【天皇賞(春)】7馬身差はイングランディーレ以来! 快勝タイトルホルダー、長期政権のはじまりか

勝木淳

2022年天皇賞(春)のレース結果,ⒸSPAIA

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キタサンブラック、フィエールマンに続く連覇へ

この春、波乱含みなGⅠ戦線。雨の影響の残る読みにくい馬場や枠順が運命を左右した。高松宮記念、桜花賞と人気馬が8枠に入り、敗戦。8枠が不吉な存在になったからこそ、天皇賞(春)も枠順発表直後からざわついた。ディープボンド、タイトルホルダーがともに8枠。またかという嘆きが聞こえる。フルゲートの天皇賞(春)、いくら3200mとはいえ、8枠が運命を左右しないかと不安が渦巻いた。

しかし、そんな心配は見事に吹き飛んだ。タイトルホルダーが2着ディープボンドに7馬身差圧勝。枠連8-8は450円。案外ついた。冷静に考えれば、長距離戦での実績はこの2頭が抜けていた。天皇賞(春)で出走中GⅠ馬(JRA・海外)が1頭というケースは86年以降5例。メジロマックイーン、ライスシャワー、マイネルキッツ、シュヴァルグラン、フィエールマン。このうちメジロマックイーン、ライスシャワー、フィエールマンが勝ち、残る2頭が2着と、連を外したことがない。伝統ある天皇盾を争うレース、それも長距離戦とくれば、枠より格がものをいった。

同じく86年以降で、菊花賞馬の天皇賞(春)制覇は18回目。このうち菊花賞を勝った翌年に勝利したのは9頭目になる。直近はキタサンブラックとフィエールマン。どちらも翌年連覇達成。タイトルホルダーは長距離王としての第一歩を踏み出した。

7馬身差は父・典弘騎手とイングランディーレ以来

タイトルホルダーのポイントは日経賞だった。春への始動が遅れた年明け初戦、和生騎手はタイトルホルダーとの折り合い、リズムをどこまで守れるか試した。その結果が後続を引きつける緩い流れ、上がり勝負に持ち込んでの勝利だった。瞬発力勝負で分が悪かったタイトルホルダーだが、日経賞を辛勝でも勝ち切った意義は大きい。本番は変化する馬場状態次第で作戦を色々変えられる。日経賞は和生騎手がタイトルホルダーと自在に立ち回る自信をつけた競馬だった。

そして本番は外回りから内回りにスイッチするコース、開催12週目、午前中降雨があった読みにくい馬場。だが、着実に先行、イン優位な状態。タイトルホルダーの作戦は決まった。菊花賞と同じく序盤突っ込んで入り、後続を離し、中盤で息を整え、ロングスパートに持ち込む。和生騎手の作戦は見事であり、タイトルホルダー自身も長距離戦の走り方を心得ているように、中盤にあたる正面スタンド前から1、2コーナーにかけて自ら息を入れた。

最初の1000m1.00.5、中盤1000m1.03.1。後ろが動きたくても動けない地点をゆったり走り、罠にはめ込む。最後の1000mは12.0-11.9-11.5-11.7-13.2。残り600~400m11.5で大半の馬は追走一杯、ついてきたディープボンド、テーオーロイヤルを次の11.7で振り切った。着差7馬身差は、天皇賞(春)では04年イングランディーレに並ぶ大きな差。そのイングランディーレも逃げ切り、鞍上は和生騎手の父・横山典弘騎手。天皇賞(春)親子三代制覇。横山家の遺伝子、恐るべし。

ディープボンドのジレンマ

2着ディープボンドは明らかにタイトルホルダーを射程圏内に入れながらの競馬。好位4番手は間違いないポジション。こちらもスローの阪神大賞典を勝ち、スタミナ一辺倒ではないことを証明。タイトルホルダーをとらえる自信はあったはずだ。

しかし、いつものように勝負所で手応えが悪く、3コーナーでテーオーロイヤルに外に弾かれ、先へ行かれてしまい、4コーナーではタイトルホルダーに離されてしまった。テーオーロイヤルを差し返し、タイトルホルダーとの差を縮められたのは最後の200m、13.2の地点。昨年も同じラスト200m13.0でもう一度食い下がったように、ライバルがいちばん苦しいところで差を詰めるあたり、スタミナは相当ある。

一方でタイトルホルダーのように強靭な心肺機能を持ち、レースの流れを支配できる馬に勝つのは至難。どうしても相手の土俵で相撲を取らなければならない立場。競馬でこれを逆転するのは容易ではない。また、天皇賞(春)前年2着馬のリベンジは思いのほか厳しく、成就させたのは83年アンバーシャダイ1頭。2年連続、それも前年を上回るというのは、息長く活躍できる長距離といえどもGⅠでは難しい。

3着テーオーロイヤルはディープボンドからさらに1馬身離された。とはいえ、3コーナーでインから進出、ディープボンドを弾き、4コーナーではタイトルホルダーに並びかけようかという場面があった。この脱落戦でタイトルホルダーを負かしに行った気概は高く評価したいところ。強気ゆえに最後は一杯になり、ディープボンドに差し返されての3着たが、これはタイトルホルダーに並ばんとした攻めの姿勢の結果。堂々とした競馬だった。はじめてのGⅠ挑戦、前走から斤量4キロ増の58キロ、そういった背景を考えても大健闘。自身の能力を証明した。

ダイヤモンドS勝ち馬の同年天皇賞(春)挑戦は、これまで15年フェイムゲームの2着が最高。テーオーロイヤルの3着はこの記録とそん色なし。今回の経験を経て、次が楽しみになる存在。レース選択は難しくなるが、スタミナが問われる流れなら中距離も十分戦えるだろう。


2022年天皇賞(春)のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。


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