【中山牝馬S】緊張感あるペースが生んだ持続力勝負。今年はVマイルに直結!

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逃げるのはどの馬か
ここ2年、中山牝馬Sは不良馬場で行われ、馬場に恵まれなかった。その2年、1、3着のフェアリーポルカ、昨年2着ロザムールは今年、13、14着。反面、昨年12着アブレイズが2着。馬場の変化だけがこの結果をもたらすほど競馬は単純ではないが、桜も散るころ、新緑の季節を思わせる気候のもと、良馬場で行われた今年は、問われる適性がここ2年とは正反対だった。
注目は先行争い。上記ロザムールの好走パターンは七夕賞2着など逃げたとき。中山金杯でロザムールを制してハナに行ったシャムロックヒルはマーメイドS逃げ切りVがある。この2頭は戦前のコメントでは番手に控えてもというニュアンス。逃げ宣言は同舞台のディセンバーSを逃げてあっといわせたローザノワール陣営から出た。決まった枠順は内からロザムール、シャムロックヒル、ローザノワール。1コーナーまで距離がない中山芝1800mでは枠の並びはポイントだった。
1000m通過1.00.2以上に厳しい流れ
実際にハナに行ったのは最内ロザムール。コメントとは裏腹に初ブリンカー着用、腹は決まっていた。番手にシャムロックヒル、3頭でもっとも外に入ったローザノワールはベテランの田中勝春騎手騎乗。状況を判断し無理せず控える形になった。そこに抑えるためにメンコを着用したスマイルカナが加わる。
隊列はすんなり決まったものの、追いかけるシャムロックヒルらはロザムールがペースを落とせば、すぐさまハナを奪い返しに来る気配を漂わせ、先行集団は緊張感のなかレースを進める。互いがけん制、プレッシャーをかけあう流れは前半1000m通過1.00.2という数字以上にタフだった。スタートして400~800mこそ12秒台だったが、その後はゴールまで11.8-11.6-11.5-11.7-11.8と1000m連続11秒台。先行勢は3、4コーナーでペースアップするのが精いっぱいだった。不良だったここ2年は道悪を走るタフさが要求されたが、今年はスピードを持続させるスタミナが必要だった。
3着ミスニューヨークは流れを考えれば、先行集団のインから抜け出し、一旦先頭と強い競馬だった。ただ、ターコイズSのように後方から直線一気が持ち味の追い込み型。あえて先行させてインに控えたのは裏目ともいえる。ついていない。とはいえ、大味な競馬で流れ次第の他力本願タイプが厳しい流れを利用して、好位から安定した競馬を試み、3着と好走できた点は次走以降に向けて明るい材料といっていい。まだまだ重賞タイトルを狙える。
求められたのはマイル適性
そのミスニューヨークを目標に差してきたアブレイズは3歳時のフラワーC以来の重賞好走。中山芝1800mの厳しめの流れが合う。当時も今回も12番人気。買いどころが難しい。緩みのないペースで好走できたならば、マイル戦も面白いのではないか。デビュー以来一貫して中距離にこだわっており、ペースが緩まないマイル戦に活路を見出すという選択肢は残っている。
これら2、3着の攻防をゴール前、ひと飲みにしたのがクリノプレミアム。15番人気の激走は荒れる中山牝馬Sらしい。アブレイズとは対照的にこちらは1400~1600m中心。3勝クラス突破は新潟芝1600m逃げ切り勝ちだったが、今回は中団の外に控えて差してきた。緊張感漂う先行集団に加わらず、残り600m、仕掛けのタイミングも絶妙だった。
全体的に苦しい持続型ラップのなか、最後の急坂で伸びたあたり、京都金杯5着の近況通り。1400mの流れに乗れなかった京都牝馬S16着で見放してしまったのは早計だった。19年ウインブライトの中山記念以来の重賞Vを飾った松岡正海騎手の流れに応じた位置取りの押し引きが目立った。昨秋復帰後は波に乗れないところもあったが、この勝利で弾みをつけてもらいたい。
マイルに適性があるクリノプレミアムの勝利はこのレースの流れが中距離よりマイル寄りだったひとつの証。ルビーカサブランカやドナアトラエンテ、クールキャットなど中距離型はみんな掲示板を外したが、適性を考えればやむをえない。中距離で見直したい。一方で、マイルに近い持続力勝負になったことで、上位好走馬はヴィクトリアマイルにつながる可能性がある。昨年勝ち馬ランブリングアレーは次走GⅠ2着。今年も軽視しないほうがいい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。
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