをマークして追いすがり重賞連続2着と早くも通用のメドを立てた。1400m巧者となると、今後の選択肢は迷うところだが、マイル戦もこなせるのではないか。

3着タイムトゥヘヴンは前走ダービー卿CTに続く好走。末一手になりつつあるのは気になるものの、大野拓弥騎手とは手が合う印象。逆に末を磨いたからこそ、東京マイルはベスト条件ではないか。安田記念翌週からフランス武者修行を控えた大野騎手、安田記念はチャンスだ。

4着ワールドバローズは過去10年、前走東京新聞杯【2-3-1-0】の相性のよさがいきたか。惜しくも馬券圏外に敗れたが、これは残り100mから3着タイムトゥヘヴンに寄られ、じわじわと狭くなってしまった分だろう。ひと伸びできなかった。もう少し時計を要する馬場が理想。条件次第では夏のマイル戦線で楽しめそうだ。

2022年京王杯SCのレース展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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